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禍話リライト:同一別人物

学生のAさんはその日、コンビニのバイトで夜勤に入っていた。後からひとり、Kさんというバイトの人が来るシフトになっていて、いつものように作業していると時間どおりにKさんが「おはよーございます」と出勤してきた。

Kさんは25、6歳の バンドマンで髪が長かった。ところが出勤してきたKさんは髪が短いし、マスクしてるしなんだか日焼けの感じも違ってみえた。バックヤードでKさんの名札が付いた制服に着替えて、店内に出てきたKさんらしきその人に、おそるおそる「Kさん?」と呼び掛けてみたら「はい?」と普通に返事をする。本当にKさん?なのか?
「…Kさん、髪切ったんすか?」
「切ってないよ」
即答。誰だこいつ?突然Kさんが代理の人を寄越した、とか?いやそんなのは絶対ありえない。

仕事は普通に出来ている。単純に経験があるというだけでなく、ここのコンビニの勝手がわかっているようだった。でもタバコの棚のところでいつものKさんより背が低いなと気づいた。

それはもはや別人だった。

おかしい、と思いつつもバイトはいつもどおりこなせていた。休憩でバックヤードに行った時、出勤簿を見た。出勤したら印鑑を押すことになっているが、その日のKさんの印鑑はどういう押し方をしたのかぐちゅぐちゅになっていて文字が読めない。休憩室から様子をうかがってみても、やっぱりKさんではないと思った。明け方4時には商品の搬入があるが、普通に業者の人とやりとりし、品出しもいつものKさんのように商品を並べていた。

そろそろ社員の人がくる時間。社員の人がこの変な状況を知ったら怒り出すんじゃないか、などと思い、ついに思い切ってたずねた。
「あの、…Kさんじゃないんじゃないですか?」

例えばそれが本当に代理の人だったとしたら「バレた!」「やっぱりわかった!?」とか、はたまた突然逃げ出すとか、そんなリアクションを想定していたが、Kさんらしきその人は、持っていたバインダーをその場に置いて奥のバックヤードに入ってしまった。思いもよらないリアクションに戸惑っているとまもなく、社員の人が出勤してきた。
「どうした?なんかあった?」
Aさんはすべてを説明した。すると社員の人は怒り出すどころか
「おまえ、言ってくれたら来たのに。犯罪者だったらどうすんだよ。…でも怖かったよな、A君まだ学生だしな。」
と慰めてくれた。そして「そいつ、どこ行った?」と言うので奥のバックヤードに行ったと告げた。確認するともうKさんはおらず、裏口から逃げたかと思ったが鍵はしっかりかかっていた。店内にいた時の様子をカメラで確認したが、カメラで見てもやっぱりKさんじゃない。じゃあKさん本人は何してんだ?と社員の人がKさんの携帯にかけてみるも、出ない。「これはこれで困るなあ」と苦笑した。その後店長も来て在庫や備品を確認したが、何かを盗まれたなどということも無かった。

翌日Aさんはバイトが休みで、さらにその翌日の昼に出勤した。店内の商品がいつもより少ない。先に出勤していた社員の人にどうしたのか尋ねると、あの日Kさんらしき人物が品出ししたものが、期限より早く全部腐っていたという。
「それで、Kさんはどうしたんすか?」

Kさんは家で死んでいた。理由がわからない、突然死だったようだ。
Kさんらしき人が出勤しているちょうどその頃、死んでいたという。



※この話はツイキャス「禍話」より、「同一別人物」という話を文章にしたものです。(震!禍話 第25夜 2018年9月14日)

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