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人工雪について そんなに悪いものなのか 1スキーヤーの考察

北京冬季オリンピックが終了しました。
個人的にはスキーのアルペン競技を最も見たいと思っていたのですが、時差があまりない関係から午後に決勝が開催され中継されることが多かったのでごく短時間しか見られなかったのが残念でした。
他の競技では、日本人選手の活躍もたくさん見られたので、面白かったです。

今回会場で問題になったことの一つとして「人工雪」の問題があると思います

北京冬季オリンピックの開催された場所は北京から200キロ弱離れたところらしく、上空から俯瞰したドローン映像を見るとかなりの内陸部だと思います。
内陸部では気温がガツンと落ちるものの降雪(降雨)はあまり期待できないはずです。
そのことからどうしても人工雪に頼らざるを得ない環境であったことが推察されます。

私のホームゲレンデのブランシュたかやまスキーリゾートは、長野県、諏訪湖の少し北にあるところで、いわゆる「中信」地方です。
標高は結構あるのですが(スキー場の標高は最高で1807メートル、最下部でも1350メートルあります)、雪は北アルプス(白馬など)で降った後の乾燥した空気が流れ込むところです。ですので結構冷えるのですが、降雪は少ないとされています。スキー場の晴天率は80%を誇ります。
ですので人工降雪機を使った人工雪をメインに、時折降る自然の雪をミックスしたゲレンデになっているようです。

ここで人工雪について少しまとめてみます。

人工雪の2つの種類

人工雪には大きく分けて2種類あるようです。
今回この記事を書くために調べてみたら第3の降雪機が出てきているようですが、此方は特許の関係か細かい動作原理を公開していないようです。

ICS

「アイスクラッシャー」もしくは「人工造雪機」とも言われるものです。
仕組みは以下の通りです
現地に製氷機のプラントを作りドンドン氷をつくります。
その氷を細かく砕いてゲレンデにいくつもの氷の山をつくります。ある程度の大きさになったら、整地をするブルドーザーみたいなやつ(ピステン、っていいます。ピステンブーリーという機種名から来ています)でならしてゲレンデにするものです。
メリットとしては気温がマイナスにならなくてもゲレンデをつくれることです。
また、氷を砕くときに大きさを調整して、大きめのものを地面の近くに、そして小さめのものをゲレンデ表面に撒くことでゲレンデのフィーリングを向上させていたりするところもあるようです。
デメリットとしては、フィーリングはあまり良くありません。かなりざくざくの春の雪みたいです(いわゆるシャーベット状)
製氷機をガンガン回さなくてはならないので非常にコストがかかるようです。数トンの氷でも見た目ちょっと小さな雪山程度ですので膨大な氷が必要となります。
それでもシーズンとっかかりから滑れるメリットは大きいです。
また、人工造雪によってゲレンデの下地をつくるという感じで使っているスキー場もあるようですね。

人工降雪機によるもの

次に紹介するのが人工降雪機。

此方は気温が大体マイナス2~3℃程度まで落ちないと使えません

仕組みは以下の通りです。
構造としてはファン型とガン型がありますが、原理は一緒です。
大気中で霧を吹きそれを飛ばす、というイメージです。
ファン型は、大きなファンの周りに霧吹きの口が並んでいて、ファンが動くと同時に水を供給し、霧を出すようにします。
ガン型は、ゲレンデの端っこに設置します。形状は棒状のもので圧縮空気を押しだし、そのノズルの横に霧吹きが付いている、という感じです。

メリットとしては人工造雪機よりキメの細やかな雪ができます。そして、場所によってはほぼパウダースノーのような雪ができます。くだんのブランシュたかやまスキーリゾートは、人工降雪オンリーで状況が整えば、雪を握っても固まらない、アスピリンスノーになっているときもあります。
また、自然降雪があると、ゲレンデの毎日の整地の時に自然雪と人工降雪を混ぜ(ミル掛けというみたいです)、その後に整地をするようです。
軽いので滑っているフィーリングもかなり良いです。自然降雪がある程度混じっているとさらにフィーリングが良くなります。そして適度に難しいのでしっかりとしたエッジ操作や体重移動などを行わないと、うまく板を操れません。そういう意味では、非常に練習になる雪とも言えます。こんな雪ですから、白馬地方のゲレンデ(自然降雪)で滑ると、めちゃくちゃうまくなった気がします
デメリットとしては、ゲレンデを覆い、滑走できる程度まで降雪させるには非常に時間がかかると言うことでしょう。ブランシュたかやまスキーリゾートで、シーズンはじめに交接させるときは2週間程度の時間がかかっているようです。
また、気温が-2~-3℃程度まで落ちていないと動かせないので(単に水を撒いていることになります)、天候条件が大きく作用すると言うところでしょうか。

第3の降雪機

気温がマイナスにならなくても降雪できるマシンができてきたとのことです。
詳しい仕組みについては開示されていないようです(特許がらみでしょうか)。此方を使ったゲレンデを滑走したことはないので詳しいことは分かりませんが人工降雪も進化しているといえるでしょう。

アルペン競技における雪質についての考察

一般的にアルペン競技(回転、大回転、スーパー大回転、ダウンヒルなど)は、カチコチのアイスバーンがコースメイクのデフォルトとなっているようです。
ですので、柔らかい雪の場合は硫安(硫酸アンモニウム)を撒いて、固める、ということはよくやることのようです。
硫安は肥料としてもよく使われるものの一つのようで(肥料の場合は硫安と一緒に石灰も撒く必要があるとのことですが)、ゲレンデに撒いても大きな心配がない、ということも硫安を使う理由の一つではないかと思います。
今回の冬季オリンピックでは男子回転のごく一部を見たのですが、第1滑走で4割ほどの選手がコースアウトをしていたようです。
私も数人の滑走を見てみましたが、あっ、と声を上げるような感じのこけ方でした。
そのときは自然の降雪もあり、かなり積もっていた模様
おそらく自然降雪の上を滑る感じでエッジングをしたところ、しばらくしたら下に硫安で固められたコースが出てきたため、エッジをかけ過ぎの状態になってバランスを崩しているという感じでした。
また、コース上の自然降雪の深さは場所によってかなり違ったようでそれも対策をしにくくしている原因のようでした。

このような状況から考えると、(あくまで理論的な話で実際のオペレーションで可能かどうかは別として)、降雪がある間は、天候不順ということで順延にしておいて、しっかりとコースメイクをしてから決勝を行えば全然結果は違ってきたのではと思いますし、滑る選手も、見る観客も違った印象があったのではないかと思います。
そういう意味では残念でした。

さて、次はノルディック競技について考察してみます。

ノルディック競技における雪質についての考察

私がテレビを見ていたときはノルディック競技については天候のよい中で行われていたような印象があります。
ただし、気温が非常に低かったのか、ストック(ポール)を地面にさして体重をかけて動かしているときに、低音の雪特有の「ギシギシ」という音がすごくしていました
かなり雪温が低かったのだと思います。
雪温が低いとワックスの効きが悪くなってきます。ワックス選びも競技の重要なファクターの一つ(昔、アルペン競技でスキーのワックスの盗難事件がちょこちょこあったぐらいで、各チーム、各選手、ワックスのサプライヤーそれぞれにかなり研究しているようです)。此方の方はコースに自然降雪があったのかは分かりませんが、コースメイクは見た限り良好であったと思います。ちなみに平昌大会の時は黄砂が降ってきていたからか雪が茶色くなってました

人工雪は悪なのか

報道で大きな問題になったのはスノーボードのハーフパイプなどの競技だったような気がします。
ハーフパイプ等の施設についてはそれ専門の職人さんがいらっしゃるようですが(奥美濃のスキー場などには常駐されているようです)、私自身スキーヤーでハーフパイプに入った経験はないので詳しいことは分かりません。
しかし、上記のようにスキー競技でも問題になることがいっぱいあったので、きちんと整備できていなかった可能性は十分にあると思っています。

ここでちょっと気になった報道は、「人工雪で競技をするのは問題」という論調が出てきていたことです。
それは違うと思います。
上記の降雪機の種類のところで色々な雪質についてのフィーリングをお伝えしました。
そこから見えてくる結論は、整地やミル掛けをきっちりしたゲレンデあれば人工雪(人工降雪)でもかなりいいということです。(北京冬季オリンピックの会場ではICSは使う必要がないぐらい寒いので人工降雪機でゲレンデメイクしていたと考えます)

また、スケートリンクでも、リンクの建物ができてすぐのため、建物からの微細な埃が落ちてきて建造後数年は本当のリンクの性能が出ない(記録が出にくい)という話を聞いたことがあります。

以上のようなことから以下のように考えます。

今回の大会は、(意地悪な見方をすると)大会をできた、ということに非常に大きなポイントがあったのかも知れません。北京は夏季および冬期の両方のオリンピックを開催した史上初の都市となりました。
その事実が中国政府にとっては重要だったのかも知れないな
と考えています。

まとめ

北京冬季オリンピックで問題になった「人工雪」について思索してみました。
人工雪は決して悪くはなくむしろスキーコースの可能性を広げるものだと考えました。その上で、大事なのはコースのコンディションをつくることではないかと考えました。
今回の大会では降雪やコースに雪があるという事実のみに拘泥した可能性が十分あることが考えられました。

今回は人工雪について思索をしてみました。
次回以降は、オリンピックについて、数冊の書物を読んでみて書評を書きつつ考察をしてみたいと思います。
ということでしばらくオリンピックの総括関連の記事が続くことになります。

お楽しみに。

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