『鉄拳7』の思い出 稼働前の話(1)

■前書き

 『鉄拳7』稼働前後の思い出をつらつら書いていきます。書いとかないと忘れるので。というか、すでにだいぶ忘れている。
 大部分はうろ覚えで書いているので、明確な事実関係の間違いなどあれば指摘してください。

 まずはアーケード版『鉄拳7』稼働前のことを書いていきます。
 いまでこそ「世界的大ヒット作品」という名声が盤石になった『鉄拳7』ですが、最初から順風満帆とは言えなかったという話です。

■稼働前 2014年7月 タイトル発表

 『鉄拳7』が制作中であることが公式に発表されたのは、2014年7月14日にアメリカ・ラスベガスで開催された格闘ゲームイベント「Evolution 2014」でのこと。
 短いトレイラー映像が公開され、「『鉄拳7』では三島家の過去にスポットが当たるらしい」ということが判明。

 また本作のゲームエンジンに、エピックゲームズのアンリアルエンジン4が採用されることが発表された。
 アンリアルエンジンを採用した格闘ゲームとしては、同年春にアークシステムワークスがリリースした『GUILTY GEAR Xrd -SIGN-』という前例があったので(アンリアルエンジン3を採用)、「これからの対戦格闘ゲームは、描画周りでアンリアルエンジンを使うことが増えそうだな」と感じた。

稼働前 2014年7月 二つの懸念

 正直な話、この時期は『鉄拳』シリーズの将来に大きな不安を感じていた。特に強い不安を感じたポイントは二つある。

 一つは、前作の『鉄拳タッグトーナメント2(鉄拳TT2)』のクォリティを越えられるのか、という点。
 『鉄拳TT2』は2011年に稼働した『鉄拳』シリーズオールスター的なタイトルだ。複雑なゲームシステムや、膨大な数のプレイアブルキャラクターを擁しながら、良質な対戦バランスを実現した作品で(※1)、コア層のプレイヤーからの評価が高かった。
 『鉄拳7』はこの偉大な前作を上回ることが出来るだろうか?……というのが、まず一つ目の懸念点。

(※1:エディのガット~アウ・バチゥド(4LP,RK)のような極端に強い技は存在したし、ラースの万能さがプレイヤー間で話題になったりしたが、それでも「バランスの良い作品」という評価は覆らなかったと思う。)

 もう一つは、商業的な問題とプレイヤー人口の減少である。
 『鉄拳TT2』は良好な対戦バランスを実現したが、反面、商業的な成否に目を向ければ、お世辞にも成功したとは言えなかった。アーケード版も家庭用版も、商業的には失敗だったと言って良いだろう。前作にあたる『鉄拳6』(アーケード版は『鉄拳6BR』)と比べれば、人気の低迷振りは明らかだった。アーケード版のインカム、家庭用版の売上げ本数がそれを如実に物語っていた(※2)。
 要するに、「良いゲームなのにプレイヤーは少なく、メーカー側は儲かっていない」という状態になっていたわけだ。
 『鉄拳TT2』の時点で離れてしまったプレイヤー(主にカジュアル層)は、はたして『鉄拳7』がリリースされたときに戻ってくるのだろうか……?というのが二つ目の懸念点だった。

(※2:思い出深いのは、アーケード版『鉄拳TT2』稼働当初、複数のオペレーター(ゲームセンターの運営者、スタッフ)から「『鉄拳TT2』よりも、そのついでに導入した『ドラゴンボールZENKAIバトルロイヤル』のほうがはるかにインカムが高い」という話を聞いたこと。当時『鉄拳』シリーズに力を入れていたゲームセンターの多くはバンダイナムコゲームスとの関係性を鑑みて、『ZENKAI』もいっしょに導入してのだが、はからずも「ついで」の『ZENKAI』のほうが本命の『鉄拳TT2』よりも稼いでしまったという……)

■稼働前 2014年夏〜秋ごろ 続報

 個人的な話をすると、この時期はまだアーケードゲーム誌『アルカディア』があり、継続的に編集部で仕事をしていたので、『鉄拳7』の情報は逐次入ってくる状態だった。

 この時期の関心事はもっぱらネット対戦機能。

 家庭用の『鉄拳6』『鉄拳レボリューション』『鉄拳TT2』のネット対戦は、気になるレベルの通信ラグがあった。
 「軽く対戦して楽しむくらいなら別に良いけど、アーケードのオフライン対戦とは明らかに別物だよね」というのが多くのプレイヤーの共通認識ではなかったかと思う。

 また、「『鉄拳』シリーズのような展開の早いゲームは、ネット対戦に不向きなのではないか」という指摘もあったように記憶している。

 当時、家庭用の対戦格闘ゲームでは『ストリートファイターIV』シリーズが高い人気を誇っていたが、その人気を後押ししたのがネット対戦の質の高さ(通信ラグの少なさ)であったのは疑いようがない。
 しかし、『ストIV』のネット対戦が快適なのは、全体的にゲームの挙動を重くして入力バッファを取っているからで、レスポンスの良さを売りとする『鉄拳』シリーズでは同じことはできないんじゃないか……と一部のプレイヤーからは思われていたわけだ。

 なので、アーケード版『鉄拳7』で店舗間ネット対戦が実装されるという話を聞いて、「とうとうネット対戦できるようになったぜやったー!」と手放しで喜ぶわけにはいかず、「本当にやれるのか?」「操作が重くなったりしないのか?」という懸念が先にあった。

 加えて、ゲームセンターという環境も不安を増大させた。
 ネット回戦を使うゲームが『鉄拳7』だけなら安定した対戦ができるかもしれないが、ネットワークに繋がっているゲームはほかにもたくさんある。
 ちゃんとネット対戦に十分な帯域を確保できるのだろうか?

 当時、アーケードの対戦格闘ゲームでネット対戦を実装したタイトルは存在しなかった。
 成功すればアーケードの対戦格闘ゲームシーンへの大きな追い風になりそうだが、はたしてうまくいくのだろうか……?

■まとめ

 といったところで、今回の記事はおしまい。
 とにもかくにも、ロケテスト前の『鉄拳7』は、ぼくにとっては不安の大きいタイトルでありました。おそらく、少なからぬプレイヤーが同様の不安を抱えていたんじゃないかと思います。

 さて、今回記事タイトルに「稼働前の話(1)」とナンバリングをつけましたが、この記事が続くかどうかは分かりません。
 続きを書くとしたら、次は2014年10月〜11月に行われたロケテストの話をしたいと思います。

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