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誕生日

 Facebookから通知が来た。通知なんぞ無くても今日が彼の誕生日だと言うことは嫌でも承知している。悩みまくっていたのだから。

誕生日に何か贈りたい

 彼の実家に〈私が彼と一緒に食べたくて〉笹団子を送ろうとしてポチッとな。そこまでして止めた。送ってしまえば来年もまた悩むだろう...。
 ふくよかな笹の香りをまとった笹団子はきっと彼も気に入るだろう。食べ物の至上のエッセンス「香り」を堪能できる彼に、いろいろ食べさせて反応を観察するのが大好きだった。
 評論家のように饒舌でもなく、グルメという世界線でもなく、素直に嬉しそうな目をして大きなひと口でぱくつく姿は言葉以上に雄弁であった。

しかし、待てよ

 私が彼の実家にプレゼントを送ったとしても、たぶんお母様は「困ったわねぇ」と言いながらも仏前に供えてくださっただろう。
しかし、待てよ!.… 彼に届けるのにこの方法をとってしまったら、毎日「一緒に食べよう!」とご飯を食べている私は誰とご飯を食べているのだろうか???
おはよう。いってきます。ただいま。---ここにいるんじゃないの???

 お仏壇にだけ居てもらっては困るのは私の方だった。一緒にいて欲しいと願い続けているのに、誕生日だからとお仏壇に行かれては留守番状態になってしまう。こんな考えてもしょうがないことをずっと考えて過ごしていた。

ハンガーラック

どうしてそーなった!

 そして、笹団子はハンガーラックに化けた。もう数ヶ月に渡って買おうか悩み続け、アマゾンなら安くなる時期があるハズだと待ち続け、その間に2連続値上げからのちょこっと値下げになった。要するに、とっとと買えばもっと安かった。軽く無念である。

 仕事帰りに「今、彼が喜ぶモノって何だろう?」ってふと思ったのだった。ふと思ってしまったタイミングが悪かったのかも知れない。ブラックな私が思考を支配していたのかも知れない。

 彼が喜ぶモノって私が喜ぶモノだよね。私達はどれだけ相手を喜ばせられるかを楽しんでいたのだから。だったら彼の誕生日に私が喜ぶモノを買えばいいんじゃないか!>断定
というおめでたい運びでハンガーラックをポチッとな。
彼の誕生日の今日、ちゃんと届いた。

記念日反応

 グリーケア関連の本を読んで覚えた言葉。故人にまつわる特定の日時に反応して気分が落ち込む心的反応。
 どこが〈落ちている日〉なのかすでにわからないので、とりあえず今日は仕事のミスをしないように気を張っている。前半3時間の勤務では同僚が「んん?」といいながら私の凡ミスに気がついて修正してくれた。
後半の5時間勤務も気を抜かずにクリアしなければ。

 落ちている気持ちをどうしようと考えずに、注意力が散漫になっている事による弊害に気をつけようとする思考が死別から1年目と2年目の違いなんだと気がついた。
「なるほどですね!」
彼の営業トーク中の変な日本語が脳内で蘇る。

2年目になると、悲しみが薄らぐわけでもなく大事な日々の思い出が色褪せるわけでもない。ただ少し悲しみを横に押しやる場所ができ、少し自分を甘やかす術が身につくのかも知れない。


業務連絡

 ハンガーラックありがとう!少しこの部屋には大きすぎるから、高さをカットして、あの時買った着物を解いてカーテンを付けてみようと思うの。
笑えるよね。絶対君はハンガーラックなんて買わないよね。
君の服はいつも段ボール箱と紙袋、あとは私がダンボール箱で作ったタンスに入っていた。いつも「俺はコレで満足だ」といって絶対に衣装ケースすら買わなかったのに。

 君の誕生日は〈幸せな日〉のハズなのに、乗り切らなければならない日になってしまっているのが嫌なんだ。

しかし、私はまだ笹団子を諦めてはいないんだよ!絶対に君も気に入ると確信しているんだ。残念ながらココの地元の名物ではないのだよ...。

暇でしょ?時間あるんでしょ?ちょこっと新潟行ってきなよ。
お土産楽しみにしているよ!笹団子は粒あんにしてね!ちまきも!あと笹飴も買って来てほしいの。
 お土産で欲しい物を全部リクエストできる相手は君しかいないよ。大好きだからわがまま言っていいんだよ。私が君に言うのだから。

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