見出し画像

新発見は、キラキラネーム?

オジさんの科学vol.087 2023年3月号

 大相撲春場所の中継を眺めていたら、取り組み表に「天空海」という四股名を見つけました。「テンクウカイ?」ひょっとして「アクア?」。アクアでした。調べてみると「宇瑠寅(ウルトラ)」や「豈亜(ガイア)」という力士もいるようです。角界にもキラキラネームがあるのですね。

 そこで突然思い出したのが、「ヨコヅナイワシ」。
2021年に海洋研究開発機構が名付けました。勿論力士じゃないし、イワシでもありません。体長が138cm、体重が25kgもある深海魚です。元々「セキトリイワシ」という深海魚が知られていました。こちらは大きくとも体長35cm程度。その巨大な仲間なので、この名前を付けたそうです。セキトリイワシは、私たちがいつも食べているイワシとはまったく違う魚で、不味いとのこと。額の形が関取っぽいから、との説明も見かけましたが、よく分かりません。

 新発見の生物や事象には名前が付けられます。そこで今回は、近年発表されて「おっっ!」と思った名前をご紹介したいと思います。

ゴジラメガムリオン

 何だか、やたらかっこよくありません?これ、太平洋の海底地形に付けられた名前です。『シン・ゴジラ』でも、ゴジラは太平洋から出現しました。

 2022年、海上保安庁は、世界の海底地形名を標準化するための国際会議で承認された、と発表しました。
「メガムリオン」とは、海底に大きな断層が出来て、マントル物質などが露出したドーム状の高まりのこと。その表面に畝状の構造を持ちます。まるでゴジラの背中の様です。
 ゴジラメガムリオンは、2001年に東京から約2,000km南、沖ノ鳥島南東方の水深数千mの海底で発見されました。大きさは、約125 km × 55 km、東京都の面積の約3倍。地球上最大のメガムリオンです。そして、その巨大さから、ゴジラの名が引用されたそうです。

 ここから、本来地中深くにあるマントル物質などを採取することにより、フィリピン海プレートの形成過程の解明が進むと期待されています。現在、名古屋大学と産業技術総合研究所、海洋研究開発機構の研究チームが、掘削計画を進めています。

ゴジラの次は、キングギドラ。

キングギドラシリス

 2022年、東京大学や新潟大学、名古屋大学、琉球大学、ドイツのゲッティンゲン大学、スペインのマドリード自治大学の国際研究チームが、佐渡島の近海で発見した新種の生き物に名づけました。
 ゴカイやミミズ、ヒルなどの仲間の環形動物。大きさは約3cm、ちっちゃなキングギドラです。水深十数mの岩場に付着した、スポンジ状の生き物「カイメン」の体内に寄生していました。
 身体が幾つにも分岐していることから、キングギドラに因んだとのことです。

 通常、動物の体は、頭から尾にかけて一つの体幹の軸があり、左右対称になっています。体幹が分かれた動物は、極めて珍しいとのことです。キングギドラシリスの発見は、どうして動物が左右対称に進化したのか、を解く手がかりなるかもしれないということです。

怪獣に続いては、アニメ。

エウブロンテス・ノビタイ

 vol.067 2021年7月号で取り上げた恐竜の名前です。
 2021年に、中国のドラえもんファンの中国地質大学の研究者によって新種の恐竜に「のび太」にちなんだ名前が付けられました。
映画「ドラえもん のび太の新恐竜」(2020年公開)で、のび太が恐竜に「ノビサウルス」と名付けるシーンがあったことから、「のび太」にラテン語で人名を示す「イ」を付け、「ノビタイ」と命名したそうです。
ノビタイは、体長約4mの肉食恐竜だったと考えられています。

最後は、化け物?

マモノウイルス

 かつて、子どもに「悪魔」という名前を付けようとした騒動がありました。家庭裁判所まで持ち込まれ、最終的には親が名前を変更して届を出し直しました。ウイルスの場合は、問題ないのでしょうか。

ウイルスといえば、小さいものの代表の様なもの。細菌は理科室にあるような光学顕微鏡でも見えるが、ウイルスは小さすぎて絶対に見えない。これが常識でした。ところが近年、光学顕微鏡でも見える巨大ウイルスの発見が、相次ぎました。そのような巨大ウイルスを研究している京都大学、東京理科大学、生理学研究所の研究チームが、2023年に「マモノ(魔物)ウイルス科」という巨大ウイルスの分類を提案しました。

 研究チームは、2019年に発見した新種の巨大ウイルスの進化系統的な分析を進める中で、新たな分類の提唱に至りました。ちなみにその巨大ウイルスの名前は「メドゥーサウイルス」。アメーバに感染し、その細胞を「固くして眠らせる」そうです。

 ゴジラメガムリオンは、国際水路機関とユネスコ政府間海洋学委員会が共同で設置する「 海底地形名小委員会」によって認められました。キングギドラシリスのような生き物の場合は、国際命名規約に則り、論文などで発表します。恐竜も同じです。マモノウイルスは「国際ウイルス分類委員会」に対して提案をおこなっています。
 命名には、ルールがあるのです。
 来年、日本人の命名ルール「戸籍法」が改正され、社会で一般的に認識されている読み方や意味でなくてはならない、という基準が出来るようです。

ピカチュウウミウシは愛称です。
ウデフリツノザヤウミウシといいます。

や・そね

<参考資料>
プレスリリース
・「新種の巨⼤深海⿂「ヨコヅナイワシ」を発⾒〜駿河湾深部に潜むアクティブなトップ・プレデター〜」
2021年 1⽉ 25⽇ 国⽴研究開発法⼈海洋研究開発機構
・「日本提案の海底地形名が国際会議で承認」 2022年1月6日 海上保安庁
・「海底地形にゴジラの名前 ~フィリピン海プレート上の巨大メガムリオンの掘削実現に向けて前進~」
2023年2月28日 名古屋大学、産業技術総合研究所、海洋研究開発機構
・「体が分岐する環形動物の新種発見:佐渡島のキングギドラシリス」
2022年1月20日 東京大学、新潟大学、名古屋大学、琉球大学
・「ヒストン遺伝子を全セット持つ巨大ウイルスの発見 ―DNA関連遺伝子のウイルス起源に新たな証拠―」 2019年2月13日 京都大学、東京理科大学、生理学研究所、東京工業大学
・「メドゥーサウイルスの正式な分類の提唱―マモノ(魔物)ウイルス科メドゥーサウイルス属―」
2023年2月28日 京都大学、東京理科大学、生理学研究所

WEB
・海上保安庁海洋情報部ホームページhttps://www1.kaiho.mlit.go.jp/GIJUTSUKOKUSAI/KENKYU/index.html#topic3
・新潟大学佐渡島臨海実験所ホームページ
https://www.sc.niigata-u.ac.jp/sc/sadomarine/marinelife/kingugidorasirisu.html

新聞
・日経新聞 2021年7月9日  「のび太」にちなみ命名 中国で新種の恐竜
・東京新聞  2021年9月15日 中国で新発見の恐竜の名前は「ノビタイ」 命名した研究者「私も昔、のび太だった」 ドラえもん映画の一場面から着想
・日経新聞  2023年2月2日  全国民の戸籍、読み仮名記載へ 命名に一定ルール 法制審案、基準は「一般に認められる」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?