トレド旧市街の裏通りで出会った風景(820文字)
小さい頃から自宅の一室の壁に油絵が数枚飾られていた。その中に、父がヨーロッパへ行って撮影してきた写真の中で気に入った一枚を自分で模写した絵があった。スペインの古都トレドの旧市街、どっしりとした石造りの建物が並ぶひと気のない裏通りで撮った写真で、壁面がカーブを描く建物の石壁に取り付けられた街灯が洒落ていた。
その絵を見ながらスペインがどんなに魅力的な国であったか、何度も話を聞いて、いつの間にか大きくなったら行ってみたい国ナンバーワンになっていた。
そんな影響で、大学では第二外国語はスペイン語を選択し、就職後は夏季休暇を利用して何度かスペインを訪れるようになった。
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その時は、友人と二人でトレドを訪れていた。小さなお店でセーターを購入した後、その日に泊まるホテルを探して旧市街を歩いていた。
狭い歩道が入り組んだ旧市街で突然目の前に現れたのは、あの見慣れた油絵の中の曲線を描いた建物だった。紛れもない。壁の街灯も、建物の細かい装飾も、通りの道幅も、周りの建物も。全てが覚えのある風景だった。
初めて訪れた街の静かな一角でこんなにも馴染み深い景色に出会うとは。なんとも不思議な感覚だった。この街からすれば何の変哲もないであろうこの通りで父が心を動かして写真に収めたのは、その時から更に20年ほど遡った頃だ。それなのに、まるで撮影した翌日であるかのように色褪せることもなく、油絵と全く同じ景色が目の前にあった。
古都トレドの長い歴史については全くもって不勉強だが、そこでは20年という年月はあるいは昨日とさほど変わらないくらい最近のことなのかもしれない。自分の中の時間軸とはかけ離れたその重厚な歴史を持つ石畳みで、ノスタルジアに浸りながら同じアングルでシャッターをきったのだった。
📷写真は、みんなのフォトギャラリーからお借りしました。
HayAceitunasさんのお写真です。ありがとうございます。