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最近の記事

夢に愛され、夢に生きた人『夢の回想録 高田賢三自伝』

2020年10月、新型コロナウイルスによる合併症により81年の生涯を閉じた高田賢三。 姫路市に生まれ、絵が得意で中原淳一に憧れ、宝塚歌劇に夢中になった少年は、大学を中退し文化服装学院に入学する。恩師小池千枝のもと、同じクラスになったコシノジュンコ、ニコルの松田光弘、ピンクハウスの金子功らと切磋琢磨しながら学び、「装苑賞」を受賞したことでデザイナーとして身を立てていくことになる。 1965年に渡仏し、パリでいち早くプレタポルテとして注目をあつめ成功した高田賢三。とくに70年代

    • 「これぞ東山彰良!」の短篇集『わたしはわたしで』

      テーマが異なる6篇からなる短篇集。 I love you Debby 直木賞受賞作『流』の、登場人物たちの後日譚。 アメリカで娘と暮らす唐哲明。うまくいかない親子が久しぶりに帰国した台湾で、叔父を通して哲明の父親にまつわる秘密に触れていく。 『流』の後日譚というだけあって、台北の裏町の暮らしや、濃厚な親戚付き合い、おせっかいだけど個人主義な人々が描かれていて、「これぞ東山彰良」という短篇。 ドン・ロドリゴと首なしお化け 舞台はメキシコ。統合失調症で療養施設にいる身寄りのな

      • 自由を愛した芸術家の人生『ムーミンとトーベ・ヤンソン』

        ムーミン、と聞いてどういうイメージが湧くだろうか。子供向けのアニメで人気になり、キャラクター商品もいっぱい発売されているキャラクター……というところが一般的なのでは。 ご多分に漏れず私もそういう認識だった。なにやら小難しいことやわがままを言い出すムーミンたちのアニメを見て、普通のアニメとは違うと思ったものの、その違和感を突き詰めずに成長した。 ビッグイシュー日本版 No.470号の巻頭特集はトーベ・ヤンソン。昨年末から公開されている映画「ムーミンパパの思い出」にあわせたも

        • 15人の台湾旅の記憶『台湾余香』

          台湾が好きだ。仕事でも私生活でも煮詰まりきっていた20年ほど前、テレビで見た魯肉飯がどうしても食べたくなり台湾に行った。見事にハマった。ゆったりしていて、食べものが美味しくて、中国語が話せなくても筆談でコミュニケーションが取れる。滞在中どんどん気持ちが楽になった。 その空気が忘れられず半年後に再訪、それからは年2,3回、1週間程度滞在するようになった。 「台湾好き」と話すと、「ゆっくりできて、おいしいものが食べられて、ストレスがない!」とみな口を揃えてニンマリ笑う。わかるわ

        夢に愛され、夢に生きた人『夢の回想録 高田賢三自伝』

          検査入院してきたので持ち物反省会をする

          1泊2日で内臓疾患の検査入院をしてきた。入院は13年ぶり2度目。事前ガイダンスに従って必要なものをあれこれ揃えたが、失敗があったので記録しておく。 柵にスマホをくくりつけるゴリラポッドがあると超便利? 普段リアルタイムでテレビをほぼ見ないので、テレビ使用オプションを外した。近眼でメガネをかけないと床頭台の上のテレビなんて見えないし。 絶対安静の3時間、スマホを持ってあれこれ見てたらだんだん手が疲れてきて、顔の上に落としそうに。ベッドの柵にくくり付けることができるゴリラポッ

          検査入院してきたので持ち物反省会をする

          映画『PERFECT DAYS』

          第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、役所広司が男優賞、作品がエキュメニカル審査員賞を受賞した本作。 役所広司演じる平山は、決まったルーティンで毎日を送っている。朝5時15分に起き、布団をたたみ、歯を磨き、植物に水をやり、缶コーヒーを買って軽自動車に乗って渋谷区にあるトイレの清掃へ向かう。帰ったら銭湯へ行き、自転車で浅草まで行って1,2杯飲み、夜は布団のなかで文庫本を読みながら過ごす。 平山は無口だ。清掃の同僚の軽口にものらない。だからモノローグもない。

          映画『PERFECT DAYS』

          いま一番アツイ雑誌『建築知識』

          いま一番アツイ雑誌は何か、と訊かれたら、『建築知識』と即答する。2023年の特集ラインナップをご覧あれ。 この雑誌は主に設計者向けだと思うけど、かなり読書欲をそそられる。たとえば「作家の住まいと暮らし詳細絵巻」では紫式部が源氏物語の構想を練ったと言われる石山寺の部屋をイラストで解説している。文櫃の寸法なんて意識したこともなかったけど、入れものの寸法から巻物の大きさ(=軸の長さ)がわかり……という具合で、鴨長明の庵(!)、夏目漱石、芥川龍之介、江戸川乱歩、松本清張、あさのあつ

          いま一番アツイ雑誌『建築知識』

          『私の生活改善運動』安達茉莉子

          書店へ行き、ぱっと目について手に取る本は独立系出版社のものが多い。タイトルが流行りのフレーズではなく、決してベストセラーにはならなさそうだけど、一部の読者には確実に響くもの。そう、大手出版社が忘れてしまったかのような本たち。 ZINEとしてシリーズ累計5000部を記録したエッセイをまとめたこの本もそのひとつ。 Amazonの紹介リンクを貼ったけど、表紙はもう少しベージュがかっていて、黄朽葉色(https://www.colordic.org/colorsample/2174

          『私の生活改善運動』安達茉莉子

          “リセット”したい―自己紹介のようなもの

          オフィスワーカーとして働いてきて、2023年にメンタルと健康を害して休職しました(2024年1月現在、まだ休職中ですが)。 「休むってなに?おいしいの?」的な働き方をしてきたので、ドクターストップがかかった瞬間、とても不安になりました。でも自分の不調は甘くなかった。とにかく身体が動かせなくなったのです。 休職して2週間ほどはメールやチャットを開いてポチポチ仕事をしていたものの、その後はふっきれて完全休養、散歩して、本を読んで、音楽を聴いて、映画を観て、ゲームをして…という生

          “リセット”したい―自己紹介のようなもの