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#24 コロナを機にライフスタイルを見つめ直し開いた農園。祖母・母と共に取り組む無農薬の野菜作り

いろは農園
半澤美穂さん

郡山を代表する観光スポットの一つ「高柴デコ屋敷」。市東部の西田町にある民芸品の里で、集落内の4軒の家が数百年前から郷土玩具の三春駒や張子人形を作り続けています。またこの地区には、張子で作ったお面をかぶって踊る「高柴ひょっとこ踊り」が受け継がれています。見る人を一瞬で笑顔にするユーモラスなその踊りは、郡山が誇る素晴らしい文化的財産です。

「せっかく写真を撮っていただくので西田らしいものを」

そう言って張子のお面を手にした「いろは農園」の半澤美穂さん。デコ屋敷と同じ西田町内で2020年5月にスタートした農園の若き園主です。長く野菜作りを続けてきたおばあちゃんやお母様の知恵と手を借りながら、無農薬にこだわった野菜作りに取り組んでいます。

3世代が揃う畑はとにかく賑やか。明るい笑いが止むことはありません。

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(左から大内喜美子さん、増子美由紀さん、半澤美穂さん)

祖父母の野菜作りへの想いまでなくしたくはない

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美穂さんは西田町の兼業農家の生まれ。子供の頃から田んぼや畑は身近な存在でしたが、子供の頃に作業を手伝った経験はほんの少し。「農業をやるなんて1mmも思っていなかった」と振り返ります。高校卒業後は都会に憧れ上京し、美容師などを経験。しかし、都会での暮らしや出産などを経験する中で、畑や田んぼが身近にあった故郷の環境の豊かさに気づいたと言います。

「農業って地味で辛いイメージばかりでまったく興味がなかったのに、実はそれが自分にとって一番心を癒してくれるものだった。地元を離れてみて初めてわかったんです」

2017年に帰郷してからは、時間を見つけては実家や母方の祖父母の畑に立つようになった美穂さん。最初はほんの手伝いのつもりでしたが、2年ほど経った頃、野菜作りにより深く関わろうと決意させる出来事がありました。母方のおじい様の死です。

「ばあちゃん、以前は2人でずーっと畑にいたのに、じいちゃんが亡くなったらすごく落ち込んで、畑に出なくなってしまったんです。“野菜はもう作る気がない”って言って寂しそうにしている様子を見て、野菜がなくなってしまうことはもちろん、2人が野菜を作ってきたその想いまでなくしてしまいたくないと思うようになりました。」

何かできることはないか。野菜作りを教えてもらうため、美穂さんはおばあちゃんを畑に連れ出すようになりました。

ばあちゃんの喜ぶ顔がやりがいに

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美穂さんのおばあちゃん、大内喜美子さんが住むのは、西田町から車で北へ20分ほど走った二本松市内。農家の4代目だったご主人と共に長年農業に従事してきました。特にネギの生産に力を注ぎ、かつては東京にも出荷していたと言います。

喜美子さんは若い頃からたいへんな働き者だったとか。喜美子さんの娘で美穂さんのお母様である増子美由紀さんは、昔をこう振り返ります。

「夜なのに野菜を取りに畑に出ていったり、これをやると決めたら“大丈夫? もうやめたら?”って言っても止まらない。私も懐中電灯を照らしながら収獲を手伝った記憶があります。」

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そんな喜美子さんと美穂さん、そして美由紀さんを交えて始まった畑の勉強会。続けるうちに喜美子さんの心も少しずつ癒され、畑には再び笑い声が響くようになります。

「やっぱり孫がやってくれるっていうのはうれしいですよ。一生懸命にやっから、できることは教えてやっかと思って。」

と微笑む喜美子さん。美穂さんも、

「自分が少し手伝っただけでもこんなに喜んでくれる。それが私にとってやりがいとなって、もっともっと深く農業に関わりたいと思うようになりました。」

互いにいろんな“いろは”を教わっている

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そうして家族の和が再び深まり始めた矢先、今度は新型コロナウイルスの感染が拡大し始めます。外出自粛の動きが広がる中、「家にこもっているのは性に合わない」という美穂さんは、自らのライフスタイルを深く見つめ直すようになります。そうして導き出した答えが「いろは農園」の立ち上げでした。その名前には、美穂さんが喜美子さんや美由紀さんと培ってきた、そしてこれからもつないでいきたい家族同士の絆やふれあいへの想いが込められています。

「資料を見て学ぶのではなかなか頭に入ってこないようなことでも、一番近くにいるプロが手取り足取り教えてくれることでどんどん吸収できますし、本には載ってないような昔ながらのやり方や土地に合った農法なども聞くことができます。そんなアイディアを広く取り入れながら、いろいろな農業の“いろは”を吸収して大きく成長していけるように。そんな想いでこの名前にしました。」

それを隣で聞いていた美由紀さんがこう話を継ぎます。

「娘のアイディアで、ケールやルッコラ、パクチー、ラディッシュなど、今まで私たちが作ったことのない新しい野菜も作るようになりました。教えるだけでなく、私もばあちゃんも新しいことを教わっています。どちらかだけが先生になるのではなくて、お互いにいろんな“いろは”を教わっているんです。」

買う人の顔が見える販路を拡大していきたい

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美容室やカフェなど、これまで人と向き合う仕事に魅力を感じ仕事をしてきた美穂さん。農業では作物と向き合うことになりますが、そこにもすでに新たな充実感を見出しているようです。

「無事に収穫できた時の喜びに、人対人の仕事とは違った魅力を感じています。手をかけただけ答えてくれる半面、悪天候でうまく育つはずのものが一瞬でだめになったり、そんな挫折もこれからたくさんあると思いますけど、それも“いろは”の一つとして積み重ねていければと思っています。」

そんな美穂さんが日々楽しみにしているのは、野菜を購入し食べてくれるお客様の生の声です。

「買った野菜を使って料理をしてくださるだけでなく、その写真を感想と共にSNSにアップしてくださるお客様もいらっしゃいます。ダイレクトに反応をいただけるのは本当にありがたくて、やりがいにつながっていますし、それを母やばあちゃんに伝えるとすごく喜んでくれるので、その反応を見ることで私もさらにうれしくなりますね。」

そんな、買う人の顔が見える販路をこれから構築していきたいと言う美穂さん。マルシェへの出店や加工品の開発にも取り組みたいと夢を語ってくれました。新しいことを柔軟に受け入れる好奇心と、それを実践してみようとするチャレンジ精神、そして、チャレンジするからには楽しんでしまおうという明るさ。笑顔あふれるそんな3人のもとで野菜たちが今、郡山の農業に新しい風を吹かせ始めています。

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いろは農園
Instagram @iroha.farm

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<いろは農園の野菜が買える場所>

■SENDOYA(センドヤ)
福島県郡山市富久山町久保田字太郎殿前2
https://www.instagram.com/sendoya_official/

■自然食品の店『モクレンの木』
福島県郡山市深沢1-7-15
Tel 024-954-3746
https://www.instagram.com/mokurennoki_koriyama/

■NICO CAFE(ニコカフェ)
福島県本宮市本宮中條16
Tel 0243-24-5666
https://www.instagram.com/nico_cafe_motomiya/

取材日 2020.11.27
Photo by 佐久間正人(佐久間正人写真事務所
Interview / Text by 髙橋晃浩マデニヤル
著作 郡山市(担当:園芸畜産振興課)


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