中川多理展「廃鳥庭園〜Le Jardin abandonné」③
中川多理展「廃鳥庭園〜Le Jardin abandonné
最後の小鳥たち
山尾悠子さんの掌編『小鳥たち』より生まれた連作、小鳥と少女の形態を使い分けるよう厳しく躾けられた編み上げ靴の侍女たち。沢山の侍女が羽ばたいていきましたが、この度最後の3体を送り出す事となりました。
シリーズ連作の作品は、大きさやクオリティを揃えるために型を使用して制作しています。また、より強固な素材に変換する為の作業でもあります(石粉粘土→モデリングキャスト、ビスクなど)。私の場合は、だいたい10〜20体ほど制作したら形にも飽きが出るので(1〜2体しか抜いていない型もあります)、あまり長く使用する事を想定していません。小鳥たちは限界まで引き絞ったウエストに華奢で細い爪先などかなり特殊な形態をしていて、型へのダメージが大きく、「もう使用できないな」というところです。
いつになるかはわかりませんが、いつか小鳥たちを再制作することがあったら、また違った形態になるのかなあ…とぼんやり思っています。
鶯(うぐいす)色の小鳥
小鳥たちは沢山の方に望まれて、想定以上の数を生み出すこととなりました。山尾さんにも好きなシリーズと言って頂けて、本当に幸せな子達です。
本来は2020年の「Till Dawn――暁に」展(浅草橋パラボリカ・ビス)で発表した鶯(うぐいす)色の小鳥で最後の予定だったのですが、ありがたいことに今年3月刊行の新刊作品集『薔薇色の脚』に、小鳥の侍女を全員収録して頂ける運びとなったので、この出版記念個展の時に「何とかあと1体は小鳥の侍女を…」とじわじわ岩清水の様に制作を進めておりました(「間に合ったら小鳥の侍女も出したいです」と告知していたので、覚えている方もいるかと…;)
個展開催後、力尽きてそのままになっていたので、この機会に完成させることが出来て本当に良かったです。お人形は制作に時間がかかる分、何かきっかけが無いと仕上がらないままになってしまう事もあるので…。最後の1体と、自分用にと残しておいた虎の子のサンプルパーツ(眠り眼&開き眼)の合計3体をこのたび人形として完成させました。
「小鳥たち、風のなかの」
『薔薇色の脚』中川多理人形作品集に、山尾悠子さんが新作掌編「小鳥たち、風のなかの」を書き下ろしてくださいました。語り直された新しい小鳥の姿があり、そのイメージを念頭にラストの3体を仕上げていきました。
小鳥の侍女(老天使EN-XXXI)ー 烏灰鶫(クロツグミ)
肩の部分とドレス裾が発火して燃え上がった様な、捕らえようとしても翻って遥か彼方に消えていく姿をイメージして制作しました。
過去に”黒ツグミ”という人形を2体制作していますが、今回は廃鳥バージョンです。小鳥の侍女には個々の名前はありませんが、過去にちょっと存在が派手な子には字名というか、呼び名が付いていたりします。識別番号の様なものです。
小鳥の侍女(老天使EN-XXXII)ー 灰鳥(アスカ)
燃え上がった後の灰の様なイメージで、一番明確に姿形が見えていて、その通りに生まれてきてくれて嬉しいです。退廃的な雰囲気を纏っています。
余談ですが、ビスクでの絵付け修行を経たあと、なぜか筆さばきが上達して眉毛や睫毛を描くのが上手くなりました。粘土人形の方が絵付けが難しい(筆滑りが悪い)のでありがたい変化でした。
小鳥の侍女(老天使EN-XXXIII)ー 灰鳥(アスカ)-sleeping
33体目の小鳥。眠り眼ちゃんは「間に合わぬ…!」と思っていたので、連れて来れて嬉しいです。あどけなさの残る美人さんになりました。
廃は灰で、燃え上がって残った灰を集めてはまた甦る、再生の場所の様なイメージを浮かべつつ制作しました。ちっちゃい鳥から大きな侍女まで循環する廃鳥たちの庭園にどうぞ遊びにいらしてください。