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【創作大賞感想】”言葉”は『かけはし』となる

豆島圭さんの創作大賞2作目の応募作品である【言の葉ノ架け橋】を読ませていただきました。

念願だった小学校教員を数年で辞めてしまった門馬希生は、現在、不登校児が通う市の適応指導教室『かけはし』に勤める。祖母の飼っていた老犬、パグのウメ子は「誰かの後悔している一日を食べて、なかったことにしてくれる」と生前の祖母は言っていたが、希生は信じていない。
ところが、誰から聞いたのか噂を信じる人々が「不登校のきっかけとなった息子の日を」、「家族に暴言を吐いた日を」、「彼女と別れた日を」、食べて欲しいと頼んでくる。
ウメ子に不思議な力があるのか。希生は、どう解決していくのか。希生先生と犬のウメ子、お喋りな「ヨウちゃん」たちが織りなすハートウォーミングお仕事小説。

【言の葉ノ架け橋】あらすじより

あらすじから既に傑作臭がプンプンと匂う【言の葉ノ架け橋】ですが、期待にたがわず、とても面白かったです。
1作目の【残夢】であれだけクオリティ高い作品をあれだけのボリュームで書かれたにも関わらず2作目まで手を出すその意欲に、「豆島はん、ホンマあんた創作の鬼やで……」と驚きのあまり僕も思わずエセ関西人になってしまいました。
#何で
この勢いで褒め千切りたいところですが、あんまり褒めると豆島さんに怒られるので、気持ちを落ち着けて客観的にこの物語の魅力について語っていきたいと思います。


○とにかく設定が秀逸
この物語は基本的に適応指導教室「かけはし」に通う生徒やその保護者の悩みや苦しみなどの問題に主人公である門馬希生もんまきいが懸命に向き合うお話です。時に相棒であるパグのウメ子さんやヨウムのヨウちゃんに助けられ、時に同僚たちに支えられ、子供たちそして親御さんたちと一緒に希生も成長していくヒューマンドラマだと思います。

この適応指導教室という設定が本当に見事だと思いました。作中でも語られていますが、適応指導教室とは何らかの事情から学校に通えない不登校の市内の児童・生徒が、各学校と相談のうえ、学校に戻れることを目指しながら通う市の施設です。
「かけはし」に通う子供たちも様々な悩みや事情を抱えています。その悩みや事情は誰しもの日常に潜んでいるようなとてもリアルなモノで決して他人事とは思えませんでした。
苦しむ子供たちや親御さんに共感し、その方たちに不器用ながら懸命に寄り添う希生に胸を熱くし、物語にどんどんと没入していく自分を感じました。

これが一般の学校だと少しありふれた設定なような気がしますし、支援学校など障がい者のお話だと万人からの共感を得るのは難しいかもしれません。
小学生や中学生はとても多感な時期で些細な事で心に傷を負い学校に通うのが苦しくなってしまうことはどの児童にも起こりうることだと思います。そんな子供たちに寄り添い社会復帰の『かけはし』となる適応指導教室は本当に素晴らしい場所だと思いますし、そこを物語の軸とした豆島さんはやっぱりすごいと思いました。天さ…いや何でもありません。


○ウメ子さんとヨウちゃんのタッグが最強過ぎる
【言の葉ノ架け橋】には物語の鍵を握る二匹の動物が登場します。豆島さんの代名詞であるパグのマメ子ウメ子さんとヨウムのヨウちゃんです。
#パグと言えば豆島さん
この二匹のタッグが本当に最強で、自分に自信が持てず子供たちや親御さんとどう向き合えば良いか悩む希生を助けたり背中を押したりする存在となっています。
特にマメ子ウメ子さんは「誰かの後悔している一日を食べて、なかったことにしてくれる」という能力があると噂されており、その真意を確かめることもこの物語を楽しむ要素の一つとなっています。


○オムニバス形式だけどかなり読み応えがある
【言の葉ノ架け橋】はオムニバス形式の小説となっています。主人公の希生とウメ子さんのお話(8話9話)は別軸で進んでいきますが、基本的には前編後編の2話で一つのお話が完結します。だからとても読みやすいと思いますので、一気に読む時間がないという方にもおススメです。
それでも1話1話はかなり骨太の物語となっています。思わず泣いちゃうハートフルなお話から、黒豆島臭のするドキリとさせられるお話まで本当に幅広い話が詰まっているのでとても読み応えがあり楽しめると思います。
僕は特に美羽ちゃんの話が大好きで、涙せずにはいられませんでした。

なんとなく余白を残した最終回となっているため、こういうオムニバス形式であれば続編がいくらでも書けるのではないかと思いました。豆島先生なら僕らの期待にきっと応えてくれると思いますので、心待ちにしましょう。
#頼んだで豆島さん


○”言葉”がかけはしとなる
【言の葉ノ架け橋】というタイトルから分かるようにこの物語は言葉の大切さを教えてくれます。子供たち一人ひとりに自分の想いを”言葉”で伝えてきた希生が言ったとても印象的なセリフがあります。

「私、ちゃんと言葉で伝えたほうがいいと思ったんですよ。心の中では遠山先生や藤原先生に毎日感謝してましたよ。だけど、言わなくても分かるとか、目を見れば分かるとか、愛があれば伝わるとか。そんな時でも、あえて言葉にしたほうが確実に伝わるな、と」

最終回より

確かに気持ちが通じ合い”言葉”がなくても相手に自分の想いが通じることはあります。それでもあえて”言葉”にすることで、より確実により鮮明に相手に自分の想いが伝わるのではないかと思います。

僕の息子には知的障害があり”言葉”を上手く話すことができません。息子の表情やしぐさなどを読み取り、つい何も語りかけず息子のやりたいであろうことを先回りしてしまうことがあります。でもよく奥さんに怒られます。
「ちゃんと言ってあげて」と。

”言葉”はきっと自分と相手との『かけはし』になるのだと思います。この物語を読んで改めて深く思いました。


1作目の【残夢】で背筋をゾクゾクさせたミステリーを書いたと思えば、心をホクホクさせてくれるヒューマンドラマも書ける、そんな豆島先生の小説が読めるのはnoteだけ!!(多分)

豆島さん、今年の創作大賞は豆島さんの才能の幅広さをまざまざと感じました。出版する時は是非帯を書かせてください。
本当にお疲れ様でした。
#天才って言わなかったよ


#創作大賞感想
#豆島圭さん
#言の葉ノ架け橋


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