歴史に名を遺す

「コッシーさんは自分のご両親にもきっと優しんだろうねぇ」と暖かい眼差しで入居者から言われて、まさかここ1年くらい会ってないとは言えませんでした。#優しい以前の問題

こんにちは、コッシーです。


さて、うちの入居者の中には認知症の方も何人かいらっしゃいます。認知症と言ってもその症状は本当に人それぞれで、一人ひとり違った言動をされます。

5分前の事をすぐに忘れてしまう方もいれば、過去の記憶と混在してしまう方もいます。穏やかな方もいれば、すぐに怒る方もいます。本当に千差万別だと思います。

自分の頭の中がどんどんとおかしくなってきていると認知症が進行することにとても苦しまれる方もいます。

当たり前ですが僕ら介護者は認知症を治してあげることはできません。僕らが出来る事と言えば入居者が安心して生活できるよう、それぞれに合った支援を全力ですることだけだと思います。


僕はそんな認知症の方々を本当に面白いなぁと思っています。

こうやって言うと馬鹿にしているとか蔑んでいるとか思われるかもしれませんが決してそうではありません。

どちらか言えば親しみや愛おしさを感じて、「面白い」と言わせてもらっています。その辺のニュアンスが伝わるかは分かりませんが、とにかく毎日一緒に楽しく過ごさせていただいております。


先日の話です。

うちの施設にYさんという90代男性の入居者がいます。Yさんは認知症を患っており、短期記憶に障害がありついさっきのことを忘れてしまいます。

しかし日常生活のほとんどをご自身でされており、着替えや排せつなど介助することなく自分一人で出来ています。

本を読むことが好きでデイサービスに行かれた時はデイに置いてある本をよく読んでいるみたいです。ただすぐに忘れてしまうためどんな本を読んだかは覚えていませんし、同じ本を何度も読まれるようです。

最近は宇宙人が出てくる本を好んで読んでいるとのことでした。


そんなYさんですが、最近弾性ストッキングを着用するように皮膚科の先生から言われました。自分で履く事は難しいためこちらでストッキングの着脱の介助をしています。

先日ストッキングを履かせるために居室に訪問した時、Yさんは真面目な顔でベッドに座っていました。普段は笑顔で出迎えてくれるYさんが珍しく固い表情をしてるので何かあったのかと心配になりました。


「Yさんどうかしたの?調子悪いの?」

そう僕が尋ねるとYさんは僕にゆっくりと近づいてきて耳元でこう囁きました。


「実はな、『冷蔵庫の中に宇宙人』がいる。」

「は!?う、宇宙人??」

「静かに!気付かれる!」

Yさんはシーっという素振りを見せて驚く僕に静かにするよう言いました。

おそらくデイサービスで読んだ宇宙人の本の中身がYさんの頭の中で混在ししてしまい冷蔵庫に宇宙人がいると思い込んでしまったのでしょう。こういう思い違いや思い込みというのは認知症の方にはよくあることです。

ご本人は至って真面目に発言されていますが、まさかの『冷蔵庫の中に宇宙人がいる』というパワーワードに僕は笑いを堪えるのに必死でした。

そんな僕をよそにYさんはさらに畳みかけてきました。


「あんたが話しかけてええよ。話しかけて歴史に名を遺してくれ」


きっとYさんは人類初の宇宙人と会話するという偉業を僕がやる事で歴史に名を遺させてくれるように計らってくれたんだと思います。

『冷蔵庫の宇宙人に話しかけて歴史に名を遺す』というまさかの大役を仰せつかった僕は必死で笑いを堪えながらゆっくりと冷蔵庫を開けました。


そこにはペットボトルのなっちゃんが1本だけポツンと鎮座していました。


「Yさん…宇宙人いないみたいだけど…」

「あんたぐずぐずしてるからどっか行ってまったわ」

どうやら僕が手間取ったせいで宇宙人は去ってしまったみたいです。宇宙人と会話することが出来ずに残念ながら歴史に名を遺すことは出来ませんでした。


認知症の方と生活するのは大変な面もありますが、このように楽しませてくれる日常もあります。

もし次にYさんが宇宙人を見つけた時はすぐに話しかけて歴史に名を遺したいと思います。


現場からは以上です。それではまた。

コッシー

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