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禍話リライト:まにあわなくなる

平日にたまたま休みが取れて、夕方彼女を誘ってドライブに行った。平日だからか道路も空いていて、たまにはのんびりこういうの良いね、なんて言いながら、快適なドライブだった。
ほどなくして彼女がトイレに行きたくなったと言うので、途中パーキングに寄った。自動販売機でコーヒーを買って、それを飲みながら彼女を待っていた。

ふいに、辺りがわーわーうるさくなった。パーキングはがらんとしているのに、いつのまにか幼稚園ぐらいの子どもが5~6人、キャッキャと遊んでいるのが見えた。さっきまでそんな気配も無かったが…。
(彼女、なかなか戻ってこないなー。)
その子どもたちがやたらギャーギャー言っているのが気になってきた。もう一度そちらを見ると、いつの間にか全員自分のほうを指さしている。
「まにあわなくなるよーまにあわなくなるよー」
(はあ?何言ってんだ?)
「まにあわなくなるよーまにあわなくなるよー」
明らかに自分をみて子どもたちが繰り返し言っている。

(何だよ…なんか気味悪いな…)
意味不明だしうるさい。その場を離れたい気持ちになり、戻りの遅い彼女の様子を見にトイレのほうに移動した。するとトイレ付近で彼女が倒れているのを見つけ、慌てて救急車を呼び、事なきを得た。
救急隊員には
「危ないところでした。通報が遅かったら助かったかどうか…」
と言われた。

あとあと考えたら、確かにそのパーキングには自分たち以外、人も車もいなかったはず。じゃああの子どもたちはなんだったんだ?それが何であれ結果的に彼女が助かったので、間に合わなくなるよって教えてくれたんだと思えば、まあありがたい話ではある。

ただ「まにあわなくなるよー」と、指をさして全員うれしそうに満面の笑顔で言っていた。
はたして善意なのかはわからない。



※この話はツイキャス「禍話」より、「まにあわなくなる」という話を文章にしたものです。(2018年9月3日)

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