開悟日記 2 母の介護は自身の心の介護だった

目まぐるしく毎日が過ぎていく。
認知症のよくある症状などを勉強していると、母に当てはまることが多い。

お金がなくなったと家族を疑ったり、通帳を隠しまわってどこにいったか分からなくなったり、気になる物事について異常な執着を見せたりする。

そしていつも一緒にいる私の前ではすぐ切れて怒鳴る。

こんな時、介護する人は何故そのような行動を起こすのかという理解に努め、相手を責めずに受け入れる努力をするのが正解なのかもしれない。

しかし私は怒鳴り返すことも多々ある。
母は認知症なのだからと思っても自分の気持ちの行き場を失ってしまうのだ。

特に母に理不尽な態度を取られると子供の頃の記憶がフラッシュバックしてくる。

そんな時、私は自分の事を肯定も否定もせず、ただじっと気持ちが収まるのを待つ。

介護と言っても人それぞれ段階があるのかもしれない。

例えば、営業マンが顧客に対し笑顔で話すとか、相手の目を見て話すとか、そういった人とのコミュニケーションに於いて大切なことを普通にできる人もいれば、笑顔の練習からしなくてはならない人もいると思う。

介護もそれと同じで、介護をする相手との関係性だったり、それに付随する介護者の心の状態だったり、十人十色なのかもしれないなと思った。

しかし、母の介護を通し、自分の何かが満たされていることも感じる。

何なんだ?これは??

そう思っていた先週、母の歩くリハビリもかねて近所のスーパーに行った。

私一人で歩いていけば10分もかからない距離だが、入院し益々筋力が落ちてしまった母は、少し歩いては休んでの繰り返しで片道40分近くかかってしまった。

ボケる前からかなりの浪費癖のある母は、スーパーに行くといつも同じようなものを1万円以上買っていたらしい。

今回も家に4箱もストックがあるコーンスープを2箱スーパーのかごに入れる。

私がお母さんこれも家に沢山あるよと言うと、「ごちゃごちゃうるさいんだよ!このドケチが!!!」と人前で怒鳴られる。

何とか母をなだめ、久しぶりにマックでハンバーガーを買った。

コロナで自粛の時だからテイクアウトして家でゆっくり食べようとすすめるが、お店で食べるといってきかない。

幸い昼前だったこともあり、お客もほとんどいなかったので、店内で食べることにした。

エビフィレオを口いっぱいにほおばり、タルタルソースを口の周りにつけて、口の中丸見えで「美味しい!あんたも早く食べなさい」と話しかけてくる母。

もし他人が見たら何と行儀の悪い人なんだと思われたかもしれない。

しかし私は、そんな母の姿を見て愛おしさが込み上げてきた。

いつまでこの笑顔を見れるのだろうと思ったら、何だか泣けてきた。

毎日母に怒鳴られたり、否定されたりして腹が立つことも多いけど、泉のように湧き上がってくるこの愛情というか、感情は何なのだろう?と自分でも不思議に思った。


そして翌日、便秘の薬を3錠飲むといってきかなかった母は案の定下痢になった。

おむつを嫌がるので、パンツに生理用ナプキンをつけていたのだが、派手にお漏らししてしまった。

パンツやズボン、母の身体にもたくさん汚物がついてしまったので、おしりふきできれいに拭き取り、ふろ場で下着を洗った。

BISHの「オーケストラ」を歌いながら母の下着を洗っていると、また何ともいえない愛おしさが込み上げてきた。

私も子供の頃こうして母に面倒見てもらったんだよな。子供の頃の記憶はあまりないけど、母の介護を通じ満たされていくのは本当はこうして母と一緒にいたかったのかもしれないなと感じた。

子供の頃から私は母のことを怖いと感じていた。何かと傷つくことを言われ、私のことを否定してくる。

だから本能なのか、自分の身を護るため恐らく小学生くらいで精神的な親離れをしていたと思う。

大人になるにつれ、母とは分かり合えないんだという固定概念を持ち固く心を閉ざしていった。

私はありのままの自分を見てほしかったし、ありのままの自分を受け入れてほしかったのだ。

しかし今こうして、母の介護を通じ私は母と向き合い、自分自身の心と向き合っている。

怒りをぶつけてくる母に対し、怒る私。
わがままを言ってくる母に対し困る私。

ありのままの感情や欲望をむき出しにしてくる母をそのまま受け入れるということは=(イコール)ありのままの自分自身を受け入れることなんだと気付いた。

そこには見栄も外聞もない。

本来あるべき自分の姿なんだ。

母と一緒でなければ気付けなかった心の世界。

介護と言っても私は母の生活を手助けしているだけで、本当はずっと閉ざされていた私の心の介護をしてくれているのは母なのかもしれないと思った。

お母さん、ありがとう。

今日はお母さんの好きな新玉ねぎを食べよう。





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