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葡萄パンと仁鶴の夢

 前書き:以下の夢日記は4年程前の冬の日に書いた物からの抜粋である。不思議と東京に暮らしている夢を見ている。しかし当時の私は東京のことを知らないので、東京の景色は出てこない。

 私が東京に越してきてどれほどの時が経っただろうか。東京にいるのに私は何故か変わらず汚い学生寮に暮らしていた。今日も同じように粗末なベッドの上で目を覚ます。私は朝食のために机の上の混沌から葡萄パンの袋を掴み取ると一つ取り出して咥えつつ、珈琲を飲むために冷蔵庫の上の湯沸しを取りにいく。すると湯沸しの隣に買ったまま忘れていた葡萄パンの袋がある。あれ忘れていたのか、と思いながら珈琲をいれつつ冷蔵庫を開けると中には葡萄パンの袋が入っている。買ったのに忘れていたのか、と思いながらそこから二つ目の葡萄パンを取り出すと咥えながらベッドに腰掛けた。珈琲を飲みながら机の上の混沌を眺めていると齧りかけのレーズントーストが転がっているのに気が付いた。
 私がレーズントーストを齧っていると不思議な人が私を訪ねてきた。その人は私に仁鶴を授けると言った。はて、仁鶴とはなんだっけと考えていると、とにかくもう授けたからといってその人は細かなチリになって窓から飛んで行ってしまった。私は仁鶴とはなんなのか考えながら珈琲を飲み、しかしもう授かったのなら仕方あるまいと意気込んで外に出ようとドアを開けた。開けるとそこには真っ黒な女の子が立っていた。墨を水に溶いたように黒々と淀んでいて、何故女の子とわかったのかはわからない。表情もわからぬ程に黒いのである。私は少し怯んだが仁鶴を授かっているのだからウムとその女の子を抱きしめた。女の子は黒く散り散りに飛んで消えていってしまった。
 
 

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