青いレインコート_h

禍話リライト:青いレインコート

とある学校の生徒会の生徒たちが、使われなくなっていた部室を掃除することになった。これまでに廃部になったいくつかの部活の備品がほこりをかぶっていて、それらをひたすら片付けていくという作業。複数ある冊子などは保管用を残してそれ以外はどんどん処分していった。
「当時の文芸研究会、結構内容攻めてるなー!」
少し昔の先輩たちが残していった記録は時々興味をそそられた。今は統合されて男女共学だが、昔は女子校だったため女子学生の活動資料がほとんどだった。
その中から、一紙だけ残っていた古い学校新聞のようなものが出てきた。新聞部は今もあるが、一度解散したらしく今は名前を変えて活動している。タイトルは『七不思議特集』ところどころ切り貼りしてあり、印刷に出す前の原稿のようだった。七不思議の内容は至ってよくある、花子さんとか人面犬とか無難なラインナップだったが、さいごの7番目、人魂が出たとか何とかの記事だけ、元の記事の上から貼り付けてあった。それが経年劣化か、貼ってある紙がペラっと簡単に剥がれたので、元々書いたと思われる記事も見てみた。
『雨の日に青いレインコートを着た女の子が校舎周辺をうろついている』
…なんだかこれだけ他の無難な内容と違ってずいぶん具体的でこわい。どうして記事を差し替えたんだろう?そこに片づけを命じた先生がタイミングよくやって来たので尋ねてみた。
「先生、昔の新聞部の原稿が出てきて…」
「あー、このあとこの新聞部は解散したんだよ。ほら、下のほうに最終号ですってあとから書き足してある」
「え、何かあったんですか?」
「んーちょっと何かあったらしいねー…。これ一紙だけ?じゃあ一応保管しておこうか」

それから1週間ほど経った。
用務員のおじさんがいつもと違う時間に焼却炉を燃やしていたのでふと目をやると、先日片付けた部室のゴミを燃やしている。自分たちの作業に何か不備がなかったか不安になり、おじさんに話しかけてみた。
「片付け、あれで大丈夫でしたか?」
「ああ、大丈夫だったよご苦労様。」
良かった、とほっとしてなにげなくゴミのほうを見た時、例の新聞記事も燃やそうとしていることに気づいた。
「この新聞、燃やしちゃうんですか?残り一紙だけだったので先生が保管しとこうかって」
「んー?あー最近の先生はもう知らないのかな。…これは良くないんだよ。まあ当時は緘口令しかれたしなあ」
「え、緘口令って…?」
「いやーまだ残ってたとはね。…良くないんだよね。」
用務員のおじさんはそこで少し言いよどんだが、こう続けた。
「人が死んでるんだよね…変な話なんだけどさ」

用務員のおじさんがまだ若く、学校もまだ女子校だった頃。その頃の新聞部が、次の号は七不思議を取り上げよう!ということになった。と言っても、『花子さんの手が見えた!』と物陰から手を出して撮影してみたり、『人面犬があらわれた!』と飼っている犬をわざとブレて撮影してみたりと、いわゆるフェイクドキュメントのような、ねつ造した記事を面白い感じに書き、みんなもユーモアとわかって面白がって読んでくれるから楽しかった。
ついに七不思議さいごの7つ目は?となって、最後だしちょっといつもと変わったことをしよう、最後だけはもっとリアルな感じにしようということになり、それぞれがネタを出し合ったが、なかなか決まらない。すると部員のひとり、普段はおとなしいAちゃんがおもむろに提案してきた。
「雨が降ると青いレインコート着た子が校舎をうろつく、そしてこの人だと思う人を見つけると裾をひっぱって家までついて行っちゃう…ってのはどう?」
聞くや否やほかの部員たちは「いいねー」「それこわいじゃん!」と一気に盛り上がり、それらしく写真撮ろうよ!ということになった。雰囲気が出るように夜になってから写真撮ろう、などと段取りを決めていく中、Aちゃんが「青いレインコートは用意してくるよ」と言うのでおまかせして、さっそく次の日の放課後に決行することになった。

撮影当日、場所は図工室とか普段あんまり使われていない棟の一番上の3階、しかも一番奥にあるトイレ付近で待ち合わせした。トイレの窓のすぐ下に通路があるのでそこから手でも出して、窓から出てきた!ていう写真にしようか、などと打ち合せするも、肝心のAちゃんがなかなか来ない。来たらすぐ始められるよう、先に準備しておこうか…と、トイレの扉を開けた。

中で、青いレインコートを着たAちゃんが首を吊って死んでいた。

一瞬、なんの冗談かとも思ったがすぐにその場はパニックに陥った。悲鳴を上げる子、その場で泣き崩れる子もいた。先生も駆け付けたが、驚きすぎて動けずただぼうぜんとAちゃんを見つめることしかできなかった子が、Aちゃんの近くにあるものを見つける。
「…っ、せ、先生、あれ、あれ」
Aちゃんの傍らに自分を重しにしている感じでルーズリーフが一枚、挟まっていた。先生は遺書かもしれないと、おそるおそる確認するや否や、後ろにしりもちをついてウワーッ!!!ウワーーーーッ!!と叫んだ。ルーズリーフには、走り書きでこう書かれていた。

画像1

『これで本当の七不思議』

それからこの学校では、雨の日になると青いレインコート着たAちゃんの目撃談が出るようになった。一瞬青いのが見えたなどのうっすらとした目撃談から、手を振られたとか、裾をひっぱられたという者も出はじめた。記事は差し替えたものの、新聞部は結局解散。まだ若かった用務員のおじさんは、新聞部の備品を焼却炉で処分することになった。よく晴れた日だったが、焼却炉を燃やしていると突然ぽつぽつと雨降ってきて、裾をずっと誰かがくいっ くいっ とひっぱっていたという。おじさんは振り返ることなく、まっすぐ前だけを見て黙々と作業をした。

この学校はあれから何年も経ち、統合もされて、いくつか世代も変わったけれど、いつの時代もどこからか青いレインコートをきた女の子にまつわるこわい話が伝わっているという。


※この話はツイキャス「禍話」より、「青いコート」という話を文章にしたものです。作中のルーズリーフ画像は想像で作成したものであり、実在するものではありません。

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