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オリジナリティとは?(後編) オリジナリティの正体”アホウドリは美しい”

前編ではモノマネの正体、中編では主に表現が伝わる人、伝わらない人の違いについて述べました。


オリジナリティを理解するには以下の5点に気を付ければ自ずと見えてきます。
後編では下記の項目の④、⑤に沿ってオリジナリティの正体に迫っていきます。

①課題曲について考える(中編)

②手段が目的化している人の表現は伝わらない(中編)

③元ネタは隠すのではなく開示するもの(中編)  

④歴史、文脈を理解して提示する(後編)

⑤自己の問題意識、価値観(アイデンティティ)をはっきりさせる(後編)


中編同様、”アホウドリは美しい”というキーワードの対話を例に出し、下記の三者を用いて説明していきます。

Yさん:表現がうまく伝えられない人 
Dさん:表現がうまく伝えられる人 
Kさん:聞き手 


④歴史、文脈を理解して提示する
中編でも説明した通り、歴史や文脈は、自己の考察に客観性を持たせることの出来る強力なツールとなります。

元ネタは言葉を変えるのならば文脈です。
文脈は個人の主観とは関係のない客観的な事実です。
客観的な事実は相手と価値観を共有する上で非常に重要なツールです。

なので表現を行う際に重要な事は表現者の主観でだけではなく、客観的な事実もきちんと踏襲されているかどうかが非常に重要です。
当たり前ですが客観的な事実があれば、好き嫌いではなく、説得力をもってKさんに伝えることができるかと思います。

それを踏まえてアホウドリの考察に対してYさんとDさんの表現が下記の通りだったとします。

Yさん
「アホウドリのフォルムは本当に愛くるしいよね。
逆にクチバシや毛並みもはほんとたくましくて本当に立派だと思う。
美しい!」

Dさん
「アホウドリの白い、肉厚な真っ白な羽は人の目を惹き、過去には人類に乱獲され絶滅宣言が出された。
しかしその後、数羽の生き残りが必死に小さな群れを形成し、保護を受けながらもごく少数の個体が現在にも生存している。
丸みを帯びながらも、しっかりと地に足をつけ、白く輝くその姿は非常に美しく思えたんだ」

Dさんの言い回しは少々堅苦しいですが、Yさんの表現よりもこちらの方が納得性は高いと思いますし、ある程度の価値観の共有にも繋がります。


しかしハッキリ言ってそんなDさんでさえ上記のままでは表現者として2流です。

なんと言うか上記のままではKさんにアホウドリの実態を理解させることはできたとしても、Kさんの感情を揺さぶることは難しいでしょう。
当たり前ですが理屈だけで人の感情を動かすことはできないのです。

例としてどんなに難解に思えるコンセプチャルアートだったとしても、根元には非常に原始的で誰もが共感できるようなテーマや、誰しもが抱くような感情、その人なりの問題定義が存在していたりします。

どんな表現であれ、綺麗事の前にその人なりの思想、情熱を受け手は感じ取りたいのです。
ある意味この愚直さこそが人の心を動かす原動力であると私は考えます。


⑤自己の問題意識、価値観(アイデンティティ)をはっきりさせる
④を受けて最後に重要なのは表現者の意識です。
自身の考察に基づくトッピング、アレンジ(またはストーリー)を違和感なく表現に入れられるかどうかです。
ここがオリジナリティを持てるかどうかの最後の分かれ道となります。
それを踏まえてDさんの表現をもう一度言い直してみましょう。

改善前のDさん
「アホウドリの白い、肉厚な羽は人の目を惹き、過去には人類に乱獲され絶滅宣言が出された。
しかしその後、数羽の生き残りが必死に小さな群れを形成し、保護を受けながら、極少数の個体が現在も生存している。
丸みを帯びながらも、しっかりと地に足をつけ、白く輝くその姿は非常に美しく思えたんだ」

改善後のDさん
「丸みを帯びながらも、しっかりと地に足をつけ、白く輝くアホウドリの姿は非常に美しく、私には誇らしげに思えた。
愛くるしい見た目や、身体的な能力につけ込まれ、虐げられきた彼らはそれでも生き続けている。
アホウなんて言われながらも、しっかりと生き残っているじゃないか!
差別や逆行にも負けない人たちの強さを肯定し、弱者を虐げる者を否定する象徴として彼らは生き続けていると思う。
私はアホウドリからそんな強さと美しさを学んだんだ」

どうでしょうか?あくまで一例ですが先ほどより心に訴えかけると思いませんか。
Kさんもこれならアホウドリに興味関心を覚えてくれるかもしれません。

まとめると、

①課題曲について考える
→主題はなんでも良い、人と被っても構わない。重要なのは表現の仕方である。

②手段が目的化している人の表現は伝わらない
→他者に理解させることを目的とするのではなく、あくまで主題の考察を自分なりに表現することだけに専念する。

③元ネタは隠すのではなく開示するもの   
→完璧なオリジナルなどは存在しないと割り切る謙虚さを持つこと。
変にオリジナル振ると他者はあなたの表現を見透かします。

④歴史、文脈を理解して提示する
→客観的な事実は相手と価値観を共有する上で非常に重要なツールである。

⑤自己の問題意識、価値観(アイデンティティ)をはっきりさせる
→①〜④を踏襲しつつ、自分なりの思想、情熱をきちんと投入すること。

上記の項目が全てクリアできたらどうでしょうか?
潔く、押し付けがましくなく、客観的な文脈を踏まえた内容で、その人なりの思想と情熱を受け取ることができた時、人は感動を覚えるのではないでしょうか。
これがオリジナリティの正体であると私は考えます。

何がオリジナルなのか、どうすれば人に理解してもらえるかと考える前に、まずは上記の項目を実践することで、他者からオリジナリティのある素晴らしい表現だと評価してもらえる日が訪れるかもしれません。

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