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死別を受け入れるまで 3.罪悪感

 あらゆる罪悪感を感じていた。
朝、目が覚める。何で私は健康で目が醒めたのだろう。お風呂に入れば気持ちいい。ご飯を食べれば美味しい。誰もが日常で快適だと思うことすら忘れる事で罪悪感を感じる。
 罪悪感を伴って食事をしても味気なく食事の量が減る。そもそも始めの数ヶ月はお腹が減るという感覚を忘れていた。お腹が空いていないのにお腹が鳴るのは何故だろう?と不思議に思っていた。「何か食べなきゃいけない」と思っているので無理して食べていたけれど、おにぎり1個で1日動けるのだから足りているような気になってしまっていた。中年太りが解消できるなら丁度いいしと考えていた。

痩せた

 ザックリ10kg程痩せた。婦人服とは面倒なもので10kg痩せると下着すらサイズが合わなくなる。そして生活が整い始めると食事をするようになる。しかし胃はそれなりに小さくなったようだ。痩せるのが止まったのに太らない。BMI=20 標準体重である。健康であるだけで罪悪感があったのに、まさかの標準体重。最悪だ。私が標準体重になってどうするんだと。

 ここ20数年間は作業服で仕事をしていたので、お勤めに行ける服を買わなくてはならない。この自分のものを買うのも当然のように罪悪感を感じる。
洋服、靴、カバン。ボサボサの髪の毛も手入れが必要だ。
身なりが整えられても、一番に見せてあげたい人がいない。内心は身なりなんてどうでもいいのである。彼のおじいちゃん姿を見たかったし、一緒におばあちゃんになりたかったので、綺麗になる必要性なんてどこにも無い。

リクルートカバン

 面接に行くためにA4が入る黒か紺色の安っぽくないカバンが欲しかった。「なんか安くていいの無いかな?」と息子に聞いたときに「いらないじゃん。そんな1日だけのためにカバンって必要なの?」と言われた。
 現代っ子恐るべし!と思ったものの、彼はそんなに若くもない。よくよく考えると一理ある。

この一言で、再就職しなきゃ、正社員にならなきゃ、稼がなきゃ!という頭の中の固定観念が少し崩れた。正社員限定をやめてパートにも目を向けた。
もしかしたら、私は心配してくれている方を安心させるために正社員になりたかったのかも知れない。この部分の罪悪感はかなり薄れていった。

結局リクルートカバンを買わずに紺色のリュックサックを買った。面接もそれで行ったし、日頃のお買い物にも大活躍している。

おまけ

トップの写真。右側の時計は彼と暮らしていた時に買った。これと一緒にアナログの目覚まし時計も買った。商工会で特産品を製造している業者が揃って遠くまでマイクロバスで売りに行く時に、彼は「俺が運転していきますよ」と請け合い、寝過ごし、皆が出発した後から一人で自分の車で追いかけたという笑えない話だ。「目覚まし時計買って首から下げておけ」と叱られた時に1つじゃ心配で2つ買ったのだ。
 右側のは再就職が決まって先日購入した。2つも目覚ましは要らないのだけれど、彼との時間を刻んでいる時計を新しい生活に使いたくなかった。
 死別するという事は、季節の変化も含めて〈何かが変わってしまう事〉がとても怖く感じることがあるんだなと思う。


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