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夏の空

 寝る前に「朝4時20分に起きる」と3回唱えてから寝る。
少し開けておいたカーテンの隙間から空模様を伺う。薄曇りといった様相に納得せずにググる。夏至は6/21だったんだ。

朝起きると空が薄暗い事にここ数日気になっていた。8月の上旬なんてものは、これから何日もクソ暑い日が続く、まさにこれから夏本番!という時期だと思っていた。

早朝6時半の世界線では、日の出時刻が30分も遅くなり夏至には6:30だった日の出が7時になっていた。8月初旬に夏が過ぎ去るのを感じる日が来るとは思わなかった。寝坊助の私が50数年間知らなかっただけで当たり前の事だった。

朝の退勤

 そんな事を感じて出勤したのに9時に退勤する時の空はクソ暑い夏の日だった。夏が去るのかこれから本番になるのか戸惑いを感じながら、嫌でも思い出すお盆の存在

彼の誕生日に今年は彼の実家に何も送らないと決めていた。

夏の終りに感じるだろう後悔と〈だが今なら間に合う夏本番〉を実感してしまったので、さよなら私の日傘予算と思いながら彼の実家に笹団子を30個送った。30個あれば何があっても足りるだろう。あの家の冷凍庫がデカイのは知っている。冷凍ストッカーもあるのも知っている。娘さんが餡こ好きなのも。もちろん自分用にも10個別送で購入。さよなら日傘.…

笹団子

 私の子供の頃は今のようにいろんなお菓子が溢れている訳でもなく、専業主婦も多かったのか親子でクッキーを焼いた話なども小学校で耳にした。
何が気に食わないのかそんな話を母は毛嫌いしていた。

 そんな子供の頃に何回がお土産で笹団子を食べたことがある。芳しい笹の香りが子供心にも幸せな気持ちだった。

彼の味覚の判断基準の1つに「香りの優先度」があった。〈お前は鼻で食事をしている〉と良くわからないことを言われていた。どう考えても燻製屋なんぞ、香りを纏わせて美味しい!という商売をしていたのだから、彼も鼻で食事をしているのである。

 日々の食費優先でお取り寄せの余裕がなかったので先延ばしにしていながらも、私は彼に笹団子の美味しさを説いていた。熊笹の葉の香りの素晴らしさを熱弁している私に、頭と目に???を浮かべた彼が尋ねた。
「それってヨモギ餅だよね?」
目からうろこだった。知らなかった。熊笹が練り込まれているもんだと信じていた。大笑いする彼に「え~!でも!だって!」と現実を受け入れられない私の大騒ぎ。そんなアホな日常の1コマの笹団子。
だから食べさせたかった。一緒に食べたかった。

お母さんからのLINE

 ご無沙汰の挨拶から笹団子のお礼、彼の3回忌の日取りとか未だに彼に話しかけて涙する日があると。

 すぐにお仏壇に!と思ったけれど冷凍だったから解凍中で、私も食べたくて自分用も解凍中だと。やっぱり親子だわ。あの彼のお母さんだわ!

確かに知らなかったとはいえ、十数年息子の商売を一緒にしていた私の存在、息子の他界と共に無職になり住む場所も失ったとなれば行く末を心配させてしまっているのだろう。
 私からの夏ギフト1つで、お母さんは私の安否確認ができて、彼はお母さんの心配事を1つ消し、お母さんの美味しい顔を見ることができる。

自分が贈りたくないとかではなくて、それで彼が安心できるという新しい視点ができた。必ず送るとか、もう送らないとか決めるのは止めよう。もうちょっとゆるゆるに何も決めないことを決めよう。

 「一気に2ついただきました!」とお返事が来たので安心した。絶対に君も気に入るよ。

日傘

 日傘ぁ~....。この買いたいのに手を出せずにぐずぐずしている時に彼を感じる。日傘1本が3千円だの5千円だの1万だの言っても、彼は目を点にして「信じられん!」と言うだろう。
 UVカットだとか言った所で、遮光率とUVカット率の違いやら、雨傘のUVカット率やら丁寧に説明してくれるだろう。

理系の良いところは、理路整然とそれでも日傘が優れている点を理屈で攻略すれば全面降伏してくれるところ。逆を言えば理屈が通らなければ絶対に折れない。話し合う余地がない平行線の世界。

最後は「そんなに欲しいなら買えばいいじゃん」から手にして喜んでいる私を見て「良かったじゃん」って言ってくれるまでがワンセット。

 彼はもう何も言わないのだから、勝手に買っちゃえば済むのに、この一連の流れを一人で脳内で繰り広げている。これは何なんだろう.…。

業務連絡

 笹団子がハンガーラックになったのに、日傘が笹団子になったよ。
会社のみだしなみチェックリストを君と見ながらおしゃべりしたいよ。作業員とデスクワークも窓口も同一のチェックリスト。

 汗をかかずに出勤して、髪を乱さずに退勤する命題に取り組んでいるのだよ。制汗スプレーやらあれやこれや、君と暮らした10数年で買った数より多くのグッズが揃った。働き詰めで引き篭もりしていた私達なのに笑ってしまう。苦笑いしているのは知っている....。だがな、君のせいなんだよ。
私だけは君を責めてもいいんだもん。
 



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