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小さな寄り道

 仕事柄、午後が全部フリーになる時がある。そんな時、見知らぬお店屋さんを訪ねたりする。小さな寄り道だ。

 ある梅雨明け間近の日のこと。午前で一旦職場を離れられることになった。そこで、ずいぶん前に閉店になったパン屋さんの支店に行ってみることにした。

 やっぱりお昼近くなので、大混雑。少し外で待ってからお店へ。懐かしい香りと元気な店員さんの声。パンの品揃えも前の店とほとんど同じで、大好きだった平たいパンも、あんぱんも桜あんぱんも栗あんぱんまで、ちゃんとあった。しかもお値段も変わっていなかった。

 昨今の物価高、なんでも少しずつお値段が上がっている。特に小麦粉、バター関連、つまりパン屋さんを直撃していると
感じる。お値段据え置きなんてすごいなぁ、と思いながらよく見ると、ほんのちょっとパンが小さくなったのかも。それでも懐かしいパンに再会できたのはうれしい。

 イートイン・スペースもあった。お手頃価格でコーヒーや紅茶も飲める。前のお店でどれほどお世話になったことか!小さな悲しみも慌しさもささくれた心も、ほんのりと癒やしてくれたあのスペース。支店のここはちょっと雰囲気は違うけれど、今日も「今すぐここでちょっと食べて行きたい」人たちの味方でいてくれていた。よかった。 

 アップルパイがほんとうに好きでずっと食べたかったので、まずはそれを買うことに。あと2つほど、をトレイに乗せてレジに並んだ。その時だ。

 あ、あの。前のお店の時のお客さま!わたしと自転車がお揃いの!

 という声。そう。今はないあのお店の店員さんが、こちらで働いていらしたのだ。優しい方で、わたしの青い自転車と同じのに乗っていた人。同じ自転車店で同じ頃に同じ青い自転車を買った話をして、奇遇ですね、と笑い合ったことを覚えていてくれた。ショートカットだった彼女は髪が伸びていて後ろで結んで、真っ白の三角巾をしていた。

 「前のお店のスタンプカード、まだお持ちですか?スタンプを押しておきます。またぜひいらしてくださいね。」

 こんな小さな出来事だけど、小さな寄り道が小さな感動をくれた。家に帰って大好きなティーカップに、茶葉から紅茶を淹れてアップルパイを食べた。前のお店と同じお味だった。いや、少しシナモンが控えめかも。おいしい…心ゆくまで静かに堪能した。

 こんなお店、そしてこんな気持ち、こんな寄り道、「わかるわ〜」って言ってくださる人がいますように…。

ふつうのアップルパイ。これがとっても食べたくなる

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