北の国での夏休み、ロッジ裏山での体験(1160文字)
数年前、フィンランドのサウボという小さな町の小さな山にあるロッジで数日間を過ごしたことがあった。室内もベランダも、北欧らしい洒落た空間。カラッと爽やかな休暇を過ごすことが出来た。
ロッジの裏手は山に繋がっている。ある日、オーナーの提案でブルーベリー摘みに行くことにした。フィンランドでは、私有地でなければ誰でも野生のブルーベリーを摘んで食べることが許されている。オーナーは台所にあったプレーンヨーグルトの空になった容器、もちろん綺麗に洗ってあるものを一人にひとつずつ手渡してくれた。
「ロッジの裏手は山、すぐに足元いっぱいにブルーベリーがなっているから。好きなだけ食べて、食べきれなかったら容器に入れて持って帰ってくればいい。」
行ってみると、なるほどその通り、日本の山と同じように木が生い茂る中、足元はブルーベリーだらけであった。よく見れば、クモの巣が張られていたりもするので、そんな木は避けて出来るだけ大きなきれいな実を選んで摘んだ。無心で。
容器がいっぱいになってくる頃、足腰も疲れてきて初めてのブルーベリー摘みに対する好奇心も満たされ、そろそろいいか…となる。ロッジに戻り、リビングでくつろぐ。
するとまたオーナーから新たな提案が…。この裏山から見える夕陽が綺麗だという。日没時間は夜21時前後だったように思う。山から見る夕陽、その夏の思い出のワンシーンとして是非とも拝みたい。
夕食を済ませた後、薄暗くなりかけた頃に再び山へ。まだまだ足元はよく見えるし、何の不安もない。ただ、太陽が沈みかけている方向が見渡せるポイントを探しながらより高いところへと登っていった。と言っても、そもそもが低い山なので息切れするまでもない。
太陽が沈む方向がよく見渡せる場所でスタンバイすると、まもなく日没のショーが始まった。スマホで動画を撮る以外、ただ黙って沈む太陽を見つめていた。無心で。
完全に見えなくなるまで沈む太陽を見送った。気がつくと真っ暗闇。それでは帰ろう、と下り始めた。
が、何か様子が違う。どういうわけか行手に道はなくなり、目の前は断崖絶壁になっていた。遠くに民家の灯りは見える。しかしそこから下ることは出来ない。そんな時は元居たところまで戻ろう。意外に冷静になって、行動した。戻れたということは、迷子になったわけじゃなくて、帰る方向を見誤っただけ。
その後、あちらこちらに道を探しては夕陽を眺めたスポットに戻って、それを繰り返しながらやっとこさ然るべき下山道を探し当てた。無事にロッジ裏手が見えた時は心からホッとした。
小さな山での出来事、明るい時はブルーベリーが一面になる美しい木立ちだったのに、暗闇になるとまるで深い森に迷い込んだよう。優しい大自然の恩恵を楽しむ一方で、人間には到底敵わない偉大さ、圧倒的なものを感じた一日だった。
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