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海に沈む第7の大陸

オジさんの科学vol.068 2021年8月号

 コロナ禍で、東京五輪のほとんどは無観客だった。パブリックビューイングも中止になった。元々チケット全滅のオジさんは、家呑みしながらテレビで観戦した。
 オリンピックを「五輪」と2文字で最初に表記したのは、1936年の読売新聞だ。当時記者だった川本信正氏は、誌面を編集する整理部から短く略せないか、と相談を受けていた。菊池寛が書いた宮本武蔵の『五輪書』の一文に触れ、発想を得たという。 マークだし「オリン」と語呂が合うと思ったそうだ。短い文字数で簡潔に記事の内容を表す新聞の見出し。五輪は次々と各紙に使われるようになった。

五輪ピック②

 5色の輪は、「世界にある5つの大陸を意味している」といわれる。ヨーロッパ、アジア、アフリカ、アメリカ、オセアニアの5つだ。学校では、ヨーロッパとアジアを合わせてユーラシア大陸、アフリカ大陸、南北アメリカで2大陸、そしてオーストラリア大陸と習った。さらに、世界にはもう一つ大陸がある。南極大陸だ。五輪の旗の地には、もう一つの白い輪が隠れている。ウソです。
 この6つ以外にも大陸が存在する、という説がある。
 そして、その7番目の大陸は、海の底に隠れているそうだ。まるで伝説のムー大陸やアトランティス大陸のようだ。

 大陸の名前は、「ジーランディア」。ニュージーランドの周辺に位置し、陸上部分はニュージーランドの他にニューカレドニアなどが含まれる。面積は400万~490万㎢、90~94%は海中にあるとされる。世界最大の島であるグリーンランドの2倍程、日本の10倍以上の面積になる。ちなみに、オーストラリア大陸は769万㎢。

ジーランディア④

 大きな陸地で大陸。しかし陸地は、海水面によって変動する。例えば氷河期には、海水面が今よりもずっと低かった。シベリアとアラスカは地続きでベーリンジアと名付けられている。タイ、マレーシアからインドネシアにかけての海底は、スンダランドと呼ばれる広大な平野だった。

 地質学的には、大陸についての明確な定義はないそうだ。しかし、地球を覆う「地殻」は「大陸地殻」と「海洋地殻」の2つに分けられる。6大陸は全て大陸地殻、海底のほとんどは海洋地殻である。
 超大雑把に考えてみよう。
 先ず、地球の構造を思い浮かべて欲しい。地球の中心には「核」がある。そのまわりに「マントル」があり、表面を地殻が覆う。ここでは、海の水が干上がっているという事にしよう。ついでに表面の地殻も剥がしておこう。

 次に、氷が浮かぶ酎ハイの大ジョッキを想像して欲しい。まだ、飲んではダメです。氷を取り出して、はんぺん(無ければマシュマロでも可)をちぎって酎ハイに投入してみよう。軽いはんぺんは、氷よりずっと高く浮くことが分かる。

 これと同じことが、地球の表面でも起こっている。酎ハイがマントル、氷が海洋地殻で、はんぺんが大陸地殻。
 海洋地殻と大陸地殻をマントルの上に浮かべる。氷とはんぺん程の差はないが、重い海洋地殻部分は低く、軽い大陸地殻部分は高くなる。

大陸地殻と海洋地殻Ⅰ

 全ての地球表面をどちらかの地殻で隙間なく覆う。そして改めて海水を注ぐ。海洋地殻の部分は海面下に隠れ、大陸は頭を出す。大陸地殻は、海洋地殻よりも厚いので、その分更に高くなる。
 海洋地殻は黒っぽい「玄武岩」で出来ており、大陸地殻を形成する「花崗岩」は白っぽい。

 逆に言えば、花崗岩でできていれば大陸地殻、玄武岩で出来ていれば海洋地殻という事になる。ニュージーランド周辺の海底を調べたところ、広範囲にわたって白っぽい花崗岩が広がっていることが分かった。太平洋の真ん中にあるハワイ諸島は、玄武岩で出来ている。

 かつてジーランディアは、6月号に登場した超大陸パンゲアの一部を成していたと考えられている。オーストラリア大陸や南極大陸と地続きだったようだ。大陸分裂後に何らかの原因で、ジーランディアは横に引っ張られ、大陸地殻が薄くなった。そのため、標高が低くなり、海が被ってしまったと考えられている。

大陸地殻と海洋地殻Ⅱ


 何故ジーランディアは、薄くなってしまったのか。海洋研究開発機構(JAMSTEC)は、地球深部探査船「ちきゅう」によって海底を掘削し、詳しいメカニズムの解明を目指すそうだ。

 五輪に南極大陸とジーランディアを加えると七輪になる。
 次は北京五輪だ。コロナ禍が収束すれば、オジさんたちは、溝の口の線路脇の居酒屋のテレビで観ているかもしれない。熱燗を傾け、七輪で干物やはんぺんを炙りながら。

<参考資料>
書籍
『海に沈んだ大陸の謎』  佐野貴司  講談社ブルーバックス
『図解プレートテクトニクス入門』 木村学/大木勇人 講談社ブルーバックス

WEB
「オリンピック」を「五輪」と表記したのは誰? 日経電子版 2012.07.24
ニュージーランドは第8の大陸、研究者が提唱 ナショナルジオグラフィックニュース 2017.02.22
古代超大陸の陸塊が見つかる、ニュージーランド ナショナルジオグラフィックニュース 2021.08.03
失われた第8の大陸はあったのか? 最後のピース発見 ナショナルジオグラフィックニュース 2021.08.23
海底に沈んだ“幻の大陸”を調査せよ! 世界の科学者を悩ませる「ジーランディアの謎」が熱すぎる 山田 泰広(国立研究開発法人海洋研究開発機構)文春オンライン 2020.10.04
国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTIC)ホームページ 「動くプレートと、失われた7つ目の大陸『ジーランディア』」「ロードハウライズプロジェクト」

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