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M29と呼ばれた男 第9話

「位置に着いた」
無線でUMP45に報告する。枝の上に到達するのは思っていたよりも簡単だった。
自律人形の義体で強化された脚力と腕力があれば、木登りなんて朝飯前だ。
心配事だった枝の強度は、よほど揺らさない限り折れる心配はなさそうだ。
「分かった。カウントと共に突入して」
「了解」
「5」カウントが始まる。俺は自身の分身であるマグナムと、新品の高周波ナイフを抜く。
「4」突入口である窓を見据え、どのように突入すればより素早く敵を無力化できるか頭の中で計算する。
「3」ふと疑問が湧く。404部隊は信用できるか?俺を囮にして、遅れて突入すればたやすく敵を制圧できるだろう。俺が死ねば、あいつらは前と同じように活動できる。やり慣れたやり方で仕事をこなせる。
「2」地雷を踏んだあの時も、結局誰も助けに来なかった。雪の中を、手足がちぎれ飛んだ状態で1㎞も這いずって基地まで戻ったのだ。近くに居た同僚は爆発音を聞いていたはずなのに。
「1」だが、あいつらは俺を助けた。被弾の危険も顧みずに俺を外に引っ張り出した。信用は無くとも、その借りを返すぐらいはしてもいい。
「0!」枝を全力で蹴って、宙を舞う。けたたましい音を立てて窓ガラスを蹴破り、着地する。


敵の数は6。その全員が手すりに銃身をのせて、一階の入り口を狙っている。よくもまあ撃ち殺されなかったものだ。
俺の突入音で、すぐ左のやつがこちらに狙い直そうとするが、遅い。マグナムでその頭を吹っ飛ばし、右を向く。
もう一人が2メートルもない間合いで、銃を振りかざしている。俺はスイッチを握りこんで高周波ナイフを起動し、切り上げで腕を切断すると、返す刀で首を切断した。
熱したナイフでバターを切るとはまさにこのこと。ほれぼれする切れ味だ。
「銃は鈍器じゃないぜ」
決めセリフを呟いて、残りの敵を見る。俺は完全に詰んでいた。
4人の自律人形がこちらにサブマシンガンの銃口を向けており、あとはトリガーを引くだけで俺は蜂の巣だ。
結局、404部隊は俺を見捨てることにしたようだ。
特に悲しさとかはない。そういう事になったのならそうなのだろう。ただ事実だけがそこにあるだけだ。
せめて生身である頭を守り抜こうと、両腕で頭をかばった。
その時、敵の全てが銃弾を受けて吹っ飛ばされた。下を見れば、銃を構えている404部隊の姿があった。
「大丈夫?ちゃんと生きてる?」
UMP45が使えないはずの左腕を振っている。胡散臭い笑顔で。
「ずる賢いやつだ」
階段を上ってきたUMP45に言ってやる。
「別に、動かないなんて言ってないけど?」
「ああ、そうだろうな。言葉のあやってやつか。まったく、見事に騙された」
「ちゃんと助けてあげたでしょ。文句言わないで」
「ねえ、この部屋に何がありそうだけど?」
UMP9が二階奥の扉の前で呼んでいる。UMP45は軽く返事をして、そっちに行ってしまった。
俺もそれに続こうとした時、ふと床に倒れたままの自律人形が目に入った。
フードから頭部がはみ出ている。まるで理科室の人体模型だ。今にも飛び出そうな眼球、内部の人工筋肉がむき出しになり、ところどころ配線がはみ出ている。スクラップ場から掘り出してきたような廃品寸前の個体。
こいつらを動かしているのは誰なのか。俺を襲った奴らと同類なのか。何が目的でこんな辺鄙な倉庫に居るのか。
あの扉の先を見れば、少しは何か分かるだろう。ちょうど416が扉を蹴り開けたところだ。
皆が部屋に入っていくのに続いて、俺も部屋に足を踏み入れた。

【続く】

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