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NFT ロイヤリティ問題のまとめ

暗号資産に関するニュースを追っている人であれば、NFT界隈はいわゆるベアマーケットで、厳しい状況になっていることはご存じかと思います。

そんな中、SudoAMMという、SudoswapによるEthereumベースのNFTマーケットプレイスのプロトコルが人気になり、ローンチから35日で流通額が$10Mを達成する記録を作りました。
ローンチから100日時点でのCoinbaseのNFTマーケットプレイスの流通額が$6.7Mであることを考えると、かなりのハイペースであることが分かります。
SudoAMMが大きくシェアを獲得した理由の1つが、NFTアーティストに対する2次流通時のロイヤリティ(大体5%〜10%程度)を支払わずに取引することを可能した点にあります。

そしてさらに、SolanaのNFTマーケットプレイスであるYawwwやSolanart、Hadeswapなどは、同じようにロイヤリティの支払をせずに取引することを可能にしたマーケットプレイスとしてローンチしました。

■Solana NFT最大のマーケットプレイスであるMagic Edenの発表


こういった状況を受けて8月中旬ごろから、「NFTアーティストは自身の作品の2次流通に関してロイヤリティを永久的に受け取り続けるべきか」という議論がTwitterを中心に巻き起こります。
議論は一度は落ち着いたものの、今度はSolana NFT 最大のマーケットプレイスであるMagic Edenがマーケットプレイス上で売買されたNFTについて、クリエイターが定めたロイヤリティの支払いを強制しないことを発表したことで、再燃することとなリマス。
Magic Edenはローンチから9ヶ月の6月時点でバリュエーションが$1.6B、シリーズBで$130Mの調達をしているマーケットプレイスであり、影響力のあるMagic  Edenがこういった方針をとることはNFT市場にとっても重大なニュースでした。

Magic Edenとしては、ライバルとなる他のSolanaマーケットプレイスがロイヤリティ・ゼロ戦略によってユーザーを獲得していく中で、対抗するために同じ戦略を取らざるを得なかった事情があります。
具体的には、NFTマーケットプレイスのTiexoのデータによると、一時は89%であったシェアが58%まで落ちたとのこと。
最大のマーケットプレイスであるOpenSeaがSolanaチェーンに対応してもびくともしなかったシェアが一気に獲られたことは、一度はクリエイター支援を掲げロイヤリティの支払いを守ると宣言したMagic Edenの方針を覆すほどのインパクトがあったようです。

Magic Edenが採用した方法は、Coral CubeというNFTマーケットプレイス兼アグリゲーターと提携することで、Magic Eden上でロイヤリティを含めた取引にする選択肢と、Coral Cubeを通してロイヤリティが発生しない取引にする選択肢と、2種類用意することでした。
導入後、すぐにMagic Edenのシェアは回復。Tiexoによると10/16時点で86%までもどったとのことです。

■Ethereum NFTマーケットプレイスへの波及


10月後半になると、人気EthereumマーケットプレイスであるLooksRareもロイヤリティを選択式にすることを発表しました。
LooksRareがユニークだったのは、プロトコルフィー(2%の販売手数料)の25%をNFTのクリエイターに還元することでした。

そしてついに11/5、最大のマーケットプレイスであるOpenSeaがロイヤリティー議論に対する姿勢を発表しました。

この時点での発表は、大きく以下の3つでした:

  • クリエイターによるロイヤリティの支払義務設定を尊重しないマーケットプレイスを、クリエイター側でブラックリスト化するツールのリリース。このブラックリストは、特定のコードをNFTのスマートコントラクトに挿入することで参照される

  • その他にもコードによるロイヤリティの支払いを強制するツールを開発、リリースしていくこと

  • 上記は今後新規で販売されるプロジェクトに適用できるものであり、既存のプロジェクトのロイヤリティに関する扱いは検討中であり、12/8までに結論を出すこと

X2Y2やLooksRare、Blurなど他のEthereumプラットフォームもこのOpenSeaの動きに追随しました。

このブラックリスト化による対策は、ジェネラティブ・アーティストでArt Blocksにも関わっているTyler HobbsによるQQLプロジェクトで行われたブラックリスト施策を参考にしたものと思われる。

しかし、ある意味どっちつかずとも取れるこの曖昧な対応に、NFTクリエイターからの反発が相次ぐ結果となってしまいました。
特にストリートウェアブランドのThe HundredsによるBadam Bomb Squadプロジェクトは、予定していたOpenSea上でのローンチを取りやめるという判断まで下しました。

また、最大プラットフォームであるOpenSeaがブラックリスト化のツールを開発するという発表は、競合プラットフォームを排除する目的なのではないかという批判も登場しました。

こういった批判を受けて、12/8、OpenSeaは11月の発表からいくつか方針の変更をTwitterで発表しました。

発表されたのは、以下の点です。

  • CORI(Creator Ownership Research Institute)の発足

  • CORIには、OpenSeaをはじめとしてNifty GatewayやZara、Manifold、SuperRare、Foundationなど他のNFTマーケットプレイスやスマートコントラクト作成者が参加する

  • Operator FilterツールによってブロックされるEtheruemマーケットプレイスをCORIが監査する

  • 複数人がサインして初めてトランザクションが承認されるマルチシグネチャーウォレットを利用して管理を行う=管理を分散化する

懸念されていたブラックリスト化の機能を通したOpenSeaによる競合の排除をできなくするため、ブラックリストツールの分散管理を可能にする仕組みとその座組みを発表した形となりました。

■Magic Edenの方針


OpenSeaからは少し遅れる形で、12/1にMagic Edenも同じようなツールであるOpen Creator Protocol(OCP)を発表しました。
こちらもNFTのクリエイターが希望しているにも関わらずプラットフォーム側がロイヤリティの支払をサポートしなかった場合、そのプラットフォームをブラックリストに登録し取引されないように設定することができるツールです。

他にも、このOCPを通してロイヤリティのダイナミックプライシング機能(高価なNFTについてはロイヤリティ率を下げるなど)や、ローンチ時のNFTが全てミントされ切る前の転売を禁止する機能などクリエイターの選択肢を増やす機能が利用できるようになるとのことで、ブラックリスト化の機能を皮切りに他の機能も利用できるようにするという点も、OpenSeaの対応と同様でした。

そして12/14、Magic Edenはさらにプラットフォーム上で支払ったSOLの金額に応じて手数料の割引や、無料NFTのプレゼントなどが特典となるポイントシステムを発表しました。

また、Magic Edenは最近まで全ての2次取引に対して、2%の手数料を取ってきたが、10月以来それを停止。2023年の1月以降からは新たな手数料のモデルを導入する予定であると発表しました。
その方法は、今までの出品者のみからの徴収ではなく、出品者と購入者双方で手数料を負担する方法で、その負担割合についても獲得ポイントによって変動し、最大45%オフで取引ができるようになるとのことです。

このポイントシステムを、ロイヤリティとして追加のSOLを支払うインセンティブとすることで、ロイヤリティの支払を積極的に行ってもらうことを目的とした施策と言えます。

■なぜNFTクリエイターのロイヤリティはここまで重要視され議論されているのか?

NFT販売で大きな収益を上げているプロジェクトは、二次流通時のロイヤリティを通して収益の半分近くを上げているケースが多く、Ethereumチェーンのロイヤリティだけの流通額が$1.8Bに達しているからです(NFT Royalties Top $1.8 Billion: Galaxy Digital - Blockworks)。
例えば有名なプロジェクトだと、Gary VeeのVeeFriendsは発売開始後1週間で$51M売上げ、その後90日で収益の合計は$91Mになったと言われています。
Gary Veeは完売後の$40Mに対して、ロイヤリティの10%である$4Mを受け取った計算となりますし、その後も二次流通する度に10%のロイヤリティを受け取ることを考えると、これがあるのとないのではNFTクリエイターにとって全然違うことは容易に想像できます。

有名ブランドによるNFTプロジェクトでも、一次流通時の売上を二次流通額が上回っていることも多くNIKEとAdidasのプロジェクトではロイヤリティの額が一次流通時の売上に迫るほどです。

@kingjames23 / NFT Brand Case Study Last updated: September 1
Nike revenue includes CloneX sales and royalties pre-acquisition, as it more accurately reflects overall performance.

また、そもそもNFTがここまで流行したきっかけの一つに、アーティストに対する正当な対価の還元が可能になる技術であることが挙げられます。
そういった背景がある中で、プラットフォームがシェアの取り合いを勝ち抜くという目的でロイヤリティの支払いを任意にしてしまうことは、反発を招いても仕方のないことのように思います。

記事作成時点の2022/12/16現在も様々な議論が行われており、OpenSeaやMagic Edenからも今後追加のツールや方針が発表されることも公言されているので、まだまだこのテーマは追っていきたいと思っています。

■蛇足

面白いのは、こう言ったトレンドを取り入れているのがマーケットプレイスだけではないことです。
Solanaチェーンで最も人気のPFPプロジェクト「DeGods」もロイヤリティを0%に設定した。EthereumチェーンのPFPプロジェクトとして流通学No.1のCryptoPunksもロイヤリティを0%に設定しています。
ロイヤリティで大きくなったプロジェクトが後続の姉妹プロジェクトのロイヤリティを0%に設定することに対して反発もあったが、「DeGods」としてはロイヤリティの支払いが逃れられるものである以上、それに依存しない新しい収益化のモデルを模索するために必要なことであると考えているようです。

Header Photo by Josh Appel on Unsplash


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