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新TOKYOオリンピック・パラリンピック物語 を読んで 2020年東京大会について考えてみました

さて、前回は64年東京大会について見てみました。
次は、(懸案の)20年東京大会についてです。

まずは恒例の私の読書ノートの凡例をお示ししておきます。
読まれるときの参考にしていただければ幸いです。

・;キーワード
→;全文から導き出されること
※;引用
☆;小理屈野郎自身が考えたこと

まずは書籍のメタ情報を。

書名 新TOKYOオリンピック・パラリンピック物語
読書開始日 2022/02/25 14:54
読了日 2022/02/26 23:34

感想

概略

64年東京大会について野地氏がまとめた書籍を読んだ。
その続編たる2020年東京大会についての論考。
さて、今回はどんな技術などが出てくるのだろうか。また、この大会をどのように総括するのだろうか。楽しみだ。

読了後の考察

64年東京大会について書かれた「TOKYOオリンピック物語」を先に読んでいたので、少し迫力に欠けるところを感じた
それは野地氏の文責ではなく、すなわち、大会にかける国民の意気込みによるものではないかと思った。
また、東京大会の理念を「(自身からの)復興五輪」としていたのがいつの間にか「(コロナ感染症からの)復興五輪」になっているところは気になっていたのだがその原因もよく分かった。
それならそういう方向で話を進めたらもっと協力が得られたのに、と思うが、森喜朗の失言が大きく影響したのかも知れない。彼が招致に尽力したが彼が最後に開催による飛躍の機運を潰してしまったような気がして残念でならない。
ただし、開催を熱望した人たちが、通奏低音として「未来の子供たちのために」と思っていたのが非常に大事だと思う。

本の対象読者は?

オリンピック(特に今回の20年東京大会)について知りたい人。
20年東京大会の総括を(個人的に)したい人

著者の考えはどのようなものか?

今回も64年大会の時と一緒で、いくつかの業務について細かく見ている。

1.スポーツマーケティング

この分野の発展が著しくなったため、オリンピックは徐々に商業化するようになったと考えられる。
しかし、特にマイナー種目の場合はプロ化しないとスポーツ大会は成り立たない。そういう意味でコインの表と裏の構造になっているところも垣間見える。
その中で、まずは東日本大震災が起こってすぐに東京招致を思いつき、その勢いで招致してしまったこと、そして大会直前に新型コロナ感染症で世の中がガタガタになり、世論が中止に向かっている中ヨーロッパの人々が24年パリ大会を「(コロナ感染症からの)復興五輪」としようとして、東京大会を中止する方向に持って行っていたこと、そしてバッハ会長が東京大会開催に関して、組織員会の幹部の首を切ろうとしたりしていたところが見え、オリンピック組織のいい加減さと既得特権に甘える姿も描いている。
この著書の文脈でいけば20年東京大会はあえて開催して良かった(というかむしろ賛成)と考える。

2.オリンピックユニフォーム

ポリエステル素材が良くなってきたことからオリンピックのユニフォームをつくることになった紳士服のAOKI。
丁寧にものをつくることについて説明している。
これはマニュアル化できるところはしたものの、できないところは人力で丁寧に対応するというある種理想の組織を作ることができた人の話だ。

3.ポディウムジャケット

表彰台に上るときに着るウェアの作成秘話。此方はアシックスに話を聞いている。
アシックスは試行錯誤をしっかりしている印象を受けた。
アシックスの足跡を追い、彼らの発想は少し違うな、と思っていたがスポーツマーケティングの発想からいくと正しい文脈で動いていると言うことになることに気づいた。(もちろん違和感は残るが)

4.セコムのその後

スポーツイベントの警備は、ひたすら人力の警備だった。それを今回の20年東京大会で色々な装置を使いながら機械警備と融合できた。そのチャレンジに対する話。
普段からいつも進歩しようとしているから、この業績につながったのだろうと思う。

5.顔認証による入退場管理

NECの顔認証に関する話。
まずは指紋認証や虹彩認証で経験を積んだ後に顔認証に進んできた。かなりシステムとしては堅牢で、各国政府に採用されているようだ。
顔認証では顔の写真を取り込むのではなく要素を測定しているだけ、ということをようやく理解できた。
顔の写真を撮っているのに、なぜ個人情報を抜かれたことにならないのか、ということの結論はここにあったかも知れない。

6.音響設備

大きな会場なので音のタイムラグが目立つようになる。
それをコンピュータで計算し、どこで聴いてもタイムラグなく聞こえるようにしたシステムについて。
競技を見ることに没入できるようになりより善い体験ができるようになる、というもの。

7.CASEとMaas

トヨタ自動車による運送に関する話。
選手村の中では自動運転による運送(Maas)を、そして選手村と競技場間は、バスなどによる運送が行われた(CASE)。
これからの自動運転につながる技術をトヨタはすべて手中に収めていると言うこと。そしてオリンピックという大きな実験場で実際に実験をして成功裏に終わっていること。
実際に自動運転を目指して開発している会社は複数あれど、ここまで系統的に開発できているところはないのではないかと思う
これについてはもっと報道で触れていてもよかったのではないかと思う。。
トヨタ以外の会社は逆に言うと心配。
ホンダは航空機に活路を見つけうまくいっているが、その他の会社は…

8.光ファイバーと超リアルな映像体験

電信通信についてはNTTが光ファイバー化を進めていたが、ここに来て花が開いている状態と思われる。
この超高速通信網が普通に使えることによって超リアルな映像体験ができるようになってきたと考える
この超リアルな映像体験というのはなかなか本で読んでいてもイメージができないが、読んでいる限りはかなりリアルなもののようだ(船酔いのような状態になったりするらしい)。
人口が1億人を超えるような国家でここまで光ファイバーを敷設できている国はないとのこと。もちろん国土の大きさなど、色々な問題はあるが、NTTはインフラ投資という意味では良くやったと考える。
おそらく投資をし出したときはここまですごいことが起こる妥当とは考えていなかったはず。それにもかかわらず進めてきたところに先見の明を見る。

9.子供たちの未来に投資する

今回のオリンピックは、64年東京大会で「オリンピックはすごい」という原体験があった人たちが招致したようなもの
その原則に気づいているかどうかは分からないが、子供たちにいいスポーツや運動の環境を、ということで芝生を植える運動をしている人たちがいる。その人たちに焦点を当てている。

焦点を当てたトピックスの中で最初のものと最後のものが特に印象的だった。

その考えにどのような印象を持ったか?

開催か延期か、はたまた中止かでもめにもめていた中で、選手が一番しんどい思いをしていたのはもちろんのことだが、20年東京大会という場をつくっていた人たちも同じように苦労をしていたことに気づかされた。
また、どの方向にするか意思決定をする人たちも苦悩しながら、未来への影響を考えつつ開催を決定したことに気づいた。ただ残念なことは意思決定をする人の中にも、そして場をつくる人の中にもとんちんかんでいいかげんな人が特に今回は多かったのではないかと感じた。
64年大会を飛躍のきっかけにしている企業が一定数あると言うことにも感銘を受けた。
いろいろあるけど、やって悪かった、ということはなかったのかも知れないと感じた。

印象に残ったフレーズやセンテンスは何か?

※子供たちに芝生のあるところで遊んでもらいたい。サッカーでなくともいい。子供たちに芝生をあげたい。



→☆芝生の上だとけがもしにくい。スライディングも平気でできる。たいしたことはない気づきだがグランドという一番基礎の所の発見だけに発見したことは大きいと思う。


※実際に芝生化した学校に伺うと、土のグラウンドの時よりも子供たちが外で遊ぶようになったとか、良い気分転換になるので授業にも集中できるようになった、等という話を良く耳にします。

→☆緑は見るだけでも心和むもの。それに触れて体験できるというのはもっと影響が大きいはず。なるほどな、と思った。

※野球、サッカー、ゴルフみたいな人気スポーツはオリンピックがなくても困らないんです。デモ、ヨットやウィンドサーフィンみたいな、人気がそれほどないスポーツにとってはオリンピックしかないんですよ。オリンピックがなければ潰れます。(中略)弱小スポーツはオリンピックしかない


→☆だからこそのプロ化が必要ということだろう。そうなるとオリンピックの存在意義も出てくるはず。いかに商業主義といいバランスをとることができるか、ということが大きなポイントとなってくるはず。

※じじいが前に立つのは止めさせないとダメだ。子供を大切にしないとオリンピックは成功しない。(中略)2020年の東京大会を中心になっている連中ってのは1964年の時、子供だった奴らなんだよ。


→☆確かに20年東京大会では、子供、というのが全然見えなかった。開催する側も、参加する側も。
これは非常に大事な視点だろう。オリンピックだけではなくうまくいく業界などは先を考えて(=子供をうまく巻き込んで)「投資」を行っている。オリンピックも歴史が長くなってきたためそのようなことが必要なフェーズになってきていると思う。

※未来とは子供のことだ。子供たちが体験した現実がいずれ未来になるとも言える。子供たちが未来とレガシーの物語を創る。

類書との違いはどこか

批判的な論調が多い(個人的にもあまり評価できないしオリンピックについてしっかりと考察したいなと思っていた)20年東京大会について新しい評価軸を持っているところ。

まとめ

この著作を読むことによって、大会の理念がねじ曲がっているように見えたが、実際の所はそれほどねじ曲がったと考える必要がないのかな、と思った。
一つの出来事を評価する場合、俯瞰的に見ることも大事だが、実際の(「地べた」の視線レベル)でも同時に見てみることにより、真実に近づけるのではないか、と考えた。

さて、次は違う論調の64年大会および20年大会についての著作を読んでいきます。

乞うご期待。

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