見出し画像

ひとのラブレターを大声で

近藤です。

手を伸ばしたら山を渡っていく雨雲を掴めるんじゃないか、と思う山の我が家です。

山から町までちょっと遠いので割と長い時間車に乗ります。道中、いま勉強している語学の単語や会話集を聞いたりするのですが、大抵は音楽を聴いています。

楽団で指揮をする曲を聴く時は、おかしい話ですが歌いながら結構手を振り回してしまいます。信号待ちの時に盛り上がっていたら隣の車の人と目が合ったことがあり、それ以来なるべく気をつけて小さめの口と手の動きを心がけて曲を聴くことにしています。(とても難しいことですが)


最近はビオラを演奏することが多くなってきたので、音楽の中のビオラの音を探しながら聴きます。

ビオラって無いと物足りないのに、あってもあんまりわからない楽器なのがちょっと切ないところです。楽譜だけ見てもメロディーが浮かばないことのほうが多いパートなので、私の場合は曲を聴いて馴染むことが必須。その時にはなんだか体もすっごく動いちゃうんですよね。

信号待ちの時の私は外から見るとやっぱり不思議な感じだろうなと思います。


アクション大きめでクラシックを聴く私ですが、指揮をするわけでも演奏するわけでもないけれど常に聴いている特別な曲が一つあります。そしてそれは車の中だけでしか聴きません。

(子どもたちからは高速道路で聴いて欲しいと強く言われています)

それはアダージェット。マーラーの交響曲第5番の第4楽章の曲なのですが、出だしと終わりがとても小さい音の曲なのです。そのくせ盛り上がるところではこれでもかと言うぐらいの大きな音。小さい方の音に合わせると大きいところはびっくりするぐらいの爆音になり、大きい音に合わせた音量で聴くと小さいところがちっとも分からない。そんな曲なのです。

小さい音の最初の一音まできれいに聴きたい私としてはついボリュームを上げてしまいます。そして、盛り上がるところでまた下げる。でも本当は下げたくないので大抵忘れたふりをしてそのまま聴いています。すると隣に座った息子がそっとボリュームを下げる。いつもそんな感じです。

なんでもこのアダージェットはマーラーが運命の女性に宛てたラブレターだと言われています。そんなロマンチックな曲を私ときたら車で走りながら大音量で聴いているのです。

つまり私は、誰かが自分ではない女性に宛てて書いたラブレターを全速力で走りながら音読しているわけですね。かなりの大声で何度も何度も。

「ぐっとくるラブレターだなあ」なんて感心しながら。

ごめんね、マーラー。

では、また。