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禍話リライト:あまやどり

ここ3~4日ほど、断続的に雨が続いていた。
風も強く、A君のマンションも常にドアがガタガタいうほどだった。めずらしく平日の休みが取れたが、連日の疲れと外が暴風雨なこともあって、A君は家でゆっくり過ごしていた。

昼過ぎに友人のB君が電話をかけてきた。
『仕事中にごめんな、今俺仕事で外回りしてんだけどさ』
「あー俺今日休みなんだよね。家にいるんだよ。どうしたの?」
『えっ、じゃあ大丈夫なの?』
「何が?」

B君いわく、仕事でたまたまA君の家の前を通ったところだったらしい。(あ、ここA君が住んでるマンションだ)と思ってなにげなく見ると、マンションの3階、ちょうどA君の部屋の前の外廊下に人がいるという。ちょうど誰か訪ねて来たのか?とも思ったが、どうもおかしい。訪問者ならドアに向かって立つはずが、壁に背を預けて寄りかかって微動だにしていない。
B君は何かおかしいなと思って、電話をくれたのだった。

電話を切ったあと、思い切って確認した。
ドアチェーンをつけたまま玄関を開けて外を覗くと、すぐそこに全然知らない女が立っている。B君の証言通り、壁に寄りかかって、こちらには視線もくれずじっと立っていた。
雨をみつめている。

A君はわけがわからず5秒ほど沈黙した後、おそるおそる声をかけた。
「あの、…何してるんですか?」
すると女はこちらを見るでもなく、変な調子で言った。

〈 わか りませ んか? あ ま やど りです よ 〉

――ここは3階だ。雨宿りなわけがない。A君はすぐドアを閉めた。
その閉める瞬間に見えた女の足元は、靴を履いておらず靴下の状態で、しかも全く濡れていないように見えた。マンションはエレベーターか外階段しか無いが、どっちも連日の雨でびしょびしょになっている。濡れずに来れるはずがない。
(一体何なんだ?)
と思ったつかのま、時々ドアがゴン、ゴンと鳴っているのに気づいた。
ドアスコープをみるとさっきの女が背を向けた状態で繰り返し倒れかかってきていた。後頭部がドアに当たるたびに ゴン と鳴っている。暴風でガタガタ鳴っているとばかり思っていたが、いつからか女が頭を打ち付けていたのだ。

すぐさまB君に電話して状況を告げると、それは完全にヤバいから警察を呼べと言われた。警察に電話、となると一瞬ひるんだがずっと不規則にゴン、ゴンと鳴っているのでやむを得ず相談することにした。

ほどなくして警官が来てくれたがその頃には女はいなくなっていた。先ほど起こったことをすべて話した。全然知らない女がいた、後頭部をドアに打ち付けていた、と言っても、警官はピンと来ていない様子だった。足元が濡れていないように見えたと告げると、警官は「このフロアの方ですかね?」と言ったがそれはそれでめちゃくちゃ怖い。
1時間近く状況を説明したが、やはり大きな事件ではないためか、また何かあったら通報を、ということで終わってしまった。なかなか古いマンションで防犯カメラも無い。はっきり解決しないままこの件は終わった。

何週間か経ち、マンションの共用部にはり紙が貼ってあった。
≪リフォーム工事のお知らせ≫とあり、3階の自分の部屋以外の部屋が工事の対象になっている。他の階は工事などは特に無かったようだ。そして今現在、他の部屋にはいまだに誰も入居してきていないが、A君はまだそこに住んでいる。


※この話はツイキャス「禍話」より、「あまやどり」という話を文章にしたものです。(2020年7月11日 ザ・禍話 第十七夜)

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