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禍話リライト:二十六日女

「じいちゃんがさ…」
Aさんが、自分のおじいさんの夢の話を教えてくれた。70歳ぐらいのおじいさんは、20歳ごろに同じ夢をけっこう見ていたという話だ。
以下は、Aさんの話の内容となる。

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当時、じいちゃんは知り合い4〜5人で林業の手伝いの仕事をしていた。迷いようがない小さい山での作業は、いつも同じコースで行くので慣れたものだった。

ところがそのよく見ていたという夢の中では、普段には無い道があって、そこに迷いこんでしまう。いくら慣れた小さい山とはいえ、日が暮れてくると危険も増すだろう。仲間たちと一緒に焦り始めた。するとやがて、山小屋を発見する。猟師さんが使う小屋だろうか?屋根はあるし一晩くらいなら休めそうだ。暖炉でもあるといいのだが…と思い、確認しようと近づくと、その山小屋の裏手に大きめの犬小屋があった。しかし犬小屋にしてはかなり大きい。もしかして、山で捕らえた違う動物でも勝手に飼育しているのだろうか?周辺はなんだか獣臭いし…

そう思ってその犬?小屋のほうに行くと、ちょっと小柄な、でも明らかに成人した女性が首輪で繋がれている。なんだ?虐待か?とも思ったが、じいちゃんが見たところ、どうも虐待のようには感じなかったという。それにしてもこの女、汚れているし、臭う…
疑問と困惑で立ち尽くしているとおもむろにその女が自分たちの方を見て立ち上がってこう言った。

「二十六日に出てくるから〜!」

たまらずじいちゃんたちは「ウワーーーーーッ」と叫び声を上げて逃げ出した。逃げている間もずっと女に「二十六日に出てくるから〜」「二十六日に出てくるから〜」と背後から言われ続けている。首輪で繋がっていたはずなのに、走って逃げる真後ろから言われているように、声がどんどん追ってくる…。

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「こんな夢を若い頃ずっと見てたとじいちゃんが言ってたんだ」
おじいさんは当時、こんな奇妙な夢を何回も見ていたので、その山の仕事が実は嫌だったのかな?ぐらいに思っていたそうだ。

奇妙な夢の話、それにはまだ続きがある。
おじいさんはその夢について、それまで誰にも話していなかったが…
Aさんの弟がある日の食卓で、「最近変な夢見るんだよ、勉強疲れてるのかな」と言い出した。

Aさんの弟は夢の中で、遠足みたいな登山をしていた。知らない山に登っていて、みんなが通る道を歩いていたはずなのにいつのまにか集団からはぐれて、仲のいい友達2〜3人だけで迷ってしまった。日も暮れてきたし、どうしようかと焦ったときにボロボロの小屋がみえて、最悪そこで夜露を凌ぐことも考えて、立ち寄ってみた。
そこには大型犬、がいたかと思いきや、首輪で繋がれている、老けたおばさんがいた。最初は正座のような姿勢だったそのおばさんが、ふいに立ち上がって

「二十六日に出てくるから〜!」

と何度も叫びながら追いかけてきて、あわてて逃げた夢だった、と告げた。

Aさんの弟はおじいさんの昔の夢の話は知らない。
同じ女が成長している…?この女は一体何なのか。そもそも夢ではない現実なのか、夢の中に別の世界があるとでもいうのか。

いつかの二十六日に、何が出てくるというのか。

これだから夢の話といえどあなどれない。


※この話はツイキャス「禍話」より、「二十六日女」という話を文章にしたものです。(ザ・禍話 第5夜 2020年4月11日)

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