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口は目ほどにものをいう?

日本をでて、いろんな違いや共通点に気がつくようになるけれど、そのひとつが「美意識」だ。

最近きいてびっくりしたのはJapandi(ジャパンディ)ということば。
どうやら北欧のインテリアスタイルを表すScandi(スカンディ)から派生してできたことばで、「日本の美意識を取り入れた、北欧のインテリア」ということらしい。
そのジャパンディが、コロナによって家にこもる時間がふえたことで、静寂や簡素といった禅のこころを求めるトレンドにマッチして、2020年ころから世界的に流行しだしたのだとか。

IKEAの成功で、すでに世界中で一般的になったスカンディはシンプルで機能的なものに美しさを見出すもの。
日本の伝統的な和室と共通点は確かに多いし、その流れも納得がいく。

SNSなどの発達によって、世界的な流行スタイルが生まれやすくなっているとはいえ、やっぱり、文化によって、本質的に肯定的に捉えられる色や形、触感、スタイルというものは違うと思う。



たとえば、ヨーロッパの空港やモールにときどき入っているDesigualというブランドを見かけると、そのあふれんばかりの色彩とパターンにハッと目が引き寄せられる。

お店自体も、その品物も、色と柄にあふれている

と、同時に、私とはテイストが違うので、絶対に中に入ることはないなとも思う。
スペイン人に好まれる色やスタイルは、あの圧倒的な強い日差しや、濃い木々の緑や深い海の青、オレンジのタイルと白い壁の家々を背景としているのだろう。
しかもその中で自分を周囲に溶け込ませるのではなく、際立たせたいという気持ちがあってのことだろう。

イギリスでいえば、空の色はたいてい灰色。背景のレンガ造りの建物がベージュや茶色の濃淡。
ということで、南欧ほどではないにせよ、ピンクや赤、明るい青など割と強い色を差し色にアクセントとするひとが多い気がする。

ちなみに、明るい色のお召し物といえば亡くなったエリザベス女王。
でも彼女が公式の場ではいつも派手な色で帽子と洋服をマッチさせていたのは、警備をしやすくするため。
普段着はシックな色合いが多い。

目立ちますもんね。

とはいえ、そんなパッと目を引く色の洋服がそこまで違和感なく溶け込んで感じられるのは、背景が地味なレンガや石造りの建物だからだと思う。

気候や文化、何を美徳とするか。
そもそもの街並み。
そもそもの顔立ちや体格。
そういったものが美意識には大きく影響する。

アメリカ人のジャーナリストEsther Honigが「Before & After」と題して取り組んだ試みがある。
自分の写真(下記中央)を渡し、世界のいろいろなひとに「この写真を美しく加工してください」と依頼するとどのような結果になるかというものだ。

肌の色、髪の色、洋服を着るべきか、ヒジャブが要るかまで

女性の体形の「美しさ」もまたしかり。
同じような試みを、体型の視点でやったのが「Perception of Perfection(完璧さの観念)」という調査だ。

元のモデルをほとんど変えないコロンビア。めちゃ細くする中国にイタリア。
なぜかブーツを履かせるオランダ。
美意識とは…としみじみ考えさせられる。
(https://onlinedoctor.superdrug.com/)

これをみると、いかに「美」というものは客観化できないものかがよくわかる。
もちろん同じ文化圏の中だって好みや美しいと思うものは違う。
でも大きな枠では、たいてい母国の価値に影響されているし、無意識のうちにそれを基準にしているだろう。

だから、自分の文化圏を飛び出し暮らしてみると、自分が思いもしていなかったところを褒められたり、逆に自分がほめ言葉のつもりで誰かに言ったことが違った印象で受け取られてしまったりする。

この前、日本にいくまえに、トレーシーに頼まれた買い物があった。
それは、リップグロス。

「いい色のグロスを使ってるじゃない。それどこの?」

そう訊かれて、日本のだといったら、えらく残念がる。
じゃあ家に新品があるからそれをあげる。プラス、2月に日本に出張でいくから、その時にちゃんとあなたに似合いそうなやつを買ってきてあげるねと約束した。

欧米で口紅を探すと、ぽってり、大きく、セクシーにみせるための商品が圧倒的だ。みんなも、できれば肉感的な唇にしたいんだという。
正直、幼いころからタラコ唇だとさんざん言われてきたわが身にすると驚くばかりの発言だ。
おちょぼ口、薄いアヒル口をかわいらしいと捉える日本とは違い、そもそも薄い唇が多い欧米人にとっては、アンジェリーナ・ジョリーのような肉感的に厚みのある唇がセクシーなようだ。
そして、リップフィラーとよばれる唇を厚くする整形もとてもポピュラーだ。

ミーガン・フォックスのビフォーアフター

私は自分の唇が嫌いでたまらないまま育ったので、普段は何も塗らない。
それが変わったのが、南アフリカ人のジェシカにいわれたひとことだった。

「そんなみんなが欲しがる唇しているのに、目立たせてあげないなんてかわいそう」

会社の年末クリスマスパーティーのドレスアップで、会場の着替え室でみんなゴージャスなカクテルドレスに着替えている最中のことだった。
彼女がもっていた真っ赤な口紅を「だまされたと思って今夜だけつけてみろ」といわれた。

すると、どうだ。同僚たちがみんな褒めてくれた。女性たちはうらやましいとさえいってくれた。

もうひとつ。

日本発祥で世界にひろがった絵文字。海外でもEmojiとして通用することばに今やなっている。
その絵文字に垣間見える「意識の違い」に注目してみたい。

日本の絵文字は、目がへの字型になることで笑顔を表現し、丸になることで興奮を表している。

日本の絵文字

一方、海外で最初に使われていた絵文字たちは、こんな感じ。

眼鏡とウインク以外は目はみんな同じ黒い丸でしか表現されない。
そう。感情を表す鍵になるのは、目の変化ではなく、口元の表情なのだ。

ブラックベリーなんかで最初に使われ始めた時は、右側を下にしてみるということがわからず、
なんでこの人はコロンをたくさん打ってくるんだろうと不思議に思っていた。

日本では、ことわざにある通り「目は口ほどにものをいう」のであり、口元の表情にかかわらず目から感情は伝わると無意識に考えている。

だから、目を変えることで絵文字が伝える感情が変わる。

目で感情が伝えられるから、口元を隠すマスクの着用にも抵抗がない。

それどころか、日本の女性は、笑うときには口元を隠す。

いっぽう、欧米は口こそ感情を伝える窓口だと思っている。
だから、感情の明確な発露である笑いのシーンで日本人のしかも女性だけが口を隠すのは、奇異な行為に映る。
だからこそ、欧米のコメディなどで日本の女性の特徴をとらえるときに、よく使われるのがこの口元を手で隠して笑う仕草なのだ。

BBCのコメディ「リトル・ブリテン(Little Britain)」で大人気になったマット・ルーカス(Matt Lucas)とデヴィッド・ウォリアムス(David Walliams)の後作「Come Fly With Me(邦題 マットとデヴィッド ボクたち空港なう)」でもそんなシーンがでてくる。

口を隠して笑う、というかもはやタバコある?のしぐさぽいけど

「口は目ほどにものをいう」欧米における、口の重要さは、歯への関心の高さにもよく表れている。

歯並びが悪いのをそのままにしていることは、お育ちがしれるという感じで、小さいころから歯の矯正をする子供たちが多い。
また、八重歯がかわいいという発想もない。

トレーシーには、岡山のマツキヨで、たっぷり時間を取って厳選し、3本買って帰ってきた。
私にとってはうらやましい限りの彼女の薄く小さな唇を、できるだけ豊かに見せるために。
つやつやのぽってりしたグロスだ。

「この前もらったやつも、すごくみんなに好評だったの。だからこれも大事に使うわねー」

試しにつけたつやつやの唇をひろげて、トレーシーは華やかに笑った。

そう、手で隠したりなんかせずに。

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