果物は投げるモノじゃありません
ズッ友ではなくnoteで繋がった友達だから『ノー友』だ!と思い付きましたが、それだと友達じゃないみたいなので却下します。
こんにちは、コッシーです。
さて、ノー友のねずみさんがこのような記事を書かれていました。#ノー友結局採用するんかい
記事のあらすじを簡単にご紹介させていただきますと、
ねずみさんが勤務されている老人ホームで手違いにより入居者Cさんに怖い思いをさせてしまった。その一件からCさんはいないはずの「猫がいる」と言われるようになる。ねずみさんはCさんと真摯に向き合い、自分たちの間違いを正直に謝罪した結果、Cさんから「猫がいる」と言われる事はなくなる。認知症や記憶障害などを患っている高齢者とはいえ、一人の人間である。嘘やごまかしで取り繕うのではなく、相手のことを思い、相手だったらどうか、自分ならどう思うかを考えて接するのが大切だと、ねずみは改めて感じるのであった。ねずみの戦いはまだこれからも続く…
というような内容でした。入居者とどう接していくべきかを教えてくれる、介護の現場ならではの記事でとても参考になりました。さすがはノー友です。#流行らせる気満々
実は、今うちの施設でもCさんと同じように言われる入居者の方がいます。以前にこの記事でご紹介させていただいたTさんです。
以前は猫ちゃんを探しに外に出たいと言われていたTさんですが、外まで探しにいきたいとは言わなくなったものの施設内では相変わらず猫ちゃんを探しており、ときどき廊下などで猫の鳴きマネをしたりしております。
その鳴き声のボリュームがなかなかに大きいのと、かなり本格的なんです。文字にすると伝わりにくいですが、「ニャーニャー」ではなくて、「ンニャ~オ」みたいな本格的な感じでされるので、他の入居者から「施設内に猫がいる!」という事案が発生しました。初めて聞いた時は思わず笑っちゃうほどのクオリティの高さでした(笑)
ただそれくらいの事でしたら「猫の鳴きマネうまっ!」となるくらいですので、それほど問題ではありません。
Tさんの問題行動は他にありました。
ある日スタッフからTさんが夕食のおかずの一部を居室に持ち帰っているかもしれないと報告がありました。
その日の夕食時にTさんの行動を注視していました。すると夕食に出ていたオレンジをこっそりティッシュに包む姿が見えました。
うちの施設では衛生面等の関係から食事が残ったとしても居室に持ち帰ることは禁止しております。たとえそれがオレンジ1個だとしても関係ありません。Tさんが食事を食べ終わる頃を見計らって声をかけました。
「ごめんね、Tさん。こちらでの食事をお部屋に持って帰ることはできないんだ」
最初Tさんは「何のこと?」と犯行を認めませんでしたが、迷探偵コッシーの目は誤魔化せません。左手に大事そうに持っているティッシュが何よりの証拠です。いや誰でも分かるわ。
「そのティッシュにオレンジを包んでるよね?ごめんね。あとで食べてお腹が痛くなってもダメだから、ここに置いていってね」
するとTさんはオレンジを持って帰ろうとしたことは認めましたが、「これは違う」と言い出しました。
「これはね、私が食べるわけじゃなくて猫ちゃんにあげるから大丈夫よ。気にしないで」
「ごめんね、猫ちゃんにあげるとしても持って帰ることは出来ないんだ。」
いくらTさんに説明しても、「猫にあげる」の一点張りでなかなか納得してくれません。何度も押し問答があり終いにはTさんは怒りだしました。
「ダメダメばっかり言うけど、これを食べないと猫ちゃんが死んじゃうのよ!猫ちゃんが死んじゃっても良いの!?」
猫ちゃんが死んじゃうなら仕方ないか…とはもちろんならないわけで、ここで持って帰ることを認めてしまうと、Tさんの場合それが記憶に残りどんどんエスカレートしていくのは、長年の経験から予想できました。
「それでも認めるわけにはいきません。申し訳ありません。オレンジを置いてください」
少し強めの口調でTさんに伝えると、Tさんは「もういい!!」と言って僕にオレンジを投げつけ部屋に戻られました。オレンジって投げるもんだっけ?
その日は食べ残しを持って帰ることを防げましたが、きっとまた持って帰ろうとすると思います。その時に頭ごなしに「ダメ」と言ってはまた怒らせてしまうかもしれません。もうオレンジは投げられたくないので対策を考えました。
僕が考えた対策は、持って帰ろうとする食べ残しの代わりに日持ちするお菓子を用意してそれと交換する作戦です。それなら猫ちゃんの餌としても文句はないでしょうし、居室に持って帰ってあとでTさんが食べたとしても大丈夫です。仮に食べなくてもそうそう腐ることはありません。
我ながらとても良い作戦だと思い、家族の了承のもと早速お菓子を用意して、その日に備えました。
そしていよいよその日がやってきます。
夕食時スタッフから「Tさんがおかしいです」と耳打ちを受けた僕はそっとTさんの背後に回ります。その日の夕食には8分の1にカットされたりんごが2切れありました。持ち帰るとしたらおそらくそれです。
僕はまるで万引きGメンのようにTさんの動きを常に横目でチェックしました。Tさんがおもむろにポケットからティッシュを取り出します。2枚抜き出すと1枚で口を拭いて、残った1枚を膝の上にのせます。右手でりんごを掴み、周囲にチラッと目をやり膝の上のティッシュにそっとりんごをのせました。
(はい、やったよ)、僕は心の中でそう言いました。いやマジで万引きGメンかよ。
ただここで注意してら、「あとで支払うつもりだった」と言われるかもしれません。店を出るまでは焦ってはいけません。いやだから万引きじゃない。
Tさんが席を立ち食堂の出口に向かって歩きます。左手にはティッシュが握られています。Tさんが出口を通った瞬間、肩にポンと手を置き声を掛けました。
「ごめんね、Tさん。左手のティッシュを見せてもらって良いかな」
Tさんは素直に左手に握っていたティッシュを開いて中にあるりんごを見せてくれました。
あとはこのりんごとお菓子を交換すれば、Tさんを怒らせることはありません。
「Tさん、そのりんごとこのお菓子を…」そう言いかけた時、僕の言葉を遮りTさんが大きな声で言いました。
「ずっと後ろで見張っていたでしょ!!分かってるんだよ!!」
Tさんは僕が万引きGメンだという事を見破っていたのです。万引きGメンGメンです。ややこしいわ!
「私が食べ物を持っていくと分かってたんでしょ!!いやらしい!!」
「いやごめんね、Tさん。ほらここにお菓子があるからそのりんご交換しよ!そしたら部屋に持って帰れるよ!猫ちゃんにもあげれるよ!」
「そんなのいらない!!これもいらない!!」
そう言うと、Tさんは僕にりんごを投げつけ居室へ戻っていきました。あれ?りんごって投げるもんだっけ?
りんごを投げつけられボー然と立ち尽くす僕の肩を他のスタッフが優しくポンポンしていきました。泣いてなかったと思う。
お菓子作戦が失敗に終わり、どうしたもんかなと頭を悩ましていた時に、タイミングばっちりでねずみさんが上記の記事を上げていました。さすがノー友。
やっぱりあれこれ考えるよりも真摯に入居者と向き合う事が大事だと改めて感じました。
ありがとうねずみさん。一度Tさんと話してみますね!
でもねずみさんには出来る事なら【お菓子大作戦』を実施する前に教えて欲しかったなと思います。そうすればオレンジもりんごも投げられなかったのに。
ねずみさん「いや知らんがな」
現場からは以上です。それではまた。
コッシー