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【音楽あれこれop.8】 年末を100倍楽む。ホルスト作曲《組曲「惑星」》vol.1

皆さまこんにちは。平成から令和へ元号が代わり、消費税も増税したりと、社会的変化の大きかった2019年もいよいよ終わりが近づいて来ましたね。年末と言えば「東急ジルベスターコンサート(テレビ東京系列)」!12/31~1/1にかけて放映されているクラシックコンサートで、クラシックファンにはおなじみですね。毎年、曲の終わりがぴったり1/1になった瞬間になるように演奏され、その指揮者の手腕にも注目が集まります。さてそんな今年の年跨ぎの曲は、来年の明るい未来を予感させる

ホルスト:《組曲「惑星」》より「木星」

です。

クラシックファンではない方にも、平原綾香さんが歌った「Jupiter」としてよく知られていますね。今回はこの超有名曲を紐解いて、よりジルベスターコンサートを楽しんじゃおう企画です。(※個人的に勝手にやってます)。


《惑星》の作曲家はどんな人?

この作品を作曲したのはイギリスの作曲家

グスターヴ・ホルスト(1874-1934)

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です。

彼はスウェーデン人の父からピアノを学び、10代の頃には既に作曲もしていました。その後ロンドンの王立音楽アカデミーへ入学し、音楽、そしてトロンボーンを学びます。音楽アカデミーを卒業してからしばらく、トロンボーン奏者として生計を建てていた時期もあるくらいの腕前でした。

その後、東洋哲学やインドの文化に興味を持ったりと、様々な分野を音楽に取り入れて行ったホルスト。親しい間柄だった作曲家アーノルド・バックス(1883-1953)、の弟のクリフォード・バックスから占星術を学び、その知識を元に音楽を作り上げます。それが《組曲「惑星」》作品32*でした。

それでは《組曲「惑星」》の事を少し学んでいきましょう。


《惑星》の楽曲構成

まずは曲の構成から。太陽系の7つの惑星に一曲ずつ当てはめた7曲から成り立っています。

1.火星、戦争をもたらす者

第一次世界大戦中に作られた。ティンパニ等による五拍子の力強いリズムや、終盤に向けてリズムが入り乱れて行く等、血気盛んな音楽。最後も激しい同音連打(同じ音の連打)で幕を閉じます。

2.金星、平和をもたらす者

ホルンと木管によって穏やかな音楽が奏でられ、全体的にのどかな雰囲気。途中のコンサートマスターのソロも聴きどころです。

3.水星、翼のある使者

天空の使者が空を駆け巡るイメージ。せわしなく、スケルツォ的な(ふざけた、ユーモラスな)性格を持った作品。

4.木星、快楽をもたらす者

この記事の主人公。全曲の中で最もスケールが大きく、オーケストラの楽器編成も大きくなっています。詳しい解説はvol.2で。

5.土星、老いをもたらす者

第一主題がコントラバスによって奏でられ、まるで老の嘆きを表現している様。曲の最後は鐘の音と共に穏やかに締めくくられる。ホルストはこの曲を最も気に入っていました。

6.天王星、魔術師

ポール・デュカス作曲《魔法使いの弟子》に影響を受けたこの作品は、他の六曲とは一線を画した雰囲気。まるで魔法の呪文が奏でられている様。

7.海王星、神秘主義者

神秘的な、静かな作品。全7曲を締めくくるこの作品の最後の小節は、女性コーラスだけになり、一小節にだけ繰り返し記号が書かれています。

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ホルストはこの部分に対して「この小節は遠くに消えるまで繰り返される」と書き記しています。

またホルストはこの曲(海王星)に対して、こんな言葉を残しています。

「各楽器は終始ピアニッシモで演奏して、残響音を極力なくすこと。女声合唱団を聴衆から見えない別室に置き、部屋の扉は開けたままにしておくこと。そして曲が終わりに近づくにつれ、静かに扉を閉じていくこと。」

この指示通り、女性コーラスは舞台上ではなく舞台裏で歌う事が通例となっています。


はい、とっても簡単にですが全体的の構成を見てみました。でもこれを見て、こんな事言いたい人いるんじゃないですか?

惑星なのに地球入ってないじゃん!

そう、残念ながら地球は仲間入りしていません。これは、ホルストが天文学ではなく占星術を参考にした為です。別に「地球」が上手く作曲出来なかったからではないですよ。そしてもう一つ、各曲に付いているイメージですが、それに対してホルストはこんな事を言っています。

「確かにこれらの曲は、占星術を学んだ経験から着想を得ましたが、特に標題付きの音楽にしたつもりではありませんし、神話の神々とも直接関係はありません。しかし、もしあなたがこの組曲に対する注釈を必要とするならば、各曲の副題をそのまま広義として捉えていただいても結構ですよ。」

因みに曲順ですが、本来は水金火木〜となる所、ホルストは火金水木〜としています。これは曲の構成を「急、緩、舞、急、〜」と交響曲的に配置したかった為と言われています。


《惑星》、人気の変遷

実はこの《惑星》という作品、今でこそ世に知られた作品ですがずっと人気があったわけではありません。初演の時はその新しい試みが聴衆にハマり大成功となりましたが、同時代のドビュッシー(1862-1918)やストラヴィンスキー(1882-1971)の影に隠れ、一瞬でブームは去ってしまいます。再評価を得たのは1960年代、世界的指揮者ヘルベルト・フォン・カラヤン(1908-1989)がウィーンフィルとの演奏会で紹介し、更にはこの作品を録音したレコードを出した為。これが大ヒットとなり、《惑星》はクラシック界の超有名曲となりました。

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(ヘルベルト・フォン・カラヤン。めちゃくちゃダンディ。)


まとめ

ここまでの事を踏まえた上で是非一度《組曲「惑星」》を聴いてみて下さい。少し長いのですが、一日一曲ずつ聴くと丁度来週の記事までに全曲が聴き終わりますよ!笑

(演奏:シャルル・デュトワ指揮/NHK交響楽団)

さてvol.1はここまでです。年末に向けて少しずつ気持ちが高まってきましたね。vol.2ではいよいよ「木星」を掘り下げて行きます。お楽しみに!


*最初ホルストは《7つの管弦楽曲》として作曲していた。これはシェーンベルク(1874-1951)の《5つの管弦楽曲》を参考にしていた為。


コロンスタジオライティング部

ライター:青竹(Twitter : @BWV_1080)

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