
土着の平屋
岩手県宮古市。
貿易物としての「都物」が収められる場所、というのが名前の由来になるほど、東北沿岸部の経済の重要拠点として位置してきた。
古くから、その地に建つ古民家住宅の大規模改修工事。
敷地には、最初に建てられた平屋に二階建てが増築された70坪程の母屋と、離れに二階建ての事務所兼倉庫、渡り廊下で風呂があり、中庭に池がある。
石垣の上に建つ邸宅は、周りの住宅から良い意味で浮いて見えるほどの雰囲気があった。
相続を受けた若いご夫婦が、ここを受け継ごうと動き出したのは2015年の頃。
東日本大震災や、長い間人が住まなくなり自然と進んだ経年変化などの傷みで、廃墟のようになってしまっていた。
今の時代の経済スピードの中で考えると、全てを解体し、更地にして、新築するという方向へ向かうだろう。しかし、二人は、ここで培われてきた時間をなんとか繋ぎたい。これまでと、今の両方を見、寄り添いながら、ここでの暮らしを重ねていきたいと。改修工事を前向きに捉えた旨の相談を頂いたのが2017年。
現場調査をしながら、お話をしていくうちに、二人の中にはその時既に、確かな光が見えているように感じた。
消費型社会が構築されてしまった現代は、
「新作と呼ばれたり、流行りのものが一番良い」「とりあえず」というような、自己の観点で選ぶという意識が気薄になり、周りに合わせる事が正解で、良しとする同調現象がこの時代を作ってしまった要因にあると感じている。
安直な選択判断の積み重ねが、分厚い層のように溜まってしまって、違和感に気づくことも難しくなっているように思うのです。
「自分が選んでいるモノ・コト」を一つ一つ大切に育てていくと、やがて愛着というものに変わっている。そんなものに囲まれていくことの喜びや、安心感。
暮らしていく中で大切にされ、当たり前にあったはずの、愛おしい卵のようなものを、心の中からツルっと落としてしまっていることに、日々に追われてしまうと、なかなか気付けないでいるのかなと思うと、勿体無いし、大切にされないものに囲まれる世界はやっぱり綺麗じゃないから好きじゃ無い。
物だけではなく、時間や雰囲気への想い入れも薄れていくことが、消費型社会を作り続けてきた根幹になっているのであれば、やはり、そこに関わること、しっかり見てあげることが要になってくる。同年代の建主さんとこうした話ができること自体が、本当に嬉しいことで、打ち合わせをするたびに心が穏やかになりました。
お二人は震災後にこの宮古に戻り、
ヨガサロン「POYANICA ぽやにか」https://poyanica.yoga
を運営されていて、体だけでなく普段の食事、暮らし、何よりも自分や近くにいる人を思い遣るということが日常に溶け込んでいるんだなと感じていた。
ぽやにかさんのHPを見ていく中で、
ヨガは、あくまで、我々が自分の人生をより良くするためのツールであり、
「その人がその人らしく健やかに生きる術を知っているか」が大事だという事が書かれてた。
その一文を見つけた時、なるほどと、繋がった。
お二人の中では、普段の暮らしも、経営するサロンも、自らの住まいづくりも、健やかに生きる術を磨くための大切なツールとして同じものとして考えている。
はじめは出来なかったヨガのポーズも、焦らずに、ひとつひとつ細かく解釈しながら向き合うことで、気がついた時には自然にできるようになっているというように、「向き合う姿勢」がとても柔軟なんだな〜と、感心しきり。
心も体もガッチガチの自分はうなっています。。。
しかし、前を向きながらの計画ではあるものの、様々な制約と、想いの狭間を行ったり来たり。ここをクリア出来たのは、様々なことに、自分ごととして対処するご夫婦の姿勢と、何より、細かなところまで対応して頂いた工務店をはじめとする業者さんのお陰。こうした素晴らしい方と一緒に造れることも喜びだし、有難い事。岩手と沖縄での遠隔で進めたプロジェクトは、このタイミングで急激に変化した世の中、これからの時代を生きるヒントとなった。https://www.kobo-kikkawa.com
全体のコンセプトとして、現代の耐震性能・断熱性能を積極的に取り入ながら、新しく使用する素材はもちろんだが、古き良き物として残すものを見つけ、組み込む事。
手間のかかる作業ではあるが、時間をかけることで必然的に、新しい素材との調和を考える貴重な時間となる。
もともとDIYを得意とする旦那さんが、事業の展望や、生活スタイルのなどこれからの変化の度に、住まいながら家に手を加えやすいよう、耐震など安全の確保と、法規をクリアしつつ可変性を持たせる、絶妙な所を探ることも、このプロジェクトでは大切なポイントとなった。
母屋の一階部分のみを残して減築し、補強を加えた一棟。
そこに、隣接する離れの平屋を生活スペースとして増築した。
建物全体は低く横に緩く配置しながら、背後の山との間にうまれる空間など、敷地全体に程よく「場所」の遊びを散りばめることで、背後の自然樹木との調和、そしてそこからまた新たな発想を想起させるような使い方になることを目指した。
旧母屋で使われていた古材の梁や欄間も、丁寧に洗われ、リビング空間の引き締め役を担ってくれている。その他にも、
・元の玄関壁の天然石は玄関床へ。
・駐車場確保の為、敷地内から大量に出た石は擁壁へ。
・庭の池と共に配置されていた石は、アプローチ階段などへ・・・
生き返ったように、イキイキした素材が、新しい役割を持ち、堂々としているのを見るのが最高に嬉しいし、好きだ。
相談を頂いて約2年半、2020年3月末竣工。
二人の間には新しい命が産まれ、家族三人を無事迎え入れた住まい。
ここからが始まりで、お二人によって愛娘と共にこの家、いや、敷地自体が大切に育てられ、やがて自然と土着していくことだろう。
こうしている今も、日常の暮らしを存分に味わっているに違いない。
Contact ▶︎▶︎▶︎https://ateliernuk.com
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