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「トライアスロンの日々3」         1985年宇7月末 館山の遠泳

自転車で海へ行く
「イケさん、明日はロードバイク(自転車)で館山まで行きませんか?」
後楽園スイミングクラブの練習帰りに寄ったお好み焼き屋ソラマメで、モリヤマさんがこれで3杯目のビール中ジョッキを飲み干して言う。
「え、だって、遠泳の開始が10時だよ」実は、明日館山で湾を横断する遠泳4キロに参加する予定。
「大丈夫ですよ、5時間くらいでいけます」
「距離は?」
「150キロ、大丈夫、明日3時にいつもの場所で」
俺はまだ30歳、問題ない。いや深く考えない。
 
「わかった、じゃぁ、明日早いし帰ろう、もう11時だ」
「そうですね、じゃあ、マスター、中生2杯お願いします」
「え!」
「これ飲んでから帰りましょう」留めの1杯、だから酒飲みは嫌だ。
 
スタートは深夜
朝3時 真っ暗だ。ほぼ寝てない。
天気は雨、雨の中ロードレーサーで走りに走り、館山に着いたのは8時30分、ようやく雨は上がった。朝日で海岸が光っている。雨上がりですがすがしい気分だった。
さて、ここで海岸で前夜から野宿していたヒサミツさんと合流。隣にはなぜか大柄な白人がいた。
「誰?」
「うん、隣で寝ていたから、飲みながら話をした」
白人のバックパッカーとヒサミツさんは色々話をしたらしい。
その白人がいきなり日本語で言う、
「皆さん、今日海で泳ぐんですね、頑張って、さようなら」
そして浜辺を歩いて去っていった。何処へ行くんだろう。

そうだ思い出した。これから俺達は4kmの遠泳なのだ。しかし、横断の遠泳だと、自転車をスタート地点に置いてると、後で4キロ歩いて取りにいくことになる。ちなみに、着替えと貴重品はゴール地点に主催者側で持っていてくれる。
俺達は、所定の場所で着替えた。大会にクラブで参加するKO大付属の高校生達が、お互いの背中に色々と太いマジックで落書きをしていた。
「***子、好きだ!」「俺は童貞」「馬鹿です」などなど、これで泳ぎ終われば、日焼け後、体に残る。女生徒達が笑っている。高校生はいいね!
 
館山の遠泳
スタートは桟橋から飛び込み、フローティングスタートだ。
天気は快晴、「気持ちいい!!」
トライアスロンと違い、ブイなどない。なんとなく方向が決まっており、海岸の山や建物を目印に目標を取って泳ぐのだが、慣れないので、迷走する。併走は漁船なので、取りあえずそれを目で追っていく、特に波も潮流も激しくなかったので、何とか完泳。
 
着替えて、ふらふらしていると、俺達のスポンサーのトーマスさんを発見。
「おーっ、楽しかったな、さぁ飯を食べよう」と俺達を馴染みのすし屋に連れて行ってくれた。
トーマスさんは吉祥寺の某病院のオーナーだが、大のトライアスロン好きだ。そして、若い子の面倒を見るのが好きな体育会系の50過ぎのオジサンだ。当然俺達はビール、酒と刺身、寿司をたらふくおごってもらった。まさに俺達の神様だった。
 
「じゃあ、帰るわ」とトーマスさんは待たせていた車で帰途についた。
お見送りをした俺らは、午後4時、日はまだ高いとは言え、自転車で東京へ帰る気力は消えていた。それは無謀だ。
ヒサミツさんの提案で黒いゴミ袋とガムテープをコンビニで買って、ロードバイクを簡易梱包して、輪行して電車で帰ることにした。
「これで、大丈夫?」俺。
「大丈夫、大丈夫」ヒサミツさんは気楽に答える。
  
アイアンマンはやはり凄かった
田舎駅のおかげで、なんとかロードバイクは持ち込めたが、車内は混んでいる。当然俺達3人は端っこで立っている。
俺は朝3時から運動しっぱなしで、その後酒を飲んで腹も一杯、眠気が襲う、出来れば座り込んで寝たい。そんな俺にモリヤマさんが言う。
「イケさん、天国みたいですね」
「え?」意味がわからん。
「だって、もう自転車に乗らなくっていいんですよ、本当に幸せですよ」
「え???」
俺はそれほど幸せではないけど、まあ、どんな状況でも前向きなアイアンマンのモリヤマさんらしい。

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