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【拡大再生産研究⑨】たまにはデジタルゲームから【Balatro】

前書き

 拡大再生産について言語化するためにプレイ済みのゲームから毎回1つ取り上げて整理していきます。
 (ゲームの紹介が目的ではないためルールの紹介は省いていきます。)

前回はこちら。

 今回は「Balatro」。ジャンルはポーカー+ローグライト(SlayTheSpire系)。SlayTheSpire以降の「小さな戦闘」と「その後の強化」を繰り返していくゲームである。


【問】ポーカーはインフレするか?

 前回の記事で拡大再生産を大きく2つに分けた。Balatroを含む多くのSlayTheSpire系のゲームはこのうち”積み重ねた結果の一喜一憂”のための拡大再生産である。自分のカスタマイズがうまく行っている事を”インフレしていく自分の出力”をみて感じ取り気分よくプレイできるのがこのジャンルのいい所だ。

 しかし、「52枚ものカードが含まれたデッキ」を使うポーカーは普通に考えればデッキ構築ゲームに向かない。最初の山札が10枚前後のドミニオンやSlayTheSpireに比べて5倍以上の枚数があるため

 ・1枚増やしたところでデッキ全体の平均的な出力は上がらない
 ・後から「シナジーのある2枚のカード」を追加しても同時に引けない
  ⇒カード効果でコンボデッキにしにくい。

といった性質があるからだ。
また、ポーカーである以上「ペアを作る事」になんらかの報酬を与えねばならず、単純に大きな数字を入れても(採用する得点計算によっては)むしろ邪魔になってしまう。

さて、本作ではどう実装しているだろうか?

【答】掛け算方式の点数

 まず、このゲームが取った基本インフレ方針は掛け算を使う事といえる。

 このゲームの得点は【青い基礎点】×【赤い基礎点】という2つの数値の掛け算で表される。このような掛け算の得点形式は(ボドゲにおいては)「両方をバランス良くあげよう」という指針の為に使われる事が多いが、このゲームでは「終盤にむけて成長前と後の差が大きくなるように」採用されているように思える

用語について
ゲーム上、これらはチップ倍率というポーカーっぽい用語がついている。ただ実態と名前が異なっている事で説明がしずらい。(倍率と言われるとポーカーの役はこっちにだけ関わってきそうという先入観がありそう)

なのでこの記事ではそれぞれ青い基礎点赤い基礎点という呼び名で記述します。

 説明のため最低限必要な正確性8割程度の雑な説明をすればこのゲームの得点は以下のとおりである。

 ①8枚の手札から5枚を選ぶ
 ②まずはその5枚の役に応じて2つの基礎点が以下の表の通り決まる(道中好きな役のパワーアップも可能。表は初期状態)

 ③役に絡んでくる(ワンペアの場合ペアの2枚の)数字の大きさに応じて青い基礎点が上がる。
 ④ジョーカーと呼ばれる常時発動型の能力(SlayTheSpireで言うレリック)の条件を満たしていれば赤い基礎点が上がる。
 ⑤道中追加するカードには能力がついているものもある。それを役に使用したり、逆に手札に残したりすることでどちらかの基礎点upやその他効果が発動する。

 以降ではそれぞれの項目についてみていく。

①ジョーカー(レリック)

 このゲームでは「ダイヤのカードを使う度赤い基礎点+3」といった常時発動型の能力基本的に5個まで持つことができる。
 前述のとおり、初期デッキが52枚もあるせいでカードによる指針決定や単純なインフレが望めない分、各ラン(=一回のチャレンジ)の方針の半分以上は手に入るレリックによって決定する。

 ジョーカーを戦略の中心にするため、”ジョーカー”や”役のパワーアップ”、”タロット(後述)”という要素はランダムで手に入るのではなく戦闘後のショップで購入する形式を採用している(商品として並ぶかはもちろんランダムだが)

SlayTheSpireやそのフォロワーでは強敵を倒した時にのみランダムで手に入る事が一般的。

レリックに関しては「基本的に5つまでしか持てない」、「半額で売れるため中盤以降に切り替えることに抵抗がない」といった細かな調整により戦略の中心となっている。

②役のパワーアップ

 惑星カードという名前のカードやそれがランダムで出てくるパックを購入できる。
 このゲームでジョーカーと同じかそれ以上に指針となるのが「どの役を作るか?」である。(ポーカーのゲームをうたっている以上、そうでなくてはまずい。)
 ジョーカーは基本的に赤い基礎点しか上げられないのに対し、役のパワーアップ要素は青と赤の基礎点がバランスよく上がる。しかし、ジョーカーに比べてショップに毎回並んでいるわけではない。
 そのため購入できた惑星カードを基に「どの役を積極的に作っていくか?」を考えていく事になる。

③カード(追加/パワーアップ/削除)

 効果付きのトランプや既に所持しているトランプをパワーアップするための商品も戦闘後にショップに並ぶ。
 高い数字のカードを取れば青い基礎点を上げやすいし、マークや数字を偏らせれば狙った役を作りやすくすることもできる。

 また、このゲームはやってみると思ったよりは強化したカードが来る。複数枚強化するカードやカードの交換が多いルールだからだと思われる。

今更の説明になるが、このゲームはキャラクターごとに1ステージでできる「チェンジ(最大5枚まで交換)」と「ショーダウン(最大5枚選んで、得点計算実施+使った枚数分補充)」の回数が決まっている。

 この両方とも5枚のカードを変更できるため、強化したそれなりに回ってくる。

④タロット(使い捨てアイテム)

 SlayTheSpireには戦闘中に使えるがポーションという使い捨ての道具が存在する。これに近い要素がタロットであるが、効果が永続的であり、拡大再生産に寄与しているのが面白い。

 例えば、「手札のカード3枚まで選び、♡にする」というタロットを使ってフラッシュを作る事はポーションと同じく瞬発的な出力を生み出しているが、その後もデッキ内のマークの偏りが変わる事でうまく使えば今後もフラッシュが出しやすくなる。
 

まとめ

 ゲーム自体は基本的に「ポーカーで行うSlayTheSpire」というものであり構成もシンプルである。それでも良く見ていくと(主に52枚デッキという)ネタ元との違いを意識した細かいチューニングがされていると感じる。

 当たり前の事ではあるが、「流行っているゲームがこうしているから」ではいけないなと改めて感じた。

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