アイディアが浮かばない

優秀な人たちと一緒に仕事をする時、 あなたはアイディアが出なくなっているかもしれない

オジさんの科学vol.050 2020年2月号

 わたしたちは、様々な場面でアイディアや提案を求められます。
 プレゼンに向けてのブレストや新商品の企画会議、新規事業に関する意見交換会、商店街イベントの出し物の検討会などなど。グループウェア、クラウドなどを活用することもあります。
 優秀なメンバーと一緒なら、より良い企画ができる。仲間のアイディアに触発されて、自分の発想も広がると思っていました。

 ところが、今年1月東京大学の研究チームから「クリエイティブな仲間は自分の創造性を妨げる?」というリリースが出されました。

アイディアが浮かばない

 研究チームは「対象者のソーシャルなネットワーク構造が開放的であれば、創造性の高い情報共有者の存在がイノベーションにポジティブに作用することがわかりました。しかし逆に、対象者のネットワーク構造が閉鎖的な場合には、情報共有者の創造性がネガティブに作用してしまうことが明らかになりました」と発表しました。

 こういうことだと思います。
 あなたは、グループの仲間たちと一緒に企画やアイディアを考えています。その中に、良いアイディアをたくさん出すクリエイティビティの高い人がいるとします。
 グループが開放的な場合、その人はあなたに良い影響を与えます。あなたからも、良いアイディアがたくさん出るようになります。
一方で閉鎖的なグループの場合、あなたからは良いアイディアが出なくなるのです。
 閉鎖的なネットワークとは、メンバー間で同じ情報を共有している度合いが高いことを指します。つまり、よく知った同士のグループは閉鎖的ということになります。

200218ネットワークのイメージ図

 開放的なグループでは様々な情報がもたらされるため、良いアイディアが生み出されます。逆に閉鎖的だと無駄な情報がダラダラと流れるため、悪い影響が出ることは判っていました。
 さらに、クリエイティビティの高い人は、有力な情報源として他の人に良い影響を与える傾向があることも知られていました。
しかし、この二つが相互にどう関係するかは、解っていませんでした。

 研究チームは、米国のパソコンメーカーであるデルの「アイディアストーム」というウェブサイトを使って検証しました。
アイディアストームでは、一般のユーザーたちが互いにデルの商品開発やサービスに関して自由に情報を交換したり、アイディアを提案したりすることができます。そのアイディアは、デルの専門家チームによって有効性が評価されます。

 6,333名のユーザーと2,213,782件のデータが分析されました。
 ネットワークの開放性と情報共有者の有効アイディア数の組合せが、各対象者が提出する有効アイディア数にどう影響するかを調べました。

 開放的なネットワークの場合は、情報共有者が提出した有効アイディアが多くなるほど対象者も多くの有効アイディアを提出できていました。
一方で閉鎖的なネットワークの場合、情報共有者が提出した有効アイディアが多くなるほど対象者が提出する有効アイディアは減少しました。

グラフ

 オジさんは、こんなケースを想像しました。
 閉鎖的なネットワークに居る人の場合・・・・。
ケース①
  わたしのチームには、優秀なクリエイティブディレクターが居ます。チ
 ームは結束力が強く、いつも同じメンバーで仕事をしています。クリエイ
 ティブディレクターの意見に従っていればよい仕事ができるので、とても
 安心です。
ケース②
  課長は論理的だし、素晴らしいアイディアをどんどん出してきます。ボ
 クが思いつくのは、課長の二番煎じの様な案ばかりです。どうせ論破され
 て採用されません。提案するだけ無駄なのです。
ケース③
  ウチの商店街には老舗が多く、のれんを守っています。時々若い奴が、
 商店街の活性化について提案をしてきます。でも、何を言っているかさっ
 ぱり分かりません。伝統を無視したことを言ったりします。そんな時は、
 やっぱりこれまで通りのやり方が一番だと思います。

 これが、開放的なネットワークだとどうなるのか・・・。
ケース④
  わが社では仕事毎にチームを組みます。その都度リーダーもメンバーも
 異なります。皆さん優秀な方々なので、いろいろなやり方が学べます。別
 のチームで学んだやり方をぶつけることにより、新しいアイディアが生ま
 れることもあります。
ケース⑤
  社内横断プロジェクトに、営業はボクだけです。必ず意見やアイディア
 を求められます。だから下手な鉄砲数撃ちゃ当たるで、とにかく提案しま
 くらないといけません。他のメンバーに負けないように、がんばります。
ケース⑥
  今回の商店街活性化検討会は、様々なメンバーで構成されています。
 我々商店主だけでなく、馴染みのお客さんや、いつもはスーパーに行って
 いる人たち、市役所の人やコンサルの先生、小学生にストリートミュージ
 シャン等々。いろんなアイディアが出てきます。

 閉鎖的ネットワークでも、有効なアイディアが続出する場合があるのでは・・・・。
ケース⑦
  いつものオジさんたちの集いは、他人の話が耳に入らぬほど自由闊達で
 す。経済の活性化策からスイング理論まで、様々なアイディアが飛び出し
 ます。残念なのは、それを誰も次の日まで覚えていないことです。
                       2020.02.21 や・そね

<参考資料>
プレスリリース
 東京大学(2020)『クリエイティブな仲間は自分の創造性を妨げる?~イ
 ノベーションとネットワーク構造の少し複雑な関係~』

<バックナンバー>
2016年
1月号  世界一のシマシマ
2月号 夢を操る
3月号 指で潰せる最強生物
4月号 腰痛は愛から
5月号 働くオジさん
6月号 鬼門の先
7月号 ネコはおしゃべり
8月号 世界のタムじいさん
9月号 台風七番勝負
10月号 見えてます
11月号 ヒトの脳は大雑把が得意
12月号 謎解きDNA
2017年
1月号 旧石器時代最先端技術博レポート
2月号 がんばれベテルギウス
3月号 ヒトのカラダは倹約上手
4月号 ボクが鳥を恐がるわけ
5月号 恐竜からヤキトリ
6月号 「ハンバーガー」と「かば焼き」
7月号 将棋と脳
8月号 ナノカーなのだ~
9月号 宇宙の「柿の種」問題
10月号 ちいさなさざ波
11月号 カラフルな、ふとん
12月号 お熱いのがお好き
2018年
1月号 13%の不運!
2月号 インフルエンザは、なぜ流行る?
3月号 おイヌさまさまなのだ。
4月号 ネコの人工血液が出来たんだニャ~。
5月号 ミートテックを愛用する方々にジャストミートする諸研究
6月号  下手は伝染る
7月号 ゆるゆるカガクの用語集「第二の地球」編
8月号 ネッシーの不在証明
9月号 ホップ、ステップ、アワワワワ。
10月号 群れるメリットが「社会」をつくる。
11月号 氷の底に潜む忍者
12月号 隙間の神様
2019年
1月号 新発見!記憶復活薬
2月号 ハダカで足を引っ張るやつ
3月号 氷河期パークのつくり方
4月号 盗まれたノーベル賞
5月号 仕事や勉強をやり続ける「根気」のメカニズムがわかった。
6月号 月誕生の謎、解明?
7月号 かば焼きまでの長い道のり
8月号 走るために進化したヒト
9月号 老人とトウガラシ
10月号 恐竜家族。
11月号 ボクたちワンチーム。
12月号 砂漠のグラフィティ
2020年
1月号 お腹が空くと、脳が変わる。

オジさんの科学バックナンバーは、ブログに少しずつアップロードしています。
気に入ったらブログの★スターを押してね。
や・そねのブログ https://ya-sooone.hatenablog.jp/
以上

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?