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予想以上に「謎解き」と化した更紗語創作

想界の言語事情

トップ画像のように、想像地図世界(想界)の地名は基本的に日本語で書かれている。しかし、本当は想界では日本語は通じない。2020年の時点で公開している地図は、「想界の言語は、地名のような固有名詞でさえも日本語に訳されている」というのが公式な解釈である。

地図イメージ用画像20201112-002

例えば、「赤松」という名前の都市は、向こうの言語で赤い松という意味の地名を日本語に訳したものであると解釈される。

このような解釈を行えば「異世界なのに日本語が通じる」というおこがましさは回避可能だ。

更紗語

そうは言っても向こうで話される言語がどんなものなのか、その詳細に迫ってみたくなるのが人情だ。

向こうで話される言語の名前は「更紗語」。その名前自体は2014年に定まっていたが、実際に言語の創作が開始されるまでには、5年待たなければならなかった。

2019年11月に、想像地図研究所に更紗語担当のメンバーが加入したことにより、更紗語の製作は本格的に開始された。

更紗語の特徴

細かい話はTanukipediaの記事に書いてあるが、大雑把に言うと

・母音は [a] [i] [ə] [o] [u] 5種類。日本語に存在する エ [e] がない代わりに、 [ə] がある。[u] は、東日本方言で見られるような口を横に開いたウの音ではなく、関西弁のウのように口を強くすぼめて発音する。

・開拗音だけでなく、合拗音がある。すなわち、キャ kya や ミョ myo のような口蓋化音だけでなく、 kwa や swo のような円唇化音もある。(kwaは「桑 kuwa」のように2音として発音するのではなくて、韓国語の「과」のように1音として発音する。)

といった辺りが日本語との大きな違いである。

地名が翻訳されていると言うこと

「南栄(なんえい)」は南の栄えている都市という意味で解釈が可能だし、「日下部(くさかべ)」は陽の当たる場所という意味で解釈が可能だ。想界の大部分の地名は、更紗語の意味を日本語に意訳したものであると解釈できる。最初に挙げた「赤松」を含めて、このようなタイプの地名は意訳型と呼んでいる。

ところが「日里屋(ひりや)」や「保蘭(ほらん)」はどうだろう。無理矢理に表記から意味を見出すことも不可能ではないのかもしれないが、やや不自然さが拭えない。そもそも日里屋も保蘭も、地図を描く段階においては音が先に決まって漢字表記は後から決まったものである。だからこのような地名は、「意訳されたもの」と無理に解釈するのではなく、「更紗語の音を写し取って漢字を当て字したもの」と解釈した方がスッキリする。このようなタイプの地名は音訳型と呼んでいる。ただし、日本語と更紗語で発音体系が異なる以上、元の音を完全コピーできているとは限らないことには留意しなければならない。例えば「日里屋」はフィリーヤという音の地名を映したものだと想定されている。

意訳型は地名の意味が分かり、音訳型は地名の音が分かる。が、それだけでは更紗語の単語を知ることはできない。

しかし、「同名の地名が、あるところでは意訳になり、別の所では音訳になっている」というケースを見出せれば、単語を知ることができる。また、似たような地形に似たような名前がついているなら、地形から意味を特定できる。

蓮間という地名

想界には「蓮間(はすま)」という地名がある。これが音訳だとすると、語尾の「-ま」は何らかの地形を表していると考えることができる。そういう目線で見ると、想界には「-ま」という語尾を音訳地名が幾つかある。代表例は「為手留間(いてるま)」だ。

両者に共通する特徴は、川があることだ。「-ま」は川という意味を表している可能性があることが分かった。

江川と古村

さて、想界において淡路島のような名前の島は「江川(えがわ)島」という名前である。一方、阪急淡路駅にあたる駅の名前は「古村(こむら)駅」である。とすると、ひょっとすると江川と古村は更紗語においては同じ地名かもしれないという予想が成り立つ。

「江川(えがわ)」が意訳で、「古村(こむら)」が音訳だとするなら、更紗語で ko は「江」の意味を表していると考えることができる。一方で mura という音が「川」という意味を表しているとなれば、先程の考察で「-ま」が川の意味だという考察結果と矛盾してしまう。

ところが、更紗語には合拗音があったことを思いだしてみよう。更紗語には mwa という音が存在する。蓮間や為手留間は、mwaという音が「ま」という音として拾われた一方、古村ではそれが「むら」という音として拾われたと考えてみれば、話は丸く収まる。

実際にはこの考察だけではなく他の状況証拠もあるのだが、ひとまず mwa が「川」という意味であることが分かるまでには、おおよそこのような考察を経ている。

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