臨採日記【歌詠みの求むる書】

【教科書】
葉月の二日、
面接試問のそぞろ神にうろたへたりしかど、
心満たすほどの物のあらず。

これ、
童の予防接種を待ちゐたる心地に似たれば、
早く過ぎよ、とも、なほしばし、とも。

つれづれに各社競ふて出だしける教書を購ひ求め
見比べたりなどす。
近年、学習指導要領の新たなる移ろひありたるに
まづ高等学より、中学、小学、と読み解きぬ。

翁、思ふに、現代、検定とかや機能せむものにや。

殊に、高等学の教書は言語文化たるもののあるを、
いかがなりやと思ふことぞ多かる。
知者、論文、学会にても
結論いださずにありたる事項をだに
「かくのみあり」と言はむやうなるありさま
はなはだ見苦しきこと多し。

教書にありたるを全て真とするに足らず
さりとて
教書にありたる全てを偽と言ふに値はず

説きかたのひとつなりや、と思ふところなれど
偽を以て思考し、
それをのみ正答となすはいかに。

翁、あやしむに、
「貫之の頃、女手に真名はなし」
とは、真なるや。

女人なれば軽んじらるるべし、とかや
香ばしき臭いもぞする議論の呼びたらむほどに
声高くして言ふものにもあらで
鬱々と時を過ごせり。

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