想界創作論の共有の難しさ

前回は想界創作論の3本の柱について述べた。そして去る2020年8月23日に実施した第1回想地研discord会議にて前回のnoteを資料として出したのだが、想界創作論には曖昧さや無理のある点があることが白日に晒される結果となった。

想界が共同製作になるまで

さて、想像地図は元々は想像地図の人ただ1人で創作を行っていたが、現在は複数名による共同製作となっている。

前回の話と重複するが、想界は元々は日本のどこかという設定だった。それが、描画範囲が広くなりすぎて「日本のどこか」どころか「地球のどこか」に押しとどめておくことは不能になり、「架空惑星の架空の国(城栄国)」という設定に移行した。それでも最初は「なぜか日本語とたまたま同じ言語が使われている」という設定だったが、「地球ではない異世界なのに日本語が通じるのは…」というツッコミを受けるようになり、城栄国の言語も架空の言語にする構想が浮かび始めた。

そこで中国語のような言語である「千織語」と、日本語のような言語である「更紗語」を作ることが2014年に計画され、実際に創作が始まったが、開始から1年ほど経った頃に発生したトラブルにより架空言語計画は中断に追い込まれた。そして2016年、「城栄国では本当は更紗語という言語が使われている。しかし、想像地図の地名はそれを日本語に訳したもの(日本語版)である。」という解釈を適用することが宣言され、実質的には架空言語の開発は中止状態となった。

その後、2017年と2018年に想地研に1人ずつ新規メンバーが加入したが、2人とも駅名替え歌作者であり、この段階ではまだ本格的に共同製作の道が開くことにはならなかった。

しかし2019年8月、想地研としては初となる架空言語担当メンバーが加入し、千織語の創作が再開されることとなった。11月にも架空言語メンバーが2人加入し、更紗語や英語風言語の創作も行われることになり、6人体制となった想像地図は本格的に共同製作への道を歩み始めた。

ところが、そんな状況で発生したのが新型コロナウイルスの世界的流行である。計画されていた会合などは中止になり、メンバー間の連絡が必ずしも綿密に行われなかった結果、各々バラバラに創作を行う状況が続くことになってしまった。また、アイヌ語風の言語や韓国語風の言語を創作する計画については目立った動きがなかった。

この状況を打開したのが、アイヌ語風言語作者の加入である(この言語はヘツクース語‎という名称がつけられた)。ヘツクース語‎の地名は、日本語版でもヘツクース語‎の音に直接当て字をする方式を用いることもあって、地図製作と言語製作が相互に及ぼす制約が大きいことから、両者間の綿密な連絡が不可欠と言うことになった。むろんこのことだけがきっかけではないが、この時期から相互に及ぼす影響について考える機会も多くなっていった。

そこで第1回想地研discord会議が実施されたのだが、創作論の3本の柱について、必ずしも全員が共有できているわけではないということが明らかになったのだ。

創作論共有のために

特に問題となったのは創作論の1番目の柱である田谷野解釈である。

田谷野解釈は、想像地図の作者は世界の造物主ではない、とする考えのことである。これは、想像地図世界(想界)は作者の理想を体現する世界ではなく、想像地図は旅人や科学者の立場から演繹に基づいて描くものであるという意味である。すなわち、「こっちがこうなっているのだから、そっちはこうなるはずだ」「現在がこんな結果になってるのだから、過去はこうだったはずだ」という推理の積み重ねに基づいて作るものであって、作者の嗜好や意向を反映してはならない、という原則である。

しかし、創作物が創作物である限り、作者の恣意性を完全に排除することは果たして可能か。そしてこれまで行われてきた「夢で見た風景を創作に活かす」という行為はこの原則に反しているのではないか、などの意見が上がった。

そもそも田谷野解釈が想定していたのは「エゴ化の排除」だっただろう。この考え方自体に反セレニズム的意味があるのは否定できないが、それでも完全に嗜好や意向を無菌室のごとく完全排除することは本来の趣旨ではなく、そもそもそれは不可能だろう、と。「好きとリアルが対立するならリアルを優先する」「作者の個人的嗜好は最低限にとどめる」というのが本来の趣旨だったはずだ。

それでも明確な定義ではないから曖昧さが残るだろう。そこで第2回会議ではそのことを重要な議題としたい。

また、設定の進捗によりメンバー間の設定の相互影響事項も増えてきたのでその当たりの議論も重要だ。

昔は地図上の地名は全て「日本語で名付けてから更紗語に訳す」という前提だったが、今は「先に更紗語で名付けてから日本語名を考える」という操作が必要になりそうな箇所もでてきているのだから。


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