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禍話リライト:おかっぱの写真

大学生のAさんがまだ子どもの頃、見晴らしの良い断崖絶壁が有名な観光スポットに家族旅行に行った。天気も良く家族みんなで記念写真を撮った。

現像したところ、一枚だけ不思議な写真があった。見覚えのないおかっぱの子が写り込んでいたのだ。「こんな子いたっけ?」「さあ、、近くに人がいた記憶ないけど」「まさか、心霊写真かな!?」
そのおかっぱの子は、透けて写っているとか奇妙な造形をしているとかもなく、ただ楽しそうに写っている。そんな子がその場にいたのかなんて覚えていなかったので、不思議な写真だなと思いつつもそこまで特に気にすることも無く、アルバムにしまった。

大学で、同じクラスに幽霊が視えるというBちゃんがいた。彼女はそのことは公言しているわけではなくたまたま話の流れで知ったAさんは、ふと思い出したあの旅行の時の不思議な写真を、こっそり見てもらうことにした。

写真を見るとすぐBちゃんは、
「いい写真じゃない。Aさんの家族みんなニコニコしてて、おかっぱの子もニコニコしてるし。写真にも手相とか顔相みたく『相』があって、この写真は明るくていい相の写真だと思うよ。大事にしなよ」
はっきりとそう言われ、Aさんはたちまちホッとしたような気持ちになった。良かった、いい写真だったんだ。

こっそり見てもらったつもりが、どこから話が漏れたのか、1個上のC先輩が写真を見せてくれと言ってきた。C先輩は親の代から新興宗教に入信しているらしく、その宗教の集まりでAさんの不思議な写真の話をしたところ教祖様にあたる人が興味を持ったので是非見せたいと言う。
若干「えー」と思ったが、見るだけなら…と、後日写真を渡した。

次の日さっそくC先輩は
「先生いわく質の悪い地縛霊が写っているからジョウレイしたほうがいいって。『子どもを使ってくる悪い霊だから危険だ。障りがある』って」
と言ってきた。先生というのはおそらく例の教祖様だろう。
ジョウレイ…「除霊」ではなく、「浄霊」と言うのだそうだ。
流石にAさんは家族にも相談し断ったが、その後も「障りがあるぞ」としつこく言ってくる。ついには初回の診断料は安いからと言われ、断り切れず診てもらうことになってしまった。

「先生」という人に直接写真を診てもらうと、C先輩が言っていた内容と同じことを言ってきた。そして矢継ぎ早にこのままだと良くない、障りがある、でも大丈夫、これが出会い、幸運。これも運命なのです…浄霊しなくてはならない、そのためには何回か来てもらうことにはなりますが…と、最終的に団体のパンフレットを渡された。
Aさんや両親は、周りの地元の人たちとのつながりもあって、断りにくい状況にあった。パンフレットによると診断料は少しずつ高くなってはいたものの大した金額ではなく、完全に無駄遣いだなあとは思いつつも結局はその『浄霊』のために、そのまま写真を預けることにした。

ところが、その後団体からは一向に何の連絡も無かった。たしか3日ほどしたら連絡するとのことだったが、まあ連絡が無きゃ無いでお金を取られることも無くAさんとしてはなんの問題も無かったので、しばらくほうっておくことにした。

その間、BちゃんにC先輩の団体でのことを話すと、
「へえ、あの写真が悪い写真だったって?わかんなかったなあ~」
と、ちょっと嘲笑まじりに言う。
「まあ、あの人たちがそう言うなら悪い写真なんじゃない?でも気にしなくて良いよ。Aさんは私が良い写真だよって言った時、良い写真だと思ったでしょ?」
確かにAさんはあの時、むしろうれしい気持ちにさえなった。もちろん旅行自体も良い思い出だ。うんうんと頷くと、Bちゃんはこう続けた。
「『あの人たちにとっては』、悪い写真だった。ってことでいいんじゃないの?」
Aさんは素直になるほど、と思った。
気が楽になった。

その後も新興宗教の団体からは全く音沙汰が無かった。さすがにどうなったか電話してみるも、出ない。気にはなるが直接行きたくはなかったので、母の助言に基づき写真を返却してほしい旨を手紙で送ってみることにした。
すると翌々日ぐらいにすぐ、はがきで連絡が来た。
が、その内容がおかしかった。
鉛筆書きの汚い字で『○○先生 告別式 △月△日  場所:××ホール』と書いてある。差出人は団体名で、日時が半年ぐらい先の日付になっていた。○○先生とはあの先生の名前だ。××ホールは知らないところだったが、調べると少し遠くの町に実在する大きいホールだった。

半年も先のスケジュールで、告別式を予定している?

さすがに気味が悪いので、誰かが出るまでしつこく電話をした。やっと電話に出た信者の人に「変なはがき送ってこないでください」と文句を言ったが、そんなはがきには心当たりがないと言ってなんだか噛み合わない。
「じゃあ、写真はどうなったんですか?」と尋ねると、「えっと、、先生が『手間がかかる』と言っていたので」と言い返され、電話を切られてしまった。Aさんはそれが咄嗟についた嘘であることはなんとなくわかった。

そもそも、もしお金をだまし取ろうとしているなら何度も連絡をしてきてはあの手この手で不安を煽ってくるはずだ。浄霊だとか言ってそのたびに請求されるのではないか。それなのに一切連絡を寄越さない。
何かおかしい。

さらに1ヵ月ほど過ぎ、埒が明かないのでAさんは家族と一緒に仕方なく直接『浄霊』を断りに行くことにした。
久しぶりに訪れた団体の施設は以前よりも人の出入りが激しくあわただしかった。前はもっとそれらしく、厳かな雰囲気だったと思う。
入り口付近に信者らしき人たちがたくさんいたので声をかけた。
「すみません」
幹部らしい立派な服装の人が「はい?」と3人ほど振り向いた。Aさんたちは思わず「あっ」と一瞬ひるんだ。3人とも、いかにもついさっき急に切ったような感じのざんばらなおかっぱ頭だった。「今日は立て込んでいるのでダメです」と一方的に言われたが周りをよく見るとむりやり急いで切りつけたようなおかっぱ頭の女性がほかにもあちこちにいる。
「あの、写真を返却してほしいのですが」
と言ってみたところ、意外にもすぐに返してくれた。『浄霊』はいったいどうなったのか?特に何の説明もなかったが、もうあまり関わりたくないと思ったAさんたちは施設からすぐ出た。

出たところで近所のおじさんに話しかけられた。
「あんたらあの団体の人?」
違います、と言うとおじさんは噂好きなのか、ここ最近のことを教えてくれた。
「あそこの先生そろそろヤバいんじゃないの?最近しょっちゅう救急車が来ててさ。処置?みたいなのして帰る、てのがここんとこ多くてさ」

それからしばらくして、どうやら本当にあの「先生」が亡くなった。
Aさんのクラスにも入信していた子がいて葬儀に行ったそうで、Aさんの写真のことなど何も知らないその子は幹部の人たちがみんな突然おかっぱ頭になっていたと教えてくれた。
「変だよね~、ちび〇子ちゃんかよって思っちゃったよ」
と笑って話してくれたが、Aさんは全く笑えなかった。

棺の中の○○先生も、おかっぱ頭だったそうだ。

その宗教団体はほどなくして解散したが、葬儀の様子を教えてくれた子は親の付き合いで行ってただけだから、と特に意に介していないようだった。

例の写真は今見ても明るい雰囲気でとてもいい写真だ。Aさん家族は今もアルバムにしまって大切にしている。

Bちゃんは
「調子に乗って『良くないよ、障りがあるよ』なんて言ってるから、悪いのが話に便乗して来ちゃったのかもね~」
と、呑気に言っていた。



※この話はツイキャス「禍話」より、「おかっぱの写真」という話を文章にしたものです。(2019年5月28日 禍ちゃんねる 破れスペシャル)

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