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【拡大再生産研究③】いかに必要以上の拡大をさせないか?【ドミニオン】

前書き

 自分の作りたい拡大再生産のコンセプトを言語化するためにプレイ済みのゲームから毎回1つ取り上げて整理していきます。
 (ゲームの紹介が目的ではないためルールの紹介は省いていきます。)

前回はこちら

1 実際より拡大していると錯覚させる

 拡大再生産において、ゲーム序盤に行う拡大(≒買うカード)の影響はあまりにも大きい。そのため、序盤の拡大はどうしても効果が小さいものにせざるを得ない部分がある。
 例えば、1回目に取り上げた街コロ(拡張無し)だと最初に買う建物は+1金の収入のカードになるだろう。

 街コロの場合、後に爆発的な収入を得る為に必要な”タグ”の取り合いを行っているので完全な無意味ではない。
 このような工夫が無ければ、最序盤はゲームに影響のない悠長なものになってしまいかねない。

 『+1金』等の弱いカードではなく、もう少し強い効果をあげる事はできないだろうか?

ぱっと思いつく方法は、何回かに1回しか機能しないように作る事である。例えばサンクトペテルブルグ(2004)では最初に買うカード(行う拡大)の効果が+3金である。
 このゲームは下記の4種類のカードがある。

 ・職人=資金収入up
 ・建物=得点収入up
 ・貴族=収入源としては割高だがゲーム終了時にボーナス
 ・アップグレード=上記3つをパワーアップする

 雑に言えば、これらを買うフェーズを順番に行うが、それぞれの収入はそのカードを買うフェーズの前でしか入ってこない。+3金ではあるが、4回に一回しか収入が無いともいえる。朝三暮四ではあるが。

 ドミニオンの場合はどうだろう。(追加ドロー等が無い場合、)10枚のデッキに入っているカードは2回に1回しか働いていない。その上で上記の例に比べると多少なりとも気づきにくい。
 また、気づかれたとしても「引ききりデッキを作って全てのカードを毎回使う」という目標として機能している点で非常に優れている。

 ※もっと正確に言えば、毎回5枚ドローのうち1枚が置き換わっているだけである点も重要。追加していなければ引くはずだったカード(例えば”銅貨”)の分を引いた分が実際の拡大分。

2 終盤の得点の伸びにきつさを作る

 (基本セットにおいては)ドミニオンで得点を得るには勝利点カードをデッキに入れるしかない。ドミニオンの巧い所は勝利点カードはゲーム中は何もしない、邪魔なカードであるという点。

 巧く属州を手に入れている人ほど、邪魔なカードが増え、デッキが弱くなっていきます。最初は問題なく購入できた属州も次第に買えなくなる。
 それでいて勝者は必ずこのきつさを通る事になるため理不尽だと受け止められにくい。マリオカートで順位の遅い人に良いアイテムが入るような遅れている(ふりをしている)人間にボーナスがあるようなものではないからだ。

 一方、初心者はこのきつさをあまり感じずに終わる。(属州を買う事ができるようになるまでに時間がかかるため、)属州を買う頃には十分にデッキ枚数が多くなっているためです。「初めてでやり方がわからず序盤を遅れてしまったが、終盤は1位と同じペースで点数が伸ばせた」という優しい嘘で作られた細やかな成功体験を与えられる拡大再生産は本当に稀有。
 拡大再生産は自分の選択により成長を感じられる気持ちよさこそ長所である。しかし、それは常に可視化された貧富の差(うまく行った他人とそうではない自分を比べられ晒されてしまう事)という短所と隣り合わせである事を意識しなければいけない。

(※経験者が引ききりデッキを作って容赦なく、属州複数枚買うという事をした場合は除く。)

3 コンボをボトルネックとして扱う

 デッキ構築でない拡大再生産において、一度成立してしまったコンボはゲーム終了時までずっと機能したままになってしまう。そのため、このようなゲームでは相乗効果は非常に弱く作られるか、あるいは終盤にならないとできないように(あるいはそもそもゲーム自体が短く)調整されている。

 そうでない場合、何らかの方法(大抵は理不尽のないよう、ゲームルールで計画的に)でカードの除去を行う。
 例えば、Vorpalsでは、配置したカードは原則2ターンで消えてしまう。(その上でこれがポジティブに見えるようにカードリストを作っているように見える)

 ドミニオンの場合は1度購入したカードは原則、そのままずっとデッキに残っている。(改築系のカードでより良いものに変えたり、仮面舞踏会などで抜ける事はあるが。)
 しかし、コンボは常に存在しているわけではない。例えば、村と鍛冶屋は同時に手札に来れば、かなり強力ですが、1枚ずつ買った程度では同じタイミングで来るとは限らない。

 ・APは有り余っているが鍛冶屋が来ない。
 ・APが増やせないので、最初から鍛冶屋を使ったが、そこで村などのアクションが来た

といった良くない状況が起こり得る。このようなボトルネックに気付いて最適なテコ入れをする事をプレーヤーに課題として出すことができる。

 また、”ボトルネック解消”という課題は非常に渋く、大抵カジュアルプレーヤーには受けない事は多い。しかしドミニオンの場合、他に比べると良い反応が多いように思える。
 単にTCG経験者が同年代に多いだけかもしれない。
 これは筆者の個人的な観測範囲での出来事だが、「2連鎖、3連鎖」と数えながらプレイする方を何人か見た事がある。考えすぎかもしれないが、数えられる(=大きくなることがある)という性質が、ティミーのニーズ「Big、New、Free、More」のBigとして機能しているという仮説を私は持っている。

4.ランダムサプライと推奨サプライ

 ランダムサプライはすごく狡い仕組みである。

以下のような長所があると思う。
・作品全体への最適な拡大に関してたどり着かせない
・それでいて同じ条件だけを練習する事も可能なので、1環境の最適解には比較的たどり着かせやすい。
・1サプライがが面白くなくても、ドミニオンではなく、そのサプライのせいになる(可能性がある)
・自分で環境を考える楽しさがある

 また、推奨サプライはゲームバランスや面白さ以上にわかりやすさや順番にやった時の展開を意識されているように思える。

例)
 ・最初のゲームで一通りのカードタイプを登場させつつ、気づいたプレーヤーに属州2枚買いに挑戦させている。
 ・軽度の圧縮(鉱山、金貸し)の効果を経験した後に”礼拝堂”と”魔女”

疑問点(今後考えたい事)

 twitterのハッシュタグ(#ゲームデザインに関する問)にて考え中です。何かご意見等ありましたらリプライ等していただけるとありがたいです。

<拡大再生産 お題9>

 デッキ構築以外で、カードを除去せずにコンボだけを不成立にする事はできるか?例)モンバサのカード回収等


<拡大再生産 お題10>

 カードを除去しつつ漁夫の利問題の理不尽さや爽快感の喪失が起こらない方法はあるか?


<拡大再生産 お題11>

 ボトルネックを解消する問題を「”〇連鎖、〇連鎖”」と数えながら楽しくプレイさせることはできるか?パズル系?



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