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「幸せに気づけるように」

先輩に勧められて受けたオーディション会場は、自分とはかけ離れた世界に夢を抱く女の子達の場所だった。
私がいていい場所じゃない。
気付いたときには暫定センターとして合格者12人の中心に立ってしまっていた。

いつも泣いてばかり、不安と緊張で逃げ出したくなる日々。
最初に差し伸べられた手は、後に戦友となる女の子の震える小さな手だった。
逃げ水披露前のバックステージ、「頑張ろう」と手を取り合うふたり。
ギリギリまで泣いていた自分がステージにあがると何故か笑顔になっていた。
そんな自分がわからない。
しかし考える余裕なんてなかった。
自分自信の在り方を見失う、自然と歩みは止まった。
自分にこの世界は向いていない、辞めよう。
そう思ったとき、またも手は差し伸べられた。
今度はグループいち大きな、それでいていつも自信なさげに怯えていた女の子の手。
「もう少し頑張ってみよう、絶対にここにいるべきだから」と。
何度繰り返したかわからない、何度迷惑をかけたかわからない。
それでもそのたびに温かな手は差し伸べられた。
11人のことが大好きになった。
泣いてばかりだったあの日にサヨナラを。
いつもよりも笑顔になれた気がした。

20歳の成人式、抱えた想いを胸に絵馬に書いた抱負は "幸せに気づけるように" だった。
これからの人生は幸せをもっとしっかりと見つめよう。
私が乃木坂46になる為に。
そう気持ちを改めたとき、まわりはこんなにも多くの幸せと愛で溢れていたんだと気づいた。
辛い涙を流していた自分が笑顔で涙を流すことが多くなった。
楽しいことばかりじゃなかったけど、それでもここには幸せはあるんだと知った。
「乃木坂も悪くないな」と思えたとき、自分はようやく乃木坂46になれたんだと実感した。
そしてあるひとつの道を心に決めた。
卒業、そして芸能界からの引退という道。
そのとき差し伸べられた手は昔とは違うものだった。
引き留める手ではなく、背中を押してくれる優しい手。
皆わかっていた、もう君を止められない。
そこにいてくれた奇跡が、終わる瞬間なんだと。
辞めるタイミングは何度もあった。
でもまだここにいてほしかったから、何度だって引き留めてきた。
でも、今の"辞める"は辛かったあの頃とは違う、それがこの子にとっての幸せな道なんだと11人は理解した。

2021年9月4日、12人にとって5周年という祝いの日。
奇跡は終わりを遂げた。
新たな思い出、「思い出ファースト」という贈り物を残して。


穏やかな気持ちで
卒業を迎えられたこと、
乃木坂を大好きになれたこと
よかったなと安心しています。
この5年間、
幸せが沢山ありました。
出会えてよかったなと
思える人が沢山います。


新しい人生の中で泣いてしまいたいときもあるだろう。
そんなとき幸せはいつだってここにある。
どうかこの先の未来も、
沢山の幸せに気づけますように。


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