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禍話リライト:立っている母

初めてそれをみたのは2階建ての実家に住んでいる時だった。

夜、2階の自分の部屋から、1階にあるトイレに向かうと、トイレの前にお母さんが立っていた。後ろ姿ですぐお母さんだと分かったが、見覚えのない柄のパジャマを着ていた。
微動だにしないので不思議に思ったが、「入らないならどいてよ~」と言いながら ガチャッ とドアを開けトイレに入ると、

トイレの中に異様に背の高いお母さんがいた。

頭が天井にぶつかるぐらいものすごく背が高くてお辞儀をしているような恰好になっている。ウワーッ!と驚いてトイレの外に戻ったらさっきトイレの前に立っていたお母さんはいない。
「えっ えっ」
トイレの中をもう一度見ると、ものすごく背の高いお母さんもいない。

あわてて居間に行くと普段着でくつろぐお母さんがいた。のんきな声で
「何?どうしたのあんたあわてちゃってー」
と言うので、さっきお母さんが廊下とトイレにいた!見覚え無い服着てた!と騒ぐとお母さんは、
「なにそれ、どんな服?」というので、その時見た色や柄を伝えた。

「…あんたのお産の時着てたパジャマの柄がそれだったわ」


それからも数年に一回、トイレを開けるとものすごく背の高いお母さんがいる時がある。
実家を出て、別で暮らしていても、数年に一回、いる。



※この話はツイキャス「禍話」より、「立っている母」という話を文章にしたものです。(2020年11月3日 禍話X 第二夜)

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