見出し画像

「鉄瓶の」

  鉄瓶のふちに枕しねむたげに
  徳利かたむくいざわれも寝む


若山牧水の歌による
平井康三郎の歌曲集
《酒の歌四章》の最後の曲。

歌詞となった歌は大正12年に出された
牧水の第十四歌集『山桜の歌』から。

火鉢の上に載せた鉄瓶の中で
ぷかりと浮かんで傾いてる
ほとんど空になった一合徳利、

うつらうつらしながらも
酔眼でその徳利を眺めている牧水、

「深夜独酌」との注記にあるとおり
静かな中に、けだるさと
不思議な多幸感を感じさせる一曲。

お酒を飲んで、いい気分になって
やがてふわっと眠たくなる・・・

この瞬間こそが
もしかしたら酒飲みにとって
一番幸福な瞬間なのかも。

ここを過ぎてしまうと
次に来るのは
酔い醒めの寒さだったりするのだから。


今年は例年より早く
寒さが訪れているようで
まだ10月だというのに
朝晩の冷え込みが
肌にしんしんと沁み込んでくる。

こんな夜を独りで過ごすなら
暖かい湯豆腐と熱燗で
静かに一杯やりたいところ。

今の時代、
TVをつければ画面の向こうで
タレントたちが馬鹿話で盛り上がり
スマホを開ければ
動画や写真、煽り文句のオンパレードで
騒々しい事この上ない。

SNSなどで盛り上がったりするのも
それはそれで楽しいのだろうけど、
静かな時間と静かな空間を
楽しむ余裕というものは
生活の中から無くなってしまったのではと
感じたりもする。

牧水のこの歌にある
気怠さと物憂さと
それ以上に豊饒な
酒と対峙し酒と語らう雰囲気・・

私は酒が飲めない体質ではあるが
この雰囲気には強い憧れがある。

(また、この歌に
 平井康三郎がいい曲をつけているのだ!)


平井康三郎の《酒の歌四章》、

あまり世に知られていないチクルスだが、
詩も音楽も、深い味わいのある
本当に素晴らしい作品であると思う。

これからも機会があれば
このチクルスを歌い続けていきたいものだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?