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詠む人

つい先日気温が16℃と突然冷たくなったくせに、今日は最高気温30℃というアツアツぶりでで10月さんの強烈なツンデレにやきもきしながらも惹かれてしまう自分がいます。

こんにちは、コッシーです。


さて、僕は自分で詠む事は出来ませんが、俳句や川柳が割と好きでTV番組の『プレバト!』をたまに観た時などは、夏井先生の鋭い考察に「ほほう」と一人唸ったりしております。

高齢者の中にも俳句や川柳を嗜む方が大勢いまして、地域によっては俳句サークルや川柳を詠む会などに参加されては仲間同士で楽しまれています。


うちの入居者にも川柳を詠まれる方がおります。

Uさんという男性の方で、掃除や洗濯など生活のほとんどをご自身で出来る真面目で几帳面な方です。

Uさんは定年退職後から川柳を始められてかれこれ30年近く詠まれている大ベテランです。新聞の時事川柳コーナーに毎回応募され、頻繁に掲載されている実力者でもあります。

先日、その川柳コーナーにおいてUさんの作品が9月の月間最優秀作品に選ばれました。

30年弱、応募を続けてきて月間最優秀賞作品を受賞するのは2回目ということで初めて受賞したのはもう10年以上前とのことです。

これには普段はクールであまり感情を表に出さないUさんもすごく喜ばれており、珍しく自分から僕に声をかけて新聞社からもらった賞状を本当に嬉しそうに見せてくれました。

こんなに喜ばれているUさんを見るのは僕も初めてでとても嬉しくなり、記念にと賞状を持ってもらい写真を撮りました。すぐにプリントアウトしてご自身とご家族にと2枚をUさんにお渡ししました。Uさんはとても喜ばれており、本当に良かったと強く思いました。


それから数日後再びUさんが僕に声をかけてこられました。

「先日は写真をありがとうございました。家族に写真を渡したところ、息子や娘もとても喜んでいました」

「それは良かったです」

「実はコッシーさんに見て欲しい写真がありまして。息子が持ってきた写真になるのですが、私もこれを見せられた時とても驚きました。」

Uさんが僕に見せた写真には、2年前にうちの施設に転居された頃のUさんが写っていました。その頃のUさんの顔には全く生気がなく、目も沈んでいます。先日僕が写した賞状を持ったUさんと比べると雲泥の差で見る人によっては同一人物とは思わない人もいると思うくらい、表情の明るさが全然違いました。

しかしこちらに来られた時のUさんの状況を考えると暗い表情になるのも仕方ありませんでした。


その頃のUさんは奥さんに先立たれたことにより、激しく気持ちが落ち込んでしまい無気力な状態だったとのことでした。大好きな川柳もやめていました。食事もあまり食べなくなってしまい、痩せていく姿に心配された息子さん達は同居を勧めたそうですが、子供たちに迷惑はかけられないとUさんは頑なに断ったそうです。

やつれていくUさんを息子さんが何とか説得して連れてきたのがうちの施設でした。

入居が本意ではなかったUさんに、とりあえず1週間だけと約束をしてこちらので生活が始まりました。

最初の1週間、息子さんか娘さんのどちらかが毎日こちらに来られて、Uさんと話をされていました。毎日来られる子供たちに心を動かされたのか、入居期間が1週間から1ヵ月になり1ヵ月が3か月になっていきました。

食事時にしか部屋を出なかったUさんも徐々に他の入居者と触れ合っていくにつれ表情にも明るさが戻ってきました。もともと真面目でとても紳士的な対応をされるUさんでしたから、他の女性入居者からすぐに人気になりました(笑)

入居から半年ほど経った頃、再び川柳を始められ新聞への応募も再開されました。

1年後にはデイサービスにも行くようになり、すっかり元気を取り戻しました。


2年前の写真をUさんと眺めて、「いろいろありましたね」と声をかけると、「全て皆さんのおかげです。本当に感謝しています」と言われてましたが、僕らはただ日常の支援をしたまでであり、Uさんを支えそして救ったのは紛れもなくご家族の力でした。

特に息子さん夫婦の力は大きくて、Uさんがこちらに転居された後、Uさんと奥さんが住まわれていた家に引っ越しされました。もちろん、Uさんと奥さんの思い出の家を守るためです。

息子さんから引っ越しの話を聞いたUさんは「息子には頭が上がらないです(笑)」と笑いながらもその目には涙が浮かんでいました。

入居者へのご家族の関わり合い方というのは本当にそれぞれの形があるので、何が正解で何が間違っているとは言えません。

ただUさん家族のような熱い絆を見せられるとこちらも熱い気持ちにさせられ、改めて家族愛って素敵だなと思わせてくれます。


ご家族の支援により元気を取り戻したUさんは今日も素晴らしい川柳を詠まれています。

そんなUさんの川柳で僕が1番好きな作品を皆様にご紹介して筆をおきたいと思います。


【ぬくい手に 押され米寿の 椅子にいる】


うちの施設に入居されて、米寿の誕生日を迎えた時に詠んだ一句です。

Uさん曰く、ご家族や僕ら施設職員、そして他の入居者の方々がいたからこそ米寿を迎えることが出来たとのことです。

とても良い句で、この句なら夏井先生からもきっと直しはないと思います。


現場からは以上です。それではまた。

コッシー


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