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禍話リライト:見えない顔

A君が小学生の時の話。
通学路を帰っていると、見慣れない車が止まっていた。田舎の団地に住んでいたA君は、〇〇君ちの車だとか、近所のおじさんの車だとかは知っていたので、見たことない車だなーと少し気になった。
運転席には人がいた。車を止めて横になって寝ているのか?ちらっと覗いてみても顔が見えない。それはもはや、のっぺらぼう?だった。ワイシャツを着たサラリーマンの人っぽいけど…寝てるみたいだしあんまりじろじろ見るのも変だし、それ以上のぞき込むのはやめて帰路についた。

帰って夕方のテレビを観てごろごろしていると、高校生のお姉ちゃんも帰ってきた。帰ってくるなり、お姉ちゃんはやや興奮気味に「通学路で人が自殺したんだってー」と言ってきた。くわしく聞いてみると、乗用車の中で睡眠薬自殺をしていたらしい。お姉ちゃんはたまたま人だかりになっているところに遭遇して、亡くなった人も見てしまった。
「顔が真っ青でさー、あれが死んだ人の顔だなんてやだなー。今日あんまりご飯食べられないやー。」
それは夜の地方ニュースでも報道された。どうも、A君が通りかかった時間帯に絶命したらしい。A君は自分が見た知らない車がその車だったと確信した。でも、なんで自分にはのっぺらぼうにみえたんだろう?お姉ちゃんに聞いてみると、意外にも納得できる答えが返ってきた。
「ショックなものを見ると、人間は脳がヤバい部分を削除しちゃうんだよ。Aは、自殺したおじさんの顔がショックだったから脳が勝手に見えないようにしてくれたんじゃない?」
一緒に聞いていたお母さんも「人間の神秘だねー」なんて納得した。A君もそういう機能があるのかー脳ってすごいな、と素直に感心した。
「私は見ちゃったからやだなー」
とお姉ちゃんが落ち込んでいるので、自分は見なくてよかった、と思った。

夜中、A君は2階の子供部屋で寝ていたが、のどが渇いたので台所で水を飲もうと1階に降りた。居間に誰かいる。以前、同じように夜中起きた時、胃が痛くなったお父さんが胃薬を飲んで居間にいたことがあったので、今回もまたそうだと思ったA君は、声をかけた。
「お父さん大丈…」
お父さんはパジャマのはず。そこにいた人は、ワイシャツ姿。
瞬間的にわかった。自殺したおじさんだ。
そいつが くっ とA君のほうを振り返ったら、またのっぺらぼうだった。そして床を這ってこっちに向かって来た。
「うわーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!」

A君が悲鳴をあげて家族が何事かと部屋から出てきたら、そいつは消えていた。A君は、自分が顔をちゃんと見てなかったことに腹を立てて、見せに来たんじゃないかと思ったという。もし、街中を歩いていて顔がない人がいたら、その人はもしかしたらもう、そういうことなのかもしれない。


※この話はツイキャス「禍話」より、「見えない顔」という話を文章にしたものです。(2017年2月17日)

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