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度量の広さ天下一品、小杉湯随一のお風呂lover”まよさん”こと石本雅代(43)/わたしの湯vol.11

12月某日、わたしの湯編集部のLINEに一通のメッセージが。「新年一発目のマヨちゃんにするのはどうかな?というご意見を某所から頂きました。みなさんどうでしょう?」もちろん、全員一致で「大賛成!」。
そんな皆から愛され慕われるまよさんは、もともと小杉湯の常連さん。そこから番頭・番台を経て、今は開店準備など小杉湯の運営の裏側を担っている。
いつも元気いっぱいなまよさん、インタビューの開始早々に涙する場面も…大晦日、1年の締めくくりに向けて慌ただしく開店準備を進める小杉湯より、ハートフルなインタビューをお届け!
 
インタビュアー 美帆さん/ライティング くみこまる/企画•編集 つっつー/編集 えっぐ/写真 Gota Shinohara
企画協力:ジェット石田・むとちゃん

人生の転機 女湯 ジェット風呂にて

―まよさん、今日はありがとうございます。2022年最初のわたしの湯、ぜひまよさんに飾って欲しいなと思ってリクエストしました。
こちらこそありがとうございます!こんなに早く自分のインタビューが来るとは思っていなくてすごいびっくりした。嬉しい、泣きそう。ティッシュありますか?

―泣くのが早い(笑)明るくやっていきましょう!私がこんなこと聞くのもなんなんですけど、まよさんが小杉湯で働き始めたきっかけをご本人の口から言っていただけると嬉しいです。
2013年か14年くらいからずっと、お客さんとして通っていました。いつ来てもすごくいい銭湯だなと思っていて。ある時、銭湯ぐらし(※)の冊子を見て衝撃を受けました。なんでここには素敵な人たちが集まって来るのかな、なんでこんな素敵なことが生まれるのかなって。

※銭湯ぐらし…銭湯で得られるような「余白のあるくらし」づくりを目指し、建築・デザイン・音楽・事業開発など、さまざまなメンバーが集うクリエイティブチーム

お客さんとして通っているときの私は消耗していて、好きな仕事も「ビジネス」という枠を超える力もなく、想いが一方通行なことばかりだったから、すごく羨ましく見ていました。そんな時、いつも通りお風呂に入りに来たら、美帆さんがジェット風呂で「今、仕事って何してるの?」って声をかけてくれて。少し喋ったあとに、「よかったら、うちで番台に座らない?」って言ってくれた。昨年はちょうどコロナで自分にも時間ができて、自分の人生について初めて「これからどうしようかな」と考えていた時だったから、そんな状況で美帆さんに声をかけてもらったのは、「これはチャンスだ!」って思った。いつもの私だったら、その場ですぐ返事とかしないんだけれど…

―即答だったもんね。「え!本当ですか?」みたいな。
うん、嬉しかった。「これは乗るべき船だな」と思ったんです。だから、「やります!前向きに検討します!」って、ちょっとのぼせながら承りました。

―そうね、私は日々お風呂に入りながら、まよちゃんの綺麗なお風呂の入り方だったり、おばあちゃんや他の人たちが困っているときに手を差し伸べている雰囲気を見たりしていたんだよね。「ああ、この人は一緒に働いてみたいな」と思って声をかけさせてもらった。そしたら、「なんていい人材を選んでしまったんだ」ってくらい、良かったと思ってます。
ありがとうございます。そんな風に思ってくれてたなんて、びっくりしました。巡り会うべくして巡り会ったんだなと思いますね。

―お客さんとして通っていたときと、実際働いてみてからで、気持ちの変化はありますか?
お客さんの頃は、お風呂に入っているときに、番頭さんが浴室から出入りする裏の扉の先がすごく気になっていたから、その裏側を見れたことが、まずはとっても嬉しかった。あの扉から出入りする人ってカッコよかったんですよね。あとは、運営の裏側を見て…(言葉を選びながら)、枠にとらわれずに自由にやってらっしゃるんだなって思った(笑)

お客さんの時は全く裏側が見えてなかったから、「素敵な企画もたくさんやっているし、相当素敵に回ってんだろうなあ」という想像をしていました。ネガティブな意味ではないですよ?けど、学園祭の前日を、本当に毎日やっているみたいな感じ。でもそれがとっても新鮮だったし、楽しいです。他には、番頭として自分で掃除ができたのも嬉しかった。

―もともとお客さんの時から、綺麗にしてくれてたんだよね。掃除とかは好きなんだ?
好き。自分が綺麗にお風呂に入りたいし、自分が「気持ちいいな、綺麗だな」って思うことが、ほかの人にとっても気持ちいいかなと思ってやっていました。番頭業務は3時間という短い時間でやるべきことをチェックリストにまとめてあるんだけど、「どれだけ攻めれるか」みたいなゲーム感覚でやっています。人と比べるんじゃなくて、自分との戦い。「よーし、今日はここまでやった!」とか、「ちょっと時間内に収まらなかったな〜」とか、そういう気持ちで回してるのが楽しかったですね。もちろん番台も、神々しい椅子に座らせてもらって、お客さんの顔が見れてすごく嬉しいし楽しい。どの仕事がいちばんかって言われると難しいですね。
―うんうん。いろんなお仕事をしてくれてるし、それぞれに良さがあるもんね。すごくよく分かります。

―逆に、働いてみて感じた難しさみたいなところも聞きたいです。
番頭・番台の時は、ただひたすらに楽しかったんですよ。「喜んでヘルプ入ります!私を入れてー!」って思ってやってたんだけど、開店準備や裏方に回ると、「続けることってこんなにも大変なのか」と思いました。細かいところに気がついて、ホコリをパッと払ったりとか…開店準備や仕込み、日々の発注や備品の整理整頓って、華々しくはない、いわゆる地味な仕事が多いんですよね。それを毎日コツコツと…。続けるってすごいことだし、これまで続けてきた小杉湯さんはやっぱスゲィってなる。

私、ドキュメント72時間(NHK)と、美帆さんが出演していたセブンルール(フジテレビ系)を録画していて、それを時折見返すんです。「当時の美帆さんは毎日朝から晩までこんな風にやってたんだな。私はまだやってないことがたくさんあるな。すごいな」って、本当に尊敬する。

お風呂がリセットの場所

―小杉湯で働くようになって、働く場所もお風呂だし、プライベートな時間もここで過ごすことが増えたと思うんだけど、仕事とプライベートの切り替えってどうしているんですか?
今は開店準備が終わっても事務所にいるときは"働く時間"になっているかもしれない。お風呂に入ることで仕事モードとプライベートがリセットされるので、お風呂の手前までは全部仕事の時間、って思ってます。お風呂に2時間くらい浸かって、リセットしたらその後はもう自分のプライベートになる。

―お風呂に入っているとき、素の"まさよ"が出てるもんね(笑)。殻がむけて、ホッとしてる感じのまよさんを見るのが好きです。話しかけても良いんだけど、ちょっとそっとしておきたいまよさん、みたいな雰囲気がありますね。プライベートではどんなことしてるときが楽しいですか?
これが一番難しい質問ですね。現段階では、私は"お風呂と睡眠"が人生の中ではとても重要。特に睡眠しているときがいちばん安らいでいるかも。楽しいっていうか、いちばん満足することです。そして、小杉湯に来て、年齢関係なく人と関わってコミュニケーションを取れること、酒好きな若者たちと一緒に飲めることはすごい楽しいかな。

―小杉湯にいると、「自分は何歳なんだっけ?」って思ってしまうよね。年齢でどうこうっていう感覚がないから、気持ち的にもちょっと若くなるよね。
うん、若くなる。それで鏡で自分の姿を見てハッとするんですよね…。でも私、「人は年を重ねて肉体は老いていくけど、魂は成長し続ける」と思っているんです。スピリチュアルじゃないけど、魂同士のコミュニケーションをしている感覚。だから年齢の垣根を超えたお付き合いで仕事ができるのが、小杉湯の良いところなのかなと思っています。

―まよさんにとって、いま小杉湯はどんな場所ですか?
なんだろうなあ。好きな場所には変わりはないんですよね、出会ってくれてありがとうみたいな感じ。家ともまたなんか違うんだよなあ。職場ではあるんだけど、ちょっと外に出ると、この環境のありがたさにハッとする。強いて言うなら働いていても、お風呂に入っていても孤独にならずにわたしでいられる場所かなぁ。

―いやもう、逆に本当にありがとうございます、なのよ。いま小杉湯にとってまよさんは、いないといけない大切な存在です。みんなの代弁で、ありがとうと言いたい。
なんか言わせてるみたいで申し訳ない(笑)


最強のまよさんを目指す

―本当に、まよさんほどの人材ってなかなかいないのよね…。
いや、特性だと思うんですよ。人それぞれが持つ、それぞれに良さがある。たまたま私は今まで色々な、ありとあらゆる職種をやって来たので、なんでもできちゃうみたいなところがあるんです。でも、色々気になって、気づきすぎちゃうところがあるから、良きところでもあり欠点でもある。やりすぎないようにしないと、とは思っています。

―でもそれはまよさんの中でのことだから、もうここでは自慢してください。
そうですね。私、なんでもできます!

―できちゃうから困っちゃうんだよね。そういう人がうちで一緒に働いてくれるのは本当にありがたいです。一緒にいて尊敬できる存在です。最後に、小杉湯に限らず、これからやりたいことってありますか?
今までやってきた経験や知識、スキルが色々溜まってきているので、それを発揮できればなんでもチャレンジしたい。それは小杉湯の中でもそうだし、もし違う場所で何かあるなら、諦めずになんでもトライしたいなって思う。そのひとつとして、昔から思っているのは、英語を喋れるようになりたい。

 ―まよさん留学したいんだよね!
留学したいから、お金を貯めたいです!英語を喋れたら、私もう怖いものないな。自分のことをもっとストレートに素直に話せるようになるだろうなと思う。日本人同士日本語で、となると、相手を想うことばかりに注力して自分がどんどん辛くなっていくタイプなんですよね。自分の気持ちを後回しにして、人を立てて生きてきたけど、コロナ禍になってようやく自分を見つめ直すことになって、そこでやっぱり英語しゃべりたいって思った。だからいつも、ルー大柴さん風な英語を使っちゃう。あとは高田純次さんのように、適当なことを言って生きていきたい。そして私の人生ミッションは「愛と感謝に生きる」ってことになってるから、そういう場所でありたい、どこにいても、どの人にとっても、そうでありたいなと思います。

―今もなれてるじゃん!これで英語も習得したら凄いよ。
あー、いま、私はすごく満たされている。大晦日という、1年の締めくくりのバタバタしている中で、こんなあたたかいひと時をいただいて本当に感激しております。

―こちらこそありがとうございました。無理をせずに、体に気をつけて、これからも頑張ってください!
頑張ります!ありがとう!


わたしの湯 心が安らぐ場所

編集部にLINEメッセージが来た時、真っ先に「私もまよさんが良いと思ってました!」と言った。なぜなら、私はまよさんとほぼ同時期に小杉湯で働き始め、勝手に同期だと思っているから。同期のまよさんのわたしの湯は絶対私がやりたかったから。なんでまよさんは何でも出来るのか、何でも話しやすいのか、よく分かった気がする。
実は私はこの春から1年ほど、小杉湯を離れて故郷で働く。これを伝えたとき、まよさんは「寂しいよ〜、いつでも帰ってきてね」と半泣きだった。優しさと思いやりに正直揺らいだけど、自分が帰ってこれる場があること、その場をまよさんたちが“続けて”くれることに感謝して、1年頑張ってこよう、と思った。(くみこまる)

今回の登場人物 小杉湯の人たち

Photography by Gota Shinohara







 



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