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『ライトノベルの新潮流』イベントでいただいていたご質問への回答
先日、『ライトノベルの新潮流』という本の刊行を記念して、新宿ロフトプラスワンにて、「何がこれからのライトノベルを作るのか? ~黎明期から未来まで~」というイベントを開催したのですが、その中で以下のご質問をいただいていました。
会場現地での質問ではなく、配信(ツイキャス)コメントという形であったため、回答しそこねていたのですが、いまさらながらお答えしてみたいと思います。
●ご質問
サンチュー @tomo_int
質問が可能であれば…。今回の新刊は、ラノベの歴史や現状を辿る概説書であり、ラノベにあまり詳しくない読者向けに作られているかと思います。著者の皆様の立場から読者(ラノベ初心者)に対し、この書籍からラノベのどんなところに一番興味を持ってもらいたいでしょうか?あらためてお願いします。
●回答
「ライトノベル」という言葉が指す対象が、時代によって変化して来ていることに注目してほしいと思っています。
2000年代前半くらいまでなら、ライトノベルの意味を問われても「アニメ・漫画風のカバーイラストと本文挿絵のある、スニーカー文庫やコバルト文庫のような若者向けの文庫レーベルから出ている小説」で済みました。
もちろん、この定義からはみ出していても多くの読者から「ライトノベルである」と認識されていた作品は存在しましたが、それは一部の例外として扱えばそれで済んだわけです。(※1)
しかし、いわゆる「ライトノベルブーム」以降、それまで例外として扱われていたタイプの作品が増加し、上記の定義で「ライトノベル」を説明するのが難しくなってきます。
『ライトノベルの新潮流』本文でも指摘されていますが、一般文芸レーベルの中でもライトノベル的な体裁の書籍が出るようになりますし、ライトノベルと一般文芸の間のようなレーベルも出現します。また、『新潮流』で指摘するのを忘れていた気がするのですが、紅玉いずき『ミミズクと夜の王』(電撃文庫)のように、一般文芸に近い体裁の書籍がライトノベルレーベルから刊行されるケースも出てきました。(※2)
2010年ごろになると、アマチュアの作家がウェブ上で発表した文章が書籍化されるケースが増えてきます。
アルファポリスやエンターブレイン・ホビー書籍部が刊行していた四六判ソフトカバー書籍に注目が集まり、これらも広義の「ライトノベル」として扱われるようになっていきます。ますます「ライトノベル」の範囲が広範に、そして曖昧になっていくわけです。
ここでそもそもの話をしますと、「アマチュアがインターネット上で発表している小説は、ライトノベルと呼べるのだろうか?」という問題も浮上してきます。ほとんどのウェブ小説にはイラストが付いていませんし、出版社やレーベルといったカテゴリには属していません。しかし、いわゆる「なろう系」と呼ばれるウェブ小説群は、多くの人々から「ライトノベル(的)である」と認識されています。
つまり、「ライトノベル」という語は、ウェブ小説の隆盛によって旧来のイメージを解体され、再構成を余儀なくされたのだ……と言うと大げさですが、2010年代はライトノベルという言葉にとっては、大きな転換点であったと言えるでしょう。
以上のような流れを踏まえた上で、2020年代以降、「ライトノベル」という言葉がどう変化していくか、新たにどんなものを包括していくかに注目してほしいと思います。
次世代の「ライトノベル」がどんな姿をしているかは、誰にも分かりません。
もしかすると、いまノベルゲームと呼ばれてコンピューターゲームの1ジャンルとして扱われている作品も、ライトノベルの一種として扱われる日が来るかもしれません。(※3)
ここ数年、流行る流行ると言われつつあまり流行る気配のないチャットノベルも、規模が大きくなってくればライトノベルとして扱われるかもしれない。
ひょっとしたら、YouTubeでたまに見かける、簡単なイラストに読み上げ音声をつけた動画だって、ライトノベルになるかもしれません。
我々の想像もつかない方向へと発展していく可能性を秘めている「ライトノベル」。
その未来に、熱い視線を注いでいきましょう!
……と、こんな感じでいかがでしょうか。なお、この回答は共著者を代表するものではなく、あくまで自分(松浦)個人の意見です。ほかの著者は、また違った考えがあるのではないかと思いますが、とりあえず自分は上記のような願いを持っています。
※1:例を挙げるなら、文庫ではなくノベルスで刊行されていた『魔界水滸伝』や『宇宙皇子』など。
※2:改めて考えてみると、「一般文芸」というのは、なかなか興味深い言葉です。この言葉はライトノベルの読者が、ライトノベル以外の小説群を指すために使い始めたものだと記憶しています。電子書籍の普及が「紙の本」「物理書籍」という言葉を生み出したように、ライトノベルが発展しなければ「一般文芸」という言葉も生まれなかったであろうと思います。
※3:そういえば、過去に「ノベルゲームはゲームと言えるのか?」なんて論争もありましたね。
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