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デジタル空間とどう向き合うか を読んで 分断の形成過程を思索する

アメリカの大統領選前後から注目されている社会の分断 ですが、これがなぜ起きてくるのか、というのを現地でのルポを読んで理解をしようとしました。
それなりに理解はしたつもりですが、今ひとつ形成過程にある環境的なものが理解できず 、悶々としていました。

それもあって関連のあるデジタルデトックスに関連するものやデジタル空間の分断についての著作を色々読んでいました。
その一環で今回の著書に巡り会ったのですが、どうやら今回の論旨がデジタル空間、ひいては社会の分断の形成過程を一番うまく説明できているのではないか 、と考えました。

そんな意味もあり、今回は分断の形成過程についての興味深い著書の書評を上げたいと思います。

では、書籍のメタデータを貼っておきますね。

今回も読書ノートからの書評ですので、小理屈野郎の読書ノート・ローカルルールの凡例を以下に示しておきます。

・;キーワード
→;全文から導き出されること
※;引用(引用の背景で示されていることもあります)
☆;小理屈野郎自身が考えたこと


書名 デジタル空間とどう向き合うか
読書開始日 2022/10/06 12:09
読了日 2022/10/10 11:09

読了後の考察

非常に良くまとまっている書籍だと感心した。
デジタル空間で起こっていること、それが社会にどのような影響を与えているかを社会心理学的にきっちりとまとめ上げ、その問題をどのように解決していくべきか、という道筋をつけたところが秀逸だと思う。これまでのこの手の著書は現象を抑えているが、どうしてというメカニズムについては納得できるような、納得できないような、という感じ のものが多かった。おそらく社会現象的な捉え方のみをしているものが多かったから だと考えた。
今回は、デジタル空間での様子を中心に、そこから社会科学的なアプローチをとることによって非常にうまくメカニズムを説明できた
だからこそ、このような現状を打破するためにはどのようにすれば良いか、ということを導き出すことが出来たのではないかと考えた。
注目すべきは憲法の解釈も交えたところ 。表現の自由と、知ることの自由、それらの規制や国家(政府)がどうあるべきか、というところまで踏み込んでいるところだ。
そして、情報を摂取するということは食べ物を食べる(栄養を摂取する)というところと卑近である ことを発見し、それを演繹するような形で論調を進めているところがわかりやすくて良かった。
構成としては、巻末の付録にある「共同提言 デジタル・ダイエット宣言」の解説が本文 という感じだ。
本来ならば共同提言だけでも問題はないのだろうがしっかりと解説をする必要があった、ということだろう。この構成も非常に良いと思う。最後の方には**「デジタルデトックス」とは一線を画している** 、といっていたが確かにそうだ。それより根本的な解法であるのではないかと考えた。
それほどの大部ではないが、本文の内容を理解しながら読書したので結構時間がかかったが満足した。

キーワードは?(Permanent notes用)

(なるべく少なく、一般の検索で引っかかりにくい言葉、将来もう一度見つけてみたいと考えられる言葉)
#デジタル・ダイエット
#分断

質問1 概略・購入の経緯は?

朝日新聞の書籍広告欄で見かけたため購入。
デジタルデトックスやネットの害悪について結構色々な本を読み進めているため、その一環として購入。
また新しい情報を得られることが出来るのではないかと考える。

質問2 本の対象読者は?

デジタル空間に違和感を持っている人
社会の分断の解消を考えている人

質問3 著者の考えはどのようなものか?

デジタル空間(論壇)が出るまでの日本のメディア状況

現在メディアのあり方として問題になっているように見える論点が、実は悪い方向に働いていなかったことを明らかにしている。

  • 新聞 の場合は、再販価格制度や軽減税率 があるため新聞の値段の下落、販売部数の下落をある程度抑えることが出来ていた。これが結局新聞社としての報道の姿勢が墜落しないようなつっかえ棒 になっていたようで、質の高い情報を質の高い選択眼で集めることになっていた 模様。
    しかしこれまでも各新聞社が数々の不祥事を起こしているところを見ると、システム自身に一定程度問題を包含している だろうと思われる。

  • テレビ放送 については、放送法でかなり明確に規制がかかっている(この状態でも!)。番組の内容は公正中立でなくてはならない、とか、BPOを実装している、そして最近は番組の内容についてもジャンル別に偏らないように法律で規制がかかっている
    これによりある程度問題のあるところはあるが歯止めがかかっている状況。

  • これらに対してインターネットの環境は、ほぼ一切の倫理的そして法制的な規制がない 。最近少しずつ整ってきてはいるが、成長の速度に間に合っていない

インターネットに規制がなさ過ぎるというのが問題を勢いよく悪くしている一つのファクターである。

・アテンション・エコノミー

これがデジタル空間で大きな役割を良きにつけ悪しきにつけ発揮している模様。
現在の検索に関わる広告のビジネスモデルでは、検索して記事などを閲覧している横に広告がある。その広告をクリックしてもらうために色々なことをしているのだ。
やっていることは後述することとする。
アテンション・エコノミーは基本的には脊髄反射的にクリックしてしまうようなものを用意して、人間の認知システムのうち「システム1」(反射的に行動し、熟考ないもの)を刺激して、それを経済活動に結びつけるよようなもの である。

・アテンション・エコノミーの問題点

まずは、個人の検索内容などから個人のプロファイリングをする。これに合わせた広告を記事に貼り付けていく、という手法。
こうすると反射的にクリックするので、クリック数で広告料をとれるわけで、これを最大化 しようとする。
そこには広告の倫理観もないのでとんでもない広告が入る可能性があるし実際に入ってきている模様。

・フィルターバブルとエコーチェンバー

さらに、検索内容をどんどん蓄積することによって、プロファイリングされた情報から漏れた情報はどんどんシャットアウトされる ようになる。こうなると、自分の心地よい情報以外が入ってこなくなる。そしてそれ以外の情報が表示されなくなるのであたかもなくなった かのようになり、自分の心地よい情報は世界中の人が好んでいる、と考える ようになる。(フィルターバブル )
このようなバブルに包まれたクラスターが複数存在しているのが現在のネットおよび社会の状況。これが分断の始まり であろう。
次に、そのクラスター内での意見交換などで同じような意見を何度も何度も聞くことによって補強がされてくる 。今までの論壇であれば、他の意見との論争があったため、そこまでひどいことが起こらなかったが、完全に純粋に自分のクラスターの意見が培養され補強されるので、他のクラスターとの軋轢が発生 するようになる。
そして、構成する人たちもも結局熟考のタイミングなくクラスター内で思考停止のような状態に陥る (マインド・ハッキング )。

・フェイクニュース

クリック数を稼げるので、金銭目的にフェイクニュースがどんどんと出てくる 。マインド・ハッキングをされた人々はいとも簡単に引っかかってしまう。

・誹謗中傷・炎上

同時にクラスター間、個人間で軋轢が出来やすくなる(認め合うことがなくなるため)誹謗中傷や炎上が頻繁に起こる ようになってくる。さらにその周りにいる人が認知の「システム1」で反応するのでさらに加速 する。

ここまでの記述が、今現在どののようなことで問題が起こっているかを克明に解き明かしている。

・解決法

これらの解法として、デジタル・ダイエット、という考え方を著者らは提示している。
これは、情報に接する(接種する)というのは、食べ物を食べる、ということと一緒であるという発想法
おいしいもの(スキなもの)ばかりを食べていると、栄養学的には非常に偏り問題となるのと同様、フィルターバブル内でエコーチャンバーのかかった情報ばかりを見ていると情報的にも偏ってしまう。
そのようにならないように、色々な方策を練っていくことになる。

  • 個人としての対応

  1. 現在の情報環境を理解する(アテンション・エコノミーか似いることを理解する)

  2. 「情報的健康」を意識する

  3. フェイクニュースにだまされない

  4. 情報弱者にならない(偏って見えなくなった情報に対してもアクセスするようにする)

  5. メンタル・ヘルスの向上

  6. 民主主義の健全化(さきほど認知システムの「システム2」(じっくりと考えて反応する)を意識的に働かせるようにする、ということ)

  • プラットフォーム上での対応

  1. コンテンツ・カテゴリーの公表

  2. 情報ドック(人間ドックをもじっている)の提供

  3. デジタル・ダイエットの提供(自分でプラットフォーム上のプロファイリングを調整することが出来る)

  4. アテンション・エコノミーに代わる経済構造の模索・探求
    現在のところサブスクリプションのビジネスモデルが候補に挙がっているが、これも懐疑的。いったん課金が始まると解約するのを面倒にしたりしてそのままとしてしまう場合が多い。
    PV数などがアテンション・エコノミーの指標になるが質などを指標にする必要があるかも。

  5. 認知過程の自由への配慮(個人の思考過程のプロファイリングをする場合本人の同意が必要であること。その過程は個人の秘密でもあることを認識して行動する)

  6. フィルターバブル対策を行う

    • フェイクニュース対策を行う

    • フェイクニュースの定義とファクトチェック団体の創設

    • ファクトチェック記事の効果的表示

    • メディアの信頼性表示の実現

    • アーキテクチャによる対策(問題投稿にアラートを出すなど)

  7. 排除のルール

  8. アルゴリズムの切り替え義務(選挙、大規模災害、パンデミックなどの場合は情報検索のアルゴリズムを切り替える。未成年者保護モードの実装)

  9. アルゴリズムの透明性を確保する

これらを管理するための責任体制やガバナンスについては以下のように考える

  • 責任体制やガバナンス

  1. 経営と編成の分離;新聞社で特に徹底されていたようだがそのような環境をプラットフォーム企業にも求める。

  2. 倫理委員会の設置

  3. コンテンツ委員会の設置

  4. 実態把握の義務を課す(営業秘密に抵触しないレベルでできるだけ実体を透明化する)

さらにマスメディア(放送、新聞など)、ジャーナリストに対しても基本原則を定めることを貸している

  • マスメディアの原則

  1. 信頼性確保

  2. アテンション・エコノミーとの距離の確保

  3. フィードバックループの防止(フェイクニュースをマスメディアが報道することによって相乗効果が生じフェイクニュースの核酸をさらに加速させないようにする)

  • ジャーナリストの責務
    人に何かを伝える主体として責任ある行動をとるようにする。アテンション・エコノミーの餌食や人身御供になるようなことはやめる。

さらに驚いたことに政府のあり方についても提言を述べている 。ここが特に画期的だった。憲法等にも論拠を求め、基本的に破綻しないようになっているのが特筆すべきことだろう。

  • 政府の基本原則

  1. 情報的健康に向けた取り組みを側面支援する憲法上の責務(決して主体者になってはいけない)

  2. 政府の直接介入・過剰介入の禁止

  3. DPF(データプラットフォーム)事業者の透明性・説明責任の担保

  4. 公正・公平な取引環境の整備(あえてDPFのポータルに新聞社塔の既存メディアからの信頼の置けるコンテンツを表示させるようにする。そこで既存メディアに対して経済的な補償をさせる)

  5. 情報リテラシー教育・啓発活動の実施

以上のような方針を打ち立ててそれぞれを推進していけば良い、という結論になっている。
最初のアウトライン構築、という意味では非常に良く出来ている のではないか。後は各セグメントで進捗などを調整しながら実現に向けて進めていくのみ。
ただしビジネスが関わるので巨額のお金が動くところ。うまく調整する必要がある

質問4 その考えにどのような印象を持ったか?

非常に理路整然とし、法解釈もクリアしているので今すぐにでも始められそうにも思った。
また、ここまで大変な状況になっているが、当のジャーナリストもその全貌を抑え切れていないところが残念 だった。そして周りで見ている読者の我々も完全に抑えられていない 状況。
このような著書がもっと注目されれば良いのにと思われた。

質問5 印象に残ったフレーズやセンテンスは何か?

<人間>にはそこまで期待できない、しかし、諦めるのはまだ早い。
この<人間>を<民主主義に入れ替えても答えは同じです。

→☆だからこそここまで骨太の方針を立てることが出来たのではないか。非常に暑いものを感じた。

啓蒙思想2.0とは、要するに、人間が弱き動物的存在であることを正面から認め(その点では認知科学の発展を指示し)、それにもかかわらず、人間が人間らしい合理的な判断をなしえるための仕組みないし環境を共同で構築しようというプロジェクト

→☆壮大で熱い。

質問6 類書との違いはどこか

現在の社会の分断をきっちりと論理で説明しきっているところ

質問7 関連する情報は何かあるか

社会生活に関わる憲法の解釈について

質問8 キーワードは?(読書ノート用)

(1~2個と少なめで。もう一度見つけたい、検索して引っかかりにくい言葉を考える)
#憲法
#熟考

まとめ

日経BP出版の著作。当該社で一番のあたりの本とも考えられる。


久しぶりに圧倒された著作でした。ここのところ小説で内容に深く感銘したことはありますが、社会科学の著書でここまで感銘を受けたのは久しぶりでした。

個人で出来るところは小理屈野郎も対応していきたいと考えています。

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