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身代わり

ぼんやりとした嫌な気分だ。

父は手術は成功したものの、こんどは敗血症にかかってしまい、
苦しみの中、もう死にたいのだと言っている。
妹は父の折れた心と主治医の日々の報告を浴びて、心を削られている。
何度も私にそのことを話しながら泣いていた。
妻は医師のミスなのか処方の段階的な切り替えができず、心の調子が上がらずにいる。
私はこの四月の転職で、気持ちが慌ただしい。

こんな事柄が一時に起こった私には、十年に一度ぐらいしか来ないことが、三つ同時にやったきたように感じられる。
不思議と怒りや悲しみ、焦り、絶望といった激しい気持ちはなぜか湧かないのだが、なんだか、底重い疲労感ばかりが感じられる。
都心と実家を何往復もしたり、実家近くのホテルに連泊したしたせいか。

こういう時でも、誰かに、何かに頼って、人は切り抜けていくのだろうか。
私は信仰も友人も持たないが、そんな時はどうしたら良いのだろう。

今度医者に相談してみよう。
このような環境にあって、感情がそれほど動かないということは、喜ぶべきなのか、警戒すべきなのかを。

ある人が私に言った。
「身の回りの何かが壊れた時、それはあなたの代わりに壊れてくれたのよ」私のために壊れてくれたのは、
先日誤って伐採された庭の薔薇たちか、父か、妹か、妻か。

どうか、誰も何も、私の代わりに壊れようなどと思わないでくれ。




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