俺の中学生日記3 Born To Be Wild
いつから学帽が消えたのだろうか、当時は学帽を着用しないと生活指導の体育教師に殴られはしないが、それなりのパワハラを受けていた。
「帽子はどうした?」
「髪の毛を伸ばしてないか?」
そんな時代だから、中学生は大人達と違う独自の「時間と空間」で生きていた。SF的に言えば同じ空間なのにお互いが見えてない。そんな平行世界だ。大人達に本当の俺達の姿は見えていない。
ワイルドで行こう Born To Be Wild Steppenwolf
俺はサッカー部に入っていた。練習は野球部と同じで毎日ある。何時ものよう練習でくたくたになっていた。校門からでると、秋も深まり空はあかね色に染まっていた。帰り道、同級生の大原と原っぱの横を歩いていたときだ。
「ここに隠してある」
そう言うと、大原は原っぱの横の竹藪からそいつを引っ張りだしてきた。
「どうだ、凄いだろう、野川で拾った」
そこには、ホンダのスーパーカブがあった。フロントタイヤの泥よけと足周りの風よけはなくなってフレームだけになっている。骸骨みたいなカブだった。
「拾った?」俺は信じられなかった。
「お前、盗んでないか!」
「でけぇ声出すなよ。盗んでねぇーよ」
「嘘つけ」
「嘘じゃないって、誰かが盗んで、河原に捨てたバイクだ。ナンバープレートもないし」
「だったら、もっとやばいぞ」
大原は困った顔をしたが、それには答えず、カブを揺すった。
「ほら、音がするガソリンがまだ入っている。エンジンを駆けよう」
大原はカブに跨がりキックをするが エンジンはウンともスンとも言わない。
「壊れているに決まっているよ」と俺が言うと大原は考え込んだ。
大原は模型好きで、エンジンで飛ばすUコンを趣味としている。だから多少は内燃機関の原理をしっていた。
「プラグのバッテリーが切れたと思う。野川ではエンジンはかかったから」
「いいよ、帰ろう」俺は飽きてきた。
「そうだ押しがけだ。ケンジ、後ろからバイクを押してくれ」
「なんだよ、俺、疲れているからさぁ」と言いつつ、俺は大原の乗るカブを原っぱから隣接する道路へ向かって押した。5mくらい押したところで、大原がカブのギヤを入れた。カブはがつんと言う音を立てて、咳き込むようにエンジンがかかった。
「ひやっほー!」
雄叫びを上げて大原はそのままカブで道路を走り出した。道路と言っても周りは空き地や畑だらけだから余り問題はないだろう。大原は道路が竹藪で見えなくなる向こうに消えていった。エンジン音が遠ざかっていく。
しばらくすると、エンジンが音近づいてきた。今度は俺が乗るぞ。竹藪の陰から大原とカブが見えた。えらく飛ばしている。
「あれ?」カブの後ろに自転車が、「あっ!」なんとお巡りさんだ。
俺は大原に手を振るのを止め、慌てて駆けだした。原っぱの反対側にある工場の塀を乗り越えて逃げた。
「あの馬鹿タレが・・」
自宅に着いてから、俺は飛んでもないミスに気づいた。サッカー用具一式を入れたバッグを原っぱに残して逃げてしまった。
俺はあわてて取りに戻ったが、すでにバッグは消えていた。お袋に話す。
当然、詳細は話せない。たまたま忘れたと言い訳する。嘘をついてると思われ相当に怒られた。俺は当分の間学校ジャージで部活をすることになった。
「格好悪いなぁ」
話はちょっと戻り、バックを探していた時、俺は竹藪の中も探した。バッグはやはりなかった。しかし、何故だか竹藪にトキワレコード店の袋が落ちていた。中を開けるとシングル盤が1枚入っていた。映画イージーライダーのサントラ盤だ。
「Steppenwolf - Born To Be Wild 」そのジャケット写真、ピター・フォンダが演じるキャプテンアメリカ、乗っているバイクが格好いい。アメリカ国旗の描かれた小さな燃料タンクと長く延びたフロントホーク、チョッパーバイクだ。大原のカブと大違いだ。俺はバックの代わりだと思いねこばばすることにした。
家で、レコードを大音量で聴いた。軽快なサウンドを聴きながら広大な大地に延びる一本道をチョッパーで疾走するロングヘアー姿の自分を想像した。
「ケンジ、うるさい!」お袋が怒鳴っている。
さんざんな目に遭わしてくれた大原は、なんとかカブで逃げ切ったそうだ。
翌朝学校で会うと、大原は困り顔で俺に言った。
「なあ、俺さあ、姉貴に頼まれて買ってきたレコードをあそこに忘れちまったよ、お前知らないか?姉貴に凄く怒られたよ、全くついてないぜ」
いい気味である。しかし姉貴ってフリーセックス信者かもしれない。これを機会に仲良くなったりして。
「あのさぁ、姉貴の彼氏のプレゼントだから、やばいんだよ」
「うーん、やっぱり知らん」俺は妄想を断ち切った。
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