たのしい記 #5


 昼頃
彼方の重たい雲により、相対的に私は軽やかにみえる。軈て蒸れた街になる。日本語の唯一の欠陥は、ぺトリコールの訳にあたる単語が無い事だ。

 美しい、は嫌いだ。
 厳密に言えば、「美」という文字がきらいだ。
理由は明快、美しくないからである。
 左右対称でずんぐりむっくりでげじ虫みたいなビジュアルをしている。だから美しくない。
 おまけに世の中のあらゆるところにのさばって、我が物顔でお茶とか飲んでるんだ。
だからきらいなのだ。

 しかしそいつ自体の持つ意味は苦しくも好きで、使わなきゃならない。だから普段はなんとか送り仮名達に助けて貰って、そいつには目を向けないように出来ている。ほんとに感謝している。 

 これからも便宜上美しいを使うけど、例えそいつの線が一本少なくったって気づいてやらない。これは決意表明だ。

 
 視界が白っぽい線で溢れる。ビニールの小窓もないということは吹っ切れている。無い歌も歌ってしまう(それは日常であるが)。と見栄を張る。
びしょ濡らした制服のズボンからは、決まって変な匂いがする。

 奴に倣い、早めに止むとしよう

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